第54話


猿轡をかまされた私は、男たちによって視界も奪われ、荷馬車でどこか遠くへと運ばれていきます。


どのぐらい時間がたったでしょうか。


私は荷馬車から下ろされて歩かされ、ある建物内へと入らされました。


そこはホコリに塗れた、もう何年も人が住んでいないような場所で、その建物の奥の一室に私は連れてこられました。


「さて、こいつをどうする…?」


「これだけ別嬪だと、奴隷商に売り飛ばすのももったいないな…オークションはどう

だ?」


「いいねぇ…地下街で売り捌けばそれなりの金になりそうだ」


男たちは私を取り囲んで、私をどうするかを話し合います。


男たちはどうやら私がアルトリア家の令嬢であるとは気づいていないようでした。


身代金目的ではなく、単に奴隷商人に売り飛ばすために私を攫ったようでした。


「よし、決まりだ。こいつはオークションに売り出すことにしよう…」


「変態趣味の金持ちのジジイが高くで落札するに違いない…」


「これだけの容姿と体だ。きっと高値で売れるだろ…」


男たちは私を下卑た視線で見下ろします。


私は恐怖で体を少しも動かすことが出来ませんでした。


「よし…それじゃあ、恒例のお楽しみタイムといくか…」


私の処遇について決めた男たちが、今度は、舐めるような視線で私を見てきました。


私はその怖気の走るような男たちの視線によって、この後、何をされるのかを理解してしまいます。


「くひひ…せっかく攫ってきたんだ…ただ売り飛ばすだけじゃ勿体ねぇ…」


「俺たちで楽しまねーとな…?」


「ここには誰も来やしねぇ…ゆっくり楽しもうぜお嬢ちゃん…」


「安心しろよ、俺たち案外優しいからよ…乱暴に抱いたりなんかしねーよ」


「くひっ…大事な商品に傷がついちゃ値が下がっちまうからな…」


男たちの汚らしい手が私の服にかかります。


「あっ…あぅ…」


恐怖で固まった私の服を、男たちがナイフでさき、無理やり引き剥がします。


「うっひょおおおおお!!」


「こりゃたまんねぇ…!!」


「ぐちゃぐちゃに犯してえ!!」


下着が晒され、男たちが下品な声をあげます。


「あぅ…あぁ…」


私は口をパクパクさせます。


やめてください。


そう言っているつもりが、恐怖で言葉になりません。


男たちは一通り私を観察した後、とうとう下着へと手をかけます。


「いや…だ…」


私の頬を涙が伝います。


今から私はこの男たちに純血を奪われてしまう。


アルト様に捧げるつもりだった初めてを、こんなところで散らしてしまう。


そう考えると、涙は次々に溢れてきます。


「嫌だ…お願い、やめて…」


「うひひっ…それじゃあ、いただきまーす…」


私の頭の中にアルト様の顔が思い浮かびます。

お願いします、アルト様。


助けてください。


来るはずもないアルト様に、私は必死に縋ります…。


そんな時でした。


「おらぁっ!!」


ドゴォオン!


大きな音と主にドアが蹴り飛ばされました。


「なんだてめぇ!?」


「誰だぁ!?」


「どっから入ってきやがった!?」


そして壊れたドアから一人の男性が姿を現します。


「アルト様!!」


「待ってろニーナ。すぐに助ける」


そこにいたのは、アルトリア家の騎士…私の英雄、アルト様でした。




8秒。


それが、アルト様が室内にいた三人の人攫いを気絶させるのに要した時間でした。


戦闘職の中でも特別に秀でた力をお持ちのアルト様に、人攫いたちはなすすべなくやられてしまいました。


「ふぅ…なんとか間に合ったみたいだな」


人攫いをやっつけたアルト様は、剣を鞘に収めて一息をつきます。


「はぅうう…」


私は安心からか、完全に下半身のつからが抜けて立つことができません。


そんな私に、アルト様が手を差し伸べます。


「助けに来たぞ、ニーナ」


「…っ」


じわっと涙が溢れてきます。


もうダメかと思いました。


一生アルト様にお会いできないかと思いました。


でもまたこうして、アルト様は私を助けてくれました。


「ひぐっ…えっぐ…ありがっ…ありがうぅ…」


私はアルト様にお礼を言おうとしたのですが、うまく言葉にできませんでした。


そんな私にアルト様は、自らの上着をかけて、安心させるように背中をさすってくれました。


「もう大丈夫だ。ニーナ。もう大丈夫」


「はいぃ…アルト様…」


アルト様は私が泣き止んで落ち着くまで待ってくださいました。


「もう、大丈夫です…アルト様」


「そうか」


「ありがとうございます…また、助けられてしまいました」


「ああ」


その後、アルト様は私をおぶって屋敷へと帰還。


お父様の元へと私を送り届けて、この件は無事に解決することとなりました。


あぁ、私はまたアルト様に助けられてしまいました。


一度ならず2度までも。


この恩は一生をかけて返さなくてはならいません。


「あぁ…ニーナ…無事でよかった…アルト。本当に感謝するぞ」


お父様もアルト様に大いに感謝し、相応の報酬を支払うということになりました。


疑問だったのは、アルト様が私の居場所を突き止めた方法でしたが、後日聞いたところ、アルト様はサーチと呼ばれる魔法を使ったということでした。


あれだけの体術をお持ちなのに魔法にも優れているアルト様は本当にすごいです。


ちなみにですが、その後お父様と話し合い、私の外出の際には必ずアルト様が付き添うことになりました。


あんな怖い思いをしておいてなんですが、外に出る時はいつもアルト様が近くにいてくれることになったので、私は今回の件でちょっと得をした気分でした。


その取り決めができてから、私の外出の頻度が倍になったのですが、それはアルト様には絶対に内緒です。



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