第65話
「アルト様。どうかお願いです。ルーナ様をお守りください」
「…っ」
果たして…
俺が王女ルーナが暗殺されるかもしれない事情を説明し、今日一日護衛についてもいいかという許可を貰いに行くと、ニーナは逆に俺にルーナを守るように頭を下げてきた。
これには俺も…そして付き添いできたルーナも目を丸くして驚いていた。
「に、ニーナ…?本当にいいのですか?」
信じられないと言った表情でルーナが尋ねる。
「もし私に手を貸せば…あなたまで…アルトリア家まで私たちの権力闘争に巻き込んでしまうかもしれない…それでも私を守ってくれるの…?」
「はい…私にはルーナ様を見捨てるなんてことが出来ません…アルト様。どうかルーナ様をお守りください」
「…」
俺の手を取って懇願してくるニーナ。
俺は正直驚いていた。
ここでルーナの護衛につくかどうかというのは立ち回り的に非常に重要な判断で、むしろこの件には関わらないというのが賢明な判断だと思っていた。
だが、蓋を開ければニーナはルーナを守ることを即決した。
…二人はそれほど親しい関係なのかもしれない。
「わかりました。全力でルーナ王女をお守りします」
主人に言われては逆らえない。
俺は胸に手を当ててルーナを守護することをニーナに誓う。
「ありがとうございます、アルト様…!」
ニーナがにっこりと微笑んだ。
「あぁ…ニーナ…ありがとう。この恩は忘れないわ…」
ルーナがニーナの手を取ってお礼を言う。
その目尻には涙が溜まっていた。
「そ、そんな…ルーナ様…っ、泣かないでください…これくらい、この国の貴族として当然のことです…!」
「いえ…当然のことではありません…王侯貴族は普通、情などよりも自己利益を優先するでしょう。でもニーナ。あなたは私に頼まれた時、私を守ることをすぐに決めてくれたわ…これが私にとってどんなに嬉しかったことか…」
「ルーナ様…」
ルーナの目尻から涙がこぼれ落ちる。
二人はしばらく、互いの信頼を確認するかのように見つめ合っていたのだった。
「それでは今日一日、俺はルーナ王女守護の任務に就く」
それからしばらく。
俺は改めてニーナにルーナを守り抜くことを宣言する。
「死なせはしない。必ず守り抜く」
「ええ!お願いしますね、アルト様」
ニーナがコクリと頷いた。
「アルト…お願いします。私を守ってください」
ルーナからもそんなふうにお願いをされる。
「ええ、任せてください。あなたを死なせはしません」
「アルト…」
俺がそんなふうに誓いを立てると、ルーナがどこかうっとりとした表情で見つめてきた。
「とても頼もしいです…まるで王子のようですね」
「へ…?」
ルーナが潤んだ瞳で上目遣いに俺を見てくる。
絶世の美女の媚びるような視線に、俺は思わずドキリとさせられてしまう。
「むぅ…」
それを見たニーナが隣で不満げな声を漏らした。
ジトーと俺をルーナを交互に見ている。
「あっ、ご、ごめんなさい、ニーナ。別にそういうつもりじゃ無いのよ…?あ、あなたとアルトのことはわかっているつもりだから…」
「なっ…ルーナ様!?別に私とアルト様は、そんなんじゃ…」
「いいえ、あなたの目を見ればわかるわ…ちょっかいかけて恩を仇で返すなんてしないから…安心してね?」
「〜〜〜っ」
ルーナが悪戯っぽく笑い、ニーナが恥ずかしげに顔を染めている。
「…?」
この二人は一体何を話しているのだろうか。
よくわからなかったが、今はそれどころじゃない。
いつルーナを狙う刺客が襲いかかってくるともわからないのだ。
俺は気を引き締め、怪しい動きをするものがいないか、周囲を注意深く観察するのだった。
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