第72話


「ポイズンハンド…?」


聞いたことのない魔法名に俺は首を傾げる。


「くははっ!これは俺が生み出したオリジナル魔法だ!!触れた相手の皮膚から一瞬で体内に毒を浸透させることができる…!俺の手に少しでも触れたら終わりだぜ…!」


わざわざ得意げに魔法を解説してくれるカゲル。


「へぇ…そうなのか」


俺は少しばかり警戒のレベルを上げた。


オリジナル魔法は誰にでも出来る芸当じゃない。


自分固有の魔法を生み出すには、魔法術式の根幹を理解する必要があり、一朝一夕で会得できるものではないからだ。


このカゲルという暗殺者は、単に暗殺技術だけでなく、魔法にもそれなりに秀でているようだ。


「死ねやぁあああああ!!!」


戦いの火蓋は唐突に切って落とされた。


カゲルが、毒色に染まった手を前方に突き出しながら突進してくる。


「全部避け切れるかな?ひあああああああ!!!!!」


次々と繰り出される毒に染まった手。


おそらく皮膚の部分にちょっとでも触れれば、そこから体内に毒が回って動けなくなり、死に至るだろう。


「アクセラレート」


俺は自身の動きを加速させてカゲルの攻撃を全て避ける。


「くっ…!小賢しいっ…!このっ…!」


カゲルの表情が徐々に苛立ちに染まり、攻撃が単調になる。


その隙を俺は逃さない。


「ほい」


「ぐおおおおおっ!?」


攻撃の隙をついて、カゲルの腹に回し蹴りを叩き込んだ。


メキメキと嫌な音がなる。


「ま、こんなもんか」


勝負あったなと思ったが、カゲルには意外にも根性があった。


「ぐぉおおおおおお!!!」


口から血反吐を吐きながらも、俺の蹴りに耐え、そしてそのまま俺の足にしがみついた。


そして毒の手で思いっきり俺の足を握り込む。


「おい、やめろ」


俺はもう片方の足でカゲルを蹴り上げた。


「ぐはぁっ!?」


カゲルの体が吹っ飛んで地面に叩きつけられる。


「何をした…?」


片足に力が入らない。


俺は理解出来ずに首を傾げる。


「くははっ…もうお前は終わりだっ…がふっ…」


カゲルが血を吐きながら笑った。


「もう毒はお前の体内に回り始めてる…間も無く体が動かなくなり、死に至るだろう」


「へぇ…衣服の上からでも染み込ませられるんだな」


皮膚に直接触れなければ大丈夫だと思っていたが、どうやらカゲルの毒は、衣服の上からでも体内に染み込むほどに強力らしい。


俺はカゲルのオリジナル魔法に感心する。


「さあ、こいっ…アルトっ…俺が死ぬのが先か…それともお前の体内に毒が回り切るのが先か…もうお前には相打ち以外の選択肢が残されてないぜ…ぐふっ…」


痛みに苦悶の表情を浮かべながらも、そう啖呵を切ってみせるカゲル。


何やら熱くなっているようだが、別に俺は相打ちになるつもりなどなかった。


毒が回ったのなら浄化すればいいことなのだ。


「エクストラ・ヒール」


俺は最上級の魔法を自分自身に対して使った。


体が光を帯び、毒が浄化される。


「なっ!?」


それをみたカゲルの目が驚きに見開かれた。






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