第28話



『ブォオオオオオオ!!!』


ミノタウロスによる咆哮。


そして強烈な突進攻撃。


「タンク!!防げ!!」


リーダーの指示で、3度目のミノタウロスの突進をタンクが防ぐ。


ガァンと音がなり、ミノタウロスの突進が止められた。


だが…


「ぐあああああああ!!!」


タンクの1人が声をあげて、地面に倒れた。


見れば、盾を持っていた右腕があらぬ方向に曲がっている。


どうやら盾越しにダメージをもらってしまい、骨が折れたようだ。


そのタンクは比較的最近ギルドに入ってきた若手であり、力をうまく受け流す術を知らなかったようだ。


「治療班!!すぐに彼に回復魔法を」


「「「はっ!」」」


治療班が、すぐにタンクに回復魔法をかける。


そんな中、リーダーが残りの戦闘員に支持を出した。


「今突進攻撃を受けたらお仕舞いだ!!総員突撃!!時間を稼げ!!」


タンク不在でミノタウロスの突進攻撃を喰らえば、たちまち陣形が崩壊してしまう。


そう判断したリーダーは、残った戦闘員全員でミノタウロスに攻撃を仕掛け、突進の余裕を作らせない。


「うおおおおおお!!!」


「らああああああ!!!」


冒険者たちが雄叫びをあげて、ミノタウロスに突っ込んでいく。


『グオオオオオオオ!!!』


ミノタウロスもけたたましい鳴き声をあげながら、応戦する。


巨腕が左右へブゥンブゥンと振られ、その度に冒険者数人が悲鳴をあげて吹き飛んでいく。


「だ、だめか…!」


リーダーが表情を歪める。


パワーが違いすぎる。


総員でかかったとしても足止めが精一杯。


誰1人として、ミノタウロスに有効なダメージを与えることが出来ていない。


やはり無茶だったのだ。


あの2人がいないパーティーで、ミノタウロスに挑もうなどと…


「こうなったら…撤退するしか…」


このままだと死人が出かねない。


幸いまだ、動けなくなるような大怪我を負った者はいないようだ。


死者を出さずに撤退するならいまだ。


リーダーは苦渋の思いでそう判断する。


「総員!!撤退だ!!撤退するぞ!!引け!引けええええ!!!」


ボス部屋ないにリーダーの声が響き渡った。


「撤退だ!!」


「下がれ…!」


「陣形を維持したまま距離を取るんだ!!」


リーダーの指示で、冒険者たちは、撤退の陣形を保ったまま、ミノタウロスから距離を取り始める。


ミノタウロスは、下がっていく冒険者たちを追撃しようとはしてこない。


リーダーは安堵してため息を吐いた。


「これでいい…名声欲しさにメンバーを無駄死にさせるわけにはいかない…」


今回の依頼はただの依頼ではない。


貴族家アルトリアからの依頼だ。


失敗は許さない、必ず達成せよとギルマスからは厳命されている。


おそらくこのまま地上に帰れば、ギルマスは怒り、戦いを指揮した自分はクビにされるだろう。


だが、それでいい。


メンバーの命が助かるなら。


「何してるんだお前ら!!!」


「「「!?」」」


冒険者たちが、注意深くミノタウロスから距離を取る中、怒鳴り声が背後から聞こえた。


治療を受けて、復活したガイズだった。


「何逃げようとしてんだ!?てめーらこれが誰からの依頼かわかってるのか!?貴族家アルトリアだぞ!!成功すれば、俺たちのギルドはどこまでも駆け上がっていけるんだ!!引けるはずないだろ!!!この役立たずどもめ!!」


「「「「…っ!!!」」」」


「全員でミノタウロスに突っ込め!!死人が出てもいい!!なんとしてでも仕留めるんだ!!」


自分が初撃をもらって瀕死になったことを棚上げし、好き勝手に振る舞うガイズに、これまで黙っていたメンバーがついにキレた。


「ふざけんなよガイズ!!」


「てめー好き勝手に抜かしてんじゃねー!!」


「足しか引っ張ってないくせに偉そうにするな!!!」


「やりたきゃお前1人で突っ込め!!」


次々にガイズに向かって罵倒が飛ぶ。


ガイズはこれまで従順だった連中に突然牙を剥かれて、たじろぐ。


「な…お、お前ら!この作戦のリーダーは俺だぞ!!俺の指示に従えっ!!」


「うるせぇ!!誰が従うか!!」


「嫌だね!!こんなところで犬死するつもりはない!」


「というかこうなったのもお前ら運営陣が、アルトさんとアイリスさんを解雇したせいだろうが…!!責任取れよ!!」


ガイズに責任追求の声が集まる。


ガイズは唾を吐いて憤慨する。


「ふざけるな!!この俺に向かってなんだその口の聞き方は!!!てめーら全員クビにしてやる!!」


「はっ、やってみろ!!そうなりゃ青銅の鎧は崩壊だ!!」


「言われなくともこんなギルド、さっさと辞めてやるよ!!」


「おいお前ら!!ここで喧嘩するなっ!!今は撤退だ!!」


そうこうしているうちに、ゆっくりとではあるが、ミノタウロスが彼らに接近していた。


リーダーは慌てて、言い争うメンバーたちを一喝し、ひとまずボス部屋から撤退する。


ボス部屋から出て仕舞えば、ボスモンスターは追ってはこない。


「ふぅ…なんとか死人を出さずに済んだな…」


「くそ…この無能どもが…全員帰ったらクビにしてやる…!」


メンバーたちのことを真剣に考えるリーダーは安堵の息をはき、ガイズは舌打ちをする。


こうしてギルド『青銅の鎧』は依頼を達成することができずに、敗走し、地上へと帰還したのだった。


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