第48話


「ん…!アイリス、あれは…!!」


「まさか…!」


悲鳴の聞こえた方向に向かってアイリスとともに疾駆していると、前方にモンスターと対峙する十名弱の冒険者たちの姿が見えた。


距離が近づくにつれて、俺たちはそれら冒険者が見覚えのある顔ぶれであることに気づく。


「元『青銅の鎧』のメンバーたちか…!」


「待っていろ!!今助けるっ!!」


モンスターに苦戦していたのは、元青銅の鎧のメンバーたちだった。


相対しているのは、数匹のオークだった。


すでに数人が負傷しているようで、怪我人を庇うように少しずつ後退している。


その顔ぶれの中にはかつてベテランとして『青銅の鎧』所属冒険者に慕われていた者の姿もあり、そんな彼らがどうしてオークに苦戦しているのかと俺は疑問に思う。


だが、次の瞬間、苦戦の理由を得る。


『グゴオオオオオオ!!!』


「畜生運が悪い…!」


「まさかこんなところで変異種に3体同時に出会すなんて…!」


見れば、彼らと対峙しているオークは、その皮膚がわずかに青色が勝っていた。


ああいう皮膚の色が違うモンスターは、総じて変異種と呼ばれ、通常種よりも非常に強力な戦闘力を有している場合がほとんどだ。


彼らが苦戦するのも頷ける。


「アイリス!気をつけろ!!あいつらは変異種だ!!」


「ああ、気づいているさっ!!だからこそ余計に助けなければっ!!」


とうとう10メートルと言うところまで接近した。


俺の隣でアイリスが地面を蹴った。


バァンと破裂音のような音が鳴り、アイリスの蹴った地面が抉れる。


すっとアイリスの姿が描ききえて、次の瞬間、前方の、冒険者とモンスターとの間に現れた。


「だ、誰だ!?」


「いつの間に!?」


冒険者たちが戸惑う中、アイリスは勢いを乗せた一撃をオークの変異種に叩き込む。


「はぁああああっ!!」


気合の一声とともに放たれる一閃。


斬ッ!!


空気を着る音と主に、オークの変異種の右腕が切断された。


『グォオオオオオオオオオオ!?!?』


変異種オークが悲鳴をあげる。


「あれは…!」


「アイリスさん!!」


助けに入ってきた冒険者の正体がアイリスだと気づき、かつての仲間たちから歓声が上がる。


「アイリスさん!!」


「助けに来てくれたんですねっ!!」


「アイリスさん…!」


彼らの声援に応えるように、アイリスがオークを油断なく見据えながら手を挙げた。


そして前を向きながら背後の冒険者たちに投げかける。


「私だけじゃに。後を見てみろ」


「「「…?」」」


『青銅の鎧』のメンバーたちが、くるりと後を振り向く。


そして全員が目を剥いて驚いた。


「「「あ、アルトさん…!?」」」


「よお、お前ら助けに来たぞ」


直後、俺の地面を蹴ってオークに肉薄。


「おらああああああっ!!」


渾身の一撃をオークに向かって放ち、アイリスとともに戦いに参戦した。




「すげぇ…」


「あっという間に倒しちまった…」


「さ、さすが…アルトさんとアイリスさん…」


「この二人の連携がやっぱり最強だ…」


「逆に変異種の方が可哀想なぐらいだったぞ…」


戦いが終わった。


俺とアイリスが、仕留めた変異種オークたちを前にして汗を拭う中、背後では戦いを見守っていた元仲間たちがそんな呟きを漏らしていた。


「なんとかなったな」


「このくらいで苦戦する私たちでもないだろう?」


「そうだな」


俺とアイリスはかつて戦いの終わりにしていたように拳を突き合わせた後、かつての仲間たちの方を向く。


「大丈夫か?お前ら。怪我は?」


「ここにいるので全部か?誰も逃げ遅れたりはしていないな?」


俺らの安否を確認する声に、冒険者たちはガクガクと頷いた。


「だ、大丈夫っすっ!」


「た、助かりました…!」


「おかげさまで致命傷者は一人も…」


見れば何人か、それなりの傷を負っているメンバーがいた。


俺は自身が使える回復魔法によって、メンバーの傷を癒していく。


やがて全員の怪我を治すことに成功。


メンバーたちはそれぞれ俺たちに頭を下げて感謝をしてくる。


「ところで、アルトさんとアリイスさんはどうしてここに…?」


「ああ、俺たちは…」


俺はここに来ることになった経緯を簡単に話した。


その過程で、アルトリア家に騎士として務めていることも明かすと、メンバーは驚いた。


「すげぇ、アルトさん!あのアルトリアの騎士になっていたなんて…」


「流石アルトさんだ…!」


「あの馬鹿ギルマスがクビにしたって聞いて心配してたんすよ!俺ら!!貴族の騎士なんて成功者じゃないですか!うらやましなぁ…」


「すまないな。お前らに挨拶もなしに出て行ってしまって…俺も頭に血が上ってさ…」


俺はギルドを去るときに挨拶が出来なかったことを詫びる。


メンバーたちはとんでもないと言うように手を振った。


「いえいえいえ、そんな…俺たちアルトさんにずっとたすけてもらってばかりで…正直言って足手纏いだったのに挨拶なんて…」


「もう済んだことですし、アルトさんが謝ることじゃないでしょ…悪いのはギルマスとガイズだ」


「そうですよ。今もこうして助けられてしまいました…アルトさんはいつまで経っても俺たちのヒーローです」


「いやぁ…ははは」


照れ臭くなって頭を掻く。


その後俺たちは、一通りギルドを辞めた後の互いの素性について語り合った。


聞けば、『青銅の鎧』崩壊後、ほとんどのメンバーが、『紅の戦士団』というある大手ギルドに吸収されたらしい。


そこでは『青銅の鎧』よりも遥かに好待遇で迎え入れられ、彼らも満足しているようだ。


「そうか…ちゃんとやっているようで何より

だよ」


「ははは…今さっき死にかけてましたけ

ど…」


「仕方ないさ。変異種が三匹同時になんて、滅多にあることじゃない」


アイリスがフォローを入れる。


「ちなみにアイリスさんは今どうしているんですか?」


メンバーの一人がアイリスに水を向ける。


「ふぇ!?わ、私か…!?わ、私は今は…ソ

ロだ…」


「ええっ!?アイリスさんがソロ!?」


ザワザワと波紋が広がる。


そりゃそうだろう。


アイリスは冒険者界隈に名を馳せる実力者で、引く手数多な人材だ。


どのギルドも喉から手が欲しい筈であり、そんな彼女がソロである現状は違和感でしかない。


「なんでソロなんてやってるんですか…!?アイリスさんならどこへだって…」


「ええと…その、それは…」


アイリスが何やらもじもじとしだす。


頬を僅かに赤らめながら、チラチラと時々こちらを見てくる。


その様子に、何やらメンバーが察したような雰囲気になる。


「あぁ…なるほど…」


「これはそっとしておこう…」


「これ以上聞くのは野暮ってもんだ…」


「頑張ってくださいアイリスさん…応援してますよ…」


「アイリスさんの恋が実りますように…」


メンバーたちは何やらぶつぶつと呟いて、それ以上言及するのをやめる。


なんだったんだ…?


「よし…それじゃあ、俺たちはミノタウロスを討伐しなくちゃいけないから、もう行くぞ。お前らに会えてよかった」


あまり時間を食っているわけにもいかない俺は、そう言って話を切り上げる。


「アイリス。ほら、行こうぜ」


「あ、あぁ…はい」


蚊のような声で返事をするアイリスをつれて、俺はその場を去ろうとする。


「あ、ちょっと待ってください、アルトさん」


…と、メンバーたちが呼び止めてくきた。


「ん?なんだ?」


「俺たちも手伝いますよ、ミノタウロス討伐」


「もしお役に立てれば…」


「足手纏いっていうならいいですけど…」


「え、マジで…?」


それは願ってもない申し出だった。


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