第10話
「カイル様!ただいま戻りました」
「入れ。セバス…来い。報告しろ」
アルトとニーナが応接室を去った後。
応接室のドアを誰かがノックした。
カイルが許可を出すと、黒服に身を包んだ執事が入室してきた。
執事の名はセバス。
アルトリアに長年仕えている、武術の心得もある執事である。
「どうであったか?あの者の様子は」
「はい…カイル様。誠に信じられないことでありますが…」
セバスがひそひそと耳打ちをする。
みるみるうちに、カイルの目が見開かれていった。
「じゃあ…あのアルトという男は、本当にストーン・ドラゴンを1人で…?」
「ええ。私は確かに見ました。あのかたが、一撃の元にストーン・ドラゴンを葬り去る瞬間を」
アルトにストーン・ドラゴンを倒すように言ったカイルは、あの後、密かに執事に命令して、アルトの後をつけさせた。
知り合いの冒険者の手を借りるとか、市場でストーン・ドラゴンを素材を購入するとか、そのようなインチキをさせないためである。
抜擢されたのが、セバスだった。
セバスは武術の心得のある執事であり、足音を消すのが上手い。
気づかれずに尾行するのには適役だったのだ。
「信じられん…また何かしらの不正を働くものと思ったが…セバス。その話は本当だろうな。私を謀ってはおらんか?」
「いいえ、そのようなことは。カイル様。武術の嗜みのある人間として意見すれば…あの者の実力は本物です。歩いている姿を観察したところ、全く重心にブレがありませんでした。あれは達人の歩みです…一体どれほどの研鑽を積めばあの域に達せられるのか…」
「そ、そうか…お前がいうのならそうなのだろう…ふむ…で、では…もしやミリアという冒険者を瞬殺したのも…イカサマなどではなく…」
「ええ。実力だと思われます」
「…っ」
カイルがごくりと唾を飲んだ。
彼はようやく、アルトの真の実力を理解したのだった。
「ど、どうやら娘はとんでもない男を拾ってきたようだな…」
「あの者はどんな大金を払ってでもこちらに取り込む価値があります。カイル様。是非長らく騎士として雇ってはいかがかと」
「ああ。ここまできたんだ。もとよりそのつもりだよ」
声を潜めて話し合っていたカイルとセバスは、互いに頷き合った。
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