第19話


「ようやく見つけたわ、ニーナ・アルトリア!!なんですかその見窄らしい安っぽいドレスは!!!」


ダンスを終えた俺とニーナが会場の食事を楽しんでいると、唐突に近づいてきた女が、ニーナのドレスにいちゃもんをつけ始めた。


その女は金髪縦ロールの吊り目で、周囲を見下しているような雰囲気が全身から漂っている。


「え、エミリアさん…」


ニーナが渋い顔になる。


あまり会いたくなかった。


そんな表情だ。


「ねぇ、見てこのドレス。今日のためにお父様に頼んで取り寄せてもらったの。特注品よ?高級な素材がたくさん使われているの。あなたのと違って素敵でしょう?」


ニーナに向かって自分のドレスを見せびらかす女。


ニーナは苦笑いしながら、対応する。


「そ、そうですね…とても素敵なドレスだと思います。それじゃあ私はこれで…行きましょう。アルト様」


「お、おう…」


俺の手を取ってその場から立ち去ろうとするニーナ。


しかし、そんなニーナの腕を女が乱暴に掴んだ。


「どこにいくの?逃がさないわよ、ニーナ」


「え、エミリアさん…痛いです…」


ニーナが顔を顰める。


どうやらエミリアという名前らしい少女から、俺はニーナを引き剥がす。


ここまでくると礼儀も何もあったもんじゃない。


「まぁ!なんですかあなたは!」


エミリアがきっと俺の方を睨む。 


俺は一応ニーナに習ったお辞儀をした後、自己紹介をする。


「名はアルト。アルトリア家に仕える騎士です」


「騎士…へぇ、そう」


エミリアの瞳がスゥッと細まった。


俺はニーナにこっそりと耳打ちする。


「なぁ、こいつなんなんだ?」


「エミリアさんです…イグニス家の御令嬢で…その私に対抗心を燃やしていると言いますか…いつもこういう場で絡んでくるのです」


「なるほど…それは厄介だな…」


「私は仲良くしたいのですが…そういうわけにもいかず…いつも何かと勝負を持ちかけてくるのです」


「勝負…?」


「ええ、ダンスとか…ドレスとか…後は…騎士け」


ニーナが何かを言いかけるが、エミリアの甲高い声が遮った。


「何をこそこそとやっているのですか!!ニーナ!今日こそは決着をつけてもらいますよ!!三大貴族のアルトリア家とイグニス家、どちらが格が上か、勝負です!!」


公然とそんなことを宣言する。


そのおかげで、周囲の視線が一気にこちらに集まった。


「おいおい、どうしたんだ?」


「また始まったみたいだぞ」


「またか…」


「また、イグニス家のお嬢様がやんちゃしてるのか…」


「あの娘はいつになっても懲りないなぁ…」


周囲からそんなひそひそ声が聞こえる。


どうやら彼らにとって、この光景はさして珍しいものでもないらしい。


「勝負だなんて…私はそんなことは望んでません。エミリアさん。今はパーティーを楽しみましょう」


「いいえ、そういうわけにはいかないわ!!前回の勝負で私、負けて腹が立ってるの!!汚名返上しない限りはパーティーを楽しめない!!」


駄々っ子のようにそんなことをいうエミリア。

ニーナが疲れたようにこめかみに手をあてた。


「はぁ…わかりました…では、今回は何で勝負をするのですか…?」


どうやらエミリアの話に乗ることにしたようだ。


このままパーティー終了間際まで突っかかられたらたまったものではない。


そう考えたのかもしれない。


エミリアがニヤッと笑う。


「前回はダンスで負けたから…今回はナイトバトルで勝負よ!!」


声高らかに宣言する。


すると周囲に響めきが走った。


なんだ?


ナイトバトルって。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る