第18話
そして翌日の夕方。
俺は欠伸を噛み殺しながら、鏡の中の自分を見ていた。
「よく出来てるなぁ…」
1人の紳士がそこに居た。
シックな服に身を包み、髪も綺麗にセットされている。
戦闘員特有の粗野な感じが、完全に打ち消されている。
これはアルトリア家のメイドたちがやってくれたものだった。
俺は貴族家に仕えるメイドたちの技術に感動してしまう。
「ニーナはまだかな…」
この部屋でニーナを待つように言われた俺は、時計を見る。
パーティーは後1時間で始まるため、あまり時間に余裕がない。
俺がソワソワしながら待っていると…
「ど、どうでしょうか…アルト様」
部屋のドアがノックされ、しずしずとニーナが姿を表した。
普段着ではなく、鮮やかなドレスに身を包んでいる。
「き、綺麗だ…」
思わずそんな感想が出た。
それほどまでにニーナの服装は綺麗でまた静謐だった。
傾国の美女。
そう呼ばれていたっておかしくないような美しさだ。
「あ、ありがとうございます…アルト様も、その…かっこいいですよ?」
「おう。ありがとな」
俺は頷き、ニーナに腕を差し出した。
「じゃあ、行こう。ニーナ」
「ええ。そうですね」
昨日習った通り、俺はニーナと腕を組んで外に止めてあった馬車に乗り込んだのだった。
「うわ…すげぇ…」
ものの半時間ほどでパーティー会場に到着。
俺はそこに広がっていた豪勢な景色に、思わず習ったマナーなどを何もかも忘れて見入ってしまった。
色とりどりのドレス。
並んだ豪華な食事。
静かに流されるオーケストラ。
なるほど、これが貴族のパーティーか。
まるで別世界に来たみたいだ。
「アルト様!ま、マナーをお忘れなくっ」
「おっとと。そうだったそうだった」
俺は慌てて伊住まいを正し、ニーナと肩を並べて歩く。
ニーナは最初、知り合いと思われる貴族に挨拶をして周り、その後会場の中央へと歩いた。
「アルト様。一曲踊りましょう」
「ええ!?いきなり…?」
「大丈夫です。この曲は難しくないですから。昨日のステップを忘れずに」
「お、おう…」
曲が始まった。
俺は昨日の地獄のレッスンを思い出して、どうにかこうにかステップを踏む。
3分程度の曲が終わる頃には服の下に汗をびっしり掻くことになった。
「上手でしたよアルト様。アルトリア家の名に恥じぬダンスです」
「そりゃどうも…」
「少し休みましょうか。食事をとりましょう」
「はい…」
俺たちは中央から穿けて、テーブルに並んだ食事をつまむ。
うわ美味しい…
俺が貴族のマナーを守りつつ、ニーナと共にテーブルの料理を食べていたその時だった。
「ようやく見つけたわ、ニーナ・アルトリア!!なんですかその見窄らしい安っぽいドレスは!!!」
上品なパーティー会場にふさわしいとはとても思えないキンキン声が響いた。
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