第57話


「ど、どうしてモンスターが…!?」


ニーナが狼狽える。


「あ、あの数…」


「我々だけで捌き切れるか…」


馬で馬車を護衛していた騎士たちが、馬から降りて武器を構える。


だが、その人数はたったの四人で、あの数のモンスターを倒し切ることが出来るほどの実力者にも見えない。


「おい御者っ!!なぜここまで接近されるまで報告しなかったんだっ!!モンスターが近づいてくるのが見えれば事前に回避もできただろう!!」


「し、知りませんっ…い、いきなり目の前に現れて…!」


「はぁ!?何意味わからないこと言ってんだっ!!」


騎士の一人が御者に詰め寄る。


彼が御者を責めているのは、本来、草原地帯におけるモンスターの遭遇は、容易に回避できることだからだった。


草原地帯は広々としていて、視界も明瞭だ。


故に遠くから接近してくるモンスターをいち早く察知できるため、少し進路をずらすだけで回避できるのだ。


それが、今日の護衛がここまで少なかった理由。


だが今、俺たちはなぜかあれほど多くのモンスターに進路を阻まれている。


騎士は御者の過失だろうと疑っていた。


「本当ですっ!!まるで召喚したかのように、突然モンスターが現れたんですっ!!」


御者は必死に捲し立てる。


そうこうしているうちに、モンスターが俺たちの元へ接近しつつあった。


「どどど、どうしましょう!?」


ニーナがアタフタとする。


「おい、あんたら。争っている場合じゃないだろう」


俺は御者の胸ぐらを掴む騎士に声をかけた。


「あんたたちは、ニーナと、それから後ろのカイルの馬車を守ってくれ。あれらは俺が処理する」


俺が前方のモンスターを指差しながらいった。


「一人じゃ無理だ。俺も一緒に…」


「だめだ。カイルやニーナの命を守るのが最優先だ」


「…っ」


騎士たちは頷き、ニーナを連れて交代する。


「に、ニーナっ!!こっちだっ!!」


背後では、カイルの馬車が停車して、ニーナたちを待っている。


少なくとも馬車が方向転換をするまでは時間を稼がないとな。


「この数を相手にするのは久しぶりだな」


俺は剣を構え、モンスターの群れと対峙する。


ざっと見たところ、五十匹はいる。


これほどの数でモンスターが群れるのも珍しい。


まるでモンスターの暴走…スタンピードのようだ。


「アルトリアの騎士として…ニーナやカイルは俺が守る!!」


「アルト様っ!!」


刹那、ニーナの俺を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


俺は剣と共に、モンスターの群れへと突っ込んでく。




「ふぅ…案外なんとかなったな」


一息つくとともに、俺は地面に座り込んだ。


周囲にはモンスターの死骸が転がっている。


動いているものは一つとしてなかった。


あれだけいたモンスターの群れを…俺はなんとか一人で片付けていた。


「あぁ…疲れた…」


出し惜しみしている暇はなかった。


今や体内の魔力はほとんど枯渇状態。


回復魔法を発動する余地すらない。


「よっと…」


剣を支えにして俺は立ち上がる。


向こうから、距離を置いていた馬車が戻ってきていた。


俺がよろよろと歩いていくと、馬車からニーナが降りてきて駆け寄ってきた。


「アルト様っ!!!」


「うおっ!?」


バッと俺に抱きついてくる。


疲れていた俺は受け止めきれずに、後に倒れた。


「お怪我はありませんかっ…」


「特には…」


「ご無事で何よりです…っ」


「おう」


ぎゅううっとニーナが抱きついてくる。


まるで俺が生きていることを確かめるように。


俺は振り解く力もないので、されるがままだ。


決して、胸に押し当てられる感触が柔らかかったからとか、そういう理由ではない。


「嘘だろ…」


「あの数を一人で…」


「アルト…あんた、マジで何者なんだ…」


やがてこちらへと歩いてきた護衛騎士が、モンスターの死骸を見てそんなことを呟いた。


その後、俺は騎士に肩を貸してもらって馬車に担ぎ込まれ、体力と魔力の回復するポーションを提供してもらった。


そして俺たちを乗せた馬車は、再び王都へ向けて走り出したのだった。




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