第49話
「では行くぞ、お前ら。準備はいいか?」
ダンジョン二十階層。
その最奥にあるミノタウロスのボス部屋を前にして、俺は背後を振り返る。
「は、はい…っ」
「頑張ります…っ」
「行きましょう…!」
アイリスを除いて、メンバーたちの表情には緊張が見て取れた。
一体どうしたのだろうと考えたが、思い出してみれば、『青銅の鎧』はつい最近、俺とアイリスを掻いた状態でミノタウロスに挑んで敗北している。
彼らにとってはこれがリベンジとなるわけで、もしかするとまた負けるかもしれないという恐怖もあるのかもしれない。
「力を抜け。お前たち。何があっても私とアルトが守る」
そんな冒険者たちをアイリスが励ます。
「そうだ。俺たちは何度も何度もミノタウロスを討伐してきたじゃないか。たった一度負けたくらいでそう固くなることはない」
俺も彼らの緊張を解すために、そう言った。
冒険者たちは互いに頷き合う。
「そ、そうですよね…!」
「すみませんアルトさん、アイリスさん、気を使わせてしまって…!」
「俺たち、しっかり自分の役目を果たします…!」
「絶対に足手纏いにはなりません…!」
そういう彼らの表情にもう恐怖や迷いはなかった。
「よし…では行くぞ…!」
俺は改めて、ボス部屋の扉に手をかけて、その奥へと足を踏み入れていく。
「「「…っ」」」
表情を引き締め、アイリス、その他が俺に続く。
俺たちが半ばまで進んだところで、部屋内に松明が灯り、ボスの姿が露わになる。
『グオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
膝をついていたボスがゆっくりと立ち上がり、低い唸り声をあげる。
ミノタウロス。
二十階層のボスモンスターが、頭上から赤い瞳で俺たちのことを見下ろしてくる。
「必ず勝つ…!俺たちならやれる!」
「「「「おおお!!」」」」
俺の鼓舞の文句に、メンバーたちが応える。
そうして俺たちのミノタウロスとの戦いの火蓋が切って落とされた。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
二十階層のフロアボス、ミノタウロス。
その攻撃パターンは主に突進と単調だが、しかしまともに喰らえば一撃で命を刈り取られるほどに強力である。
ズシンズシンと重々しい足音と主に、ミノタウロスが突進してくる。
「タンク!!」
俺の指示で、耐久に優れた冒険者たちが前に出てミノタウロスの攻撃を受け止める。
ガァン!!
「「ぐぅ…」」
凄まじい衝突音とともに、ミノタウロスの攻撃を受け止めた冒険者からうめき声が漏れる。
しかし彼らは、しっかりとミノタウロスの進行を防ぎ、その役目を果たした。
その隙に、俺とアイリスが横合いから攻撃を叩き込む。
「うおおおおお!!!」
「はあああああ!!!」
『ガァアアアアアアアアア!?!?』
ミノタウロスが悲鳴の咆哮をあげる。
俺とアイリスは、確かなダメージをミノタウロスに与えることに成功する。
「よし…!」
「このまま…!」
ある程度攻撃を叩き込んだ俺とアイリスはミノタウロスが体勢を立て直したのを見て、一旦距離をとる。
「回復…!」
「タンクたち、頑張ってくれ…!」
すかさず、後方に構えた回復係たちが、負傷したタンクを回復する。
「ありがとう…!」
「これで次もあいつの攻撃を受け止められる…!」
タンクが攻撃を受け、俺たちが隙をついて攻撃。
後方支援が回復と援護魔法。
まさに完璧な連携だった。
俺たちはじわりじわりとミノタウロスにダメージを蓄積させていき、ボス戦を開始して半時間後、ついに討伐に成功する。
ズゥウウウウン…
俺とアイリスの連携攻撃についに致命傷を喰らったミノタウロスが、目から光を失い、倒れふす。
『………』
その巨体はもはや完全に沈黙していた。
絶命したようだ。
「うおっしゃあああああああ!!」
「やったぁあああああ!!!」
喜びの雄叫びをあげるのは、俺やアイリスではなく、他の冒険者たちだった。
彼らからすればリベンジを果たしたことになり、ミノタウロスに負けた恐怖を払拭できたことになる。
冒険者としてこれほど嬉しいことはないのだろう。
「やりましたね、アルトさん…!」
「アイリスさん…いつもながら惚れ惚れする剣捌きです…!」
「ああ、そうだな!」
「ありがとう。お前たちもいつも以上によくやってくれた」
俺たちは互いに称賛し、勝利の余韻に浸る。
こうして俺たちはミノタウロス討伐をかつてのように、順当に成し遂げたのだった。
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