第80話


「す、すぐにニーナを呼んできます…!し、しばしお待ちを…!」


俺はてっきりニーナに何かの用があってきたのかと思った。


ニーナとルーナ王女は立場を超えて、親しい仲だ。


だからルーナ王女はニーナに会うためにわざわざアルトリアの屋敷を訪れたのだろう。


そう考えた俺は、屋敷の方へ走って行こうとする。


そんな俺の腕をルーナ王女が掴んだ。


「お待ちください、アルト様」


「…はい?」


「ニーナを呼ぶ必要はありません」


「へ…?」


「今日はあなたに会いにきたのですから」


「は…?」


一瞬何を言われたのかわからなかった。


ルーナ王女の言葉を咀嚼し、飲み込むまでに数秒の時間を要した。


「お、俺に…?会いにきた…?」


「はい。手紙にお返事をくれましたよね」


「ど、どの手紙ですか…?」


城で開かれた生誕祭以降、ルーナ王女からはたくさんの手紙が送られてきた。


俺は仮にも王族からきた手紙であるため、その一つ一つにニーナに習った『失礼のない文章』で返事を書いて送っていた。


ルーナ王女は一体どの手紙についていっているのだろうか。


「ほら…私がいつか二人で買い物にでも行ってみたいです、とかいたときに、それはいいですねと言ってくれたではありませんか」


「あ、あぁ…」


それは直近で書いた手紙だった。


ルーナ王女から送られてきた手紙の最後に、“いつか二人で買い物でも”と書かれていて、てっきり社交辞令というか、作法の一つだと思って、“そうですね”と返事を書いたのだった。


ま、まさかあれは本当に誘いの文言だったのか…?


「ここ数日、たまたま執務に空きがあったので…きちゃいました」


「…っ」


にっこりと笑うルーナ王女。


絶世の美女に、輝かんばかりの笑みを向けられ、ごくりと唾を飲んでしまう。


「というわけで、行きましょう、アルト。私、王族貴族以外の方と街を歩くのは初めてです」


「いやいやいや…ちょっと待ってください…!俺は今、屋敷の護衛の任務中で…」


「そんなのは誰かに代わって貰えばいいのでは…?アルトリア家ほどになれば、雇っている騎士はたくさんいるでしょう?」


「た、確かにそうですけど…」


ここからそう遠くない宿舎に入れば、そこに休んでいる騎士はたくさんいるだろう。


事情を話して頼めば、今日の当番を代わってもらうこともできるが…


「ほら、アルト」


「ええと…その…」


どうしていいかわからず俺が困り果てていると、屋敷から誰かが出てきた。


「アルト様…!お疲れ様です…!差し入れを持ってきましたよ〜…!」


「あっ…ニーナ…」


屋敷から出てきたのはニーナだった。


それを見たルーナの表情が、なぜかちょっとバツの悪そうなものになるのだった。



〜あとがき〜


新作が公開中です。


タイトルは


『モンスターの溢れる現代日本で俺だけレベルアップ&モンスターに襲われない件〜高校で俺を虐めていた奴らは今更助けてと縋ってきたところでもう遅い〜』


です。


内容はタイトルのまんまで、


• 突如モンスターが現代日本に出現。


• 主人公だけモンスターを倒すとレベルアップ。


• 何故か主人公はモンスターに襲われないため、モンスター倒し放題。


と言うものです。


興味を惹かれた方は是非そちらの方もよろしくお願いします。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今までの功績を改竄され、役立たずのお荷物認定されてギルドを追放されたけど、国一の貴族の令嬢に拾われ無事勝ち組人生〜え?俺が抜けた途端にメンバーが半分になった?頼むから戻ってきてくれ?今更もう遅い〜 taki @taki210

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ