第32話


早朝にアルトリアの屋敷を出発して、目的地である村にたどりつく頃には夕方になっていた。


人口数千人程度の小規模の村。


馬に乗った俺が村の中へ入っていくと、数人の村人が駆け寄ってきた。


「き、騎士様でしょうか…?」


「ひょっとしてアルトリア家の人間でしょうか?」


どうやら俺が来ることはすでに伝わっているようだ。


「ええ。そうです。ゴブリンの巣を潰せという命を受けてきました」


「ああ、助かりました、騎士様…!」


「ここのところ、ゴブリンがよく家畜を攫っていくので困っていたのです!!」


「騎士様、どうかゴブリンどもをやっつけてください」


村人たちが必死に懇願してくる。


どうやらそうとうゴブリンに苦しめられているようだな。


「わかりました。任せてください」


俺は頷いて、ゴブリンの巣がどの辺にあるのか尋ねようとする。


その時だ。


「きゃああああああ!!!」


少し離れば場所から悲鳴が聞こえてきた。


「あれは…?」


「もしかするとゴブリンかもしれない…!」


「ここのところ、村の内部まで侵入されることが増えたのです!!す、すぐに向かわないと…」


「わかりました」


俺は悲鳴の上がった方向へ向かって走り出した。


しばらくして、前方に尻餅をつきながら泣いている女性と、その女性に抱きつく男性が見えてきた。


俺は近づいていって話を聞く。  


「何があったんですか?」


「あなたは…?」


女性が顔を上げて俺を見る。


「俺はアルトリアから派遣された騎士アルトです。ゴブリンに襲われたのですか?」


「は、はい…!む、娘が…ゴブリンに攫われてしまって…」


「なるほど…それは危険ですね…」


ゴブリンが自ら人に襲いかかることは滅多にないが、子供となると話は別だ。


ゴブリンが子供を攫い、リンチして殺したという事件は森周辺の村では跡をたたない。


攫われた子をすぐに回収しないと、ゴブリンに殺されてしまうだろう。


「わかりました。俺がすぐに連れ戻してきます」


「ああ、お願いします!騎士様!同化娘を助けて…」


「お礼はなんでもします…だから、どうか…」


母親が俺の服に縋り、泣いて懇願する。


「任せてください。必ず娘さんを救い出しますよ」


俺はそんな彼らにそう誓ってから、森の中へと足を踏み入れた。




攫われた村の娘を助けるために、俺はすぐに村を囲む森の中へと入っていった。


ゴブリンの習性として、攫った家畜や子供を巣に持ち帰るというものがある。


おそらく攫われてしまった子供は今頃、ゴブリンの巣へと連れて行かれているはずだ。


よってまずは、ゴブリンの巣の場所を突き止める必要がある。


「さて…まずは…」


俺は索敵魔法を使って周囲のモンスターの気配を探る。


ゴブリンの巣を見つけるのに、何も森の中をしらみ潰しに探し回る必要はない。


ゴブリンの巣というのは、ゴブリンのとある習性を利用すれば簡単に見つかるからだ。


「いた…!」


俺は近くに一匹のゴブリンの気配を感じとる。


『グゲ!!!』


草木をかき分けて進んでいくと、そこには俺の身長の半分程度しかない緑色の小鬼、ゴブリンが一匹でいた。


俺は即座に肉薄して、腰の剣を抜き、ゴブリンの片手を切り落とす。


『ギャアアアアアアッ、ギャアアアッ!!』


ゴブリンは悲鳴を上げて、逃げ出した。


トドメは刺さない。


俺は血を流しながら森の中を進んでいくゴブリンの後をつける。


ゴブリンには、手負となったときに巣に戻るという習性があるのだ。


故に、こうして怪我をさせたゴブリンをつけていくだけで、簡単に巣の場所を特定できる。


やがて、手負のゴブリンの進む先に、大きな洞穴が現れた。


ゴブリンはよろよろとした足取りで、洞穴へと入っていく。


「あそこが巣か…」


おそらくあの洞穴に、攫われた女の子もいるに違いない。


俺はここまで導いてくれたゴブリンを追って、洞穴の中へと入っていくのだった。



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