第30話


「おい、お前たち!!どこに行こうというのだ!!」


ギルマスとガイズが急いで階下に降りると、そこではちょうど、メンバーが荷物を背負ってギルドホームを後にしようとしいてるところだった。


「ギルマス…」


「ガイズ…」


冒険者たちが面倒くさそうな顔で2人を振り返る。


ギルマスが彼らの元までツカツカと歩いて行った。


「荷物なんか背負って、一体どこにいくつもりだ?遠征なら私の許可をとってから…」


「遠征じゃない」


「俺たちはこのギルドを辞めるんですよ」


「すでに辞表は出しました」


「は…?」


彼らの言葉にギルマスはぽかんとなる。


冒険者たちは、そんなギルマスに背を向けて、ギルドホームを出ていこうとする。


「ちょ、ちょっと待て!!なぜ急に辞めるなどという話になるのだ!!!」


我に帰ったギルマスが慌てて追い縋る。


このまま彼らを行かせるわけにはいかない。


なぜなら今去ろうとしているのは、このギルドの主力たちであり、彼らが抜けると『青銅の鎧』は骨抜きになってしまう。


そうなれば、ミノタウロスとの再戦など到底無理であり、アルトリア家からの依頼が達成できなくなるのは必至だ。


ギルマスはなんとしてでも彼らを引き留めなくてはならなかった。


「待て!!待ってくれ!!何が不満なんだ!!理由も聞かずに辞めさせられるか!!」


「触るなっ!!!」


「なっ…!?」


肩に触れたギルマスの手を乱暴に振り払う冒険者。


ギルマスは唖然となる。


そんな中、冒険者たちの溜まりに溜まった怒りが爆発する。


「辞める理由?そんなのありすぎて困るわ。ふざけるなよ」


「あんた…今まで散々安い給料で俺たちをこき使っておいて何今更驚いたような顔してんだよ?」


「この際だから言っておくけどなぁ!!俺たちがこんなクソみたいなギルド辞めなかったのは、全部アルトさんのおかげなんだよ!!あの人が一番頑張ってて常に俺たちのこと考えてくれてたから…俺たちはなんとかこのギルドを辞めずに続けてられたんだ…!なのにどうだ!!あんたらときたら、そんなアルトさんを簡単にクビにしやがった…!!」


「ふざけるのも大概にせいよ!!!」


冒険者たちの不満が次々にギルマスにぶつけられる。


ギルマスは言い返すこともできず、ただただ呆気に取られていた。


「ふぅ…言いたいこと言えてスッキリしたぜ」


「これで心置きなく辞められるな…」


「なんか人生の門出って感じがするわ」


一方で溜まった不満を発散できた冒険者たちは、スッキリした顔でギルドを立ち去ろうとする。


「あ…行くな…」


ギルマスは震え声で彼らに手を伸ばす。


が、もう彼らは振り返らなかった。


そのままどんどん遠くへといってしまう。


ギルマスがその場にガクッと膝をついた。


「なんでこんな…アルトがギルドを支えていた…?どういうことだ?あいつはやらかしてばかりの無能ではなかったのか…?」


ギルマスはここへきてようやく気づくことになる。


誰がこのギルドをささえていたのか。


誰がこのこのギルドに所属するメンバーをかろうじて繋ぎ止めていたのか。


安月給でも彼らがギルドに尽くしてくれていたのは、別に運営の実力でもなんでもなく、ただ単に1人の男の頑張りのおかげだったのだ。


そうとも気づかずに、自分はアルトを…このギルドの要をクビにしてしまった。


もう遅い。


もう取り返しがつかない。


ギルマスは数分間、絶望してその場に膝をついていたが…不意に立ち上がってガイズを睨んだ。


「おい、嘘つき野郎」 


「ひっ!?」


ガイズが悲鳴をあげる。


ギルマスが、見たこともないような形相をしていたからだ。


「お前のいう通り、アルトを追放したら私のギルドが崩壊したぞ?どういうことか説明してもらおうか?」


「そ、それは…」


ギルマスは、鬼の形相で少しずつガイズに近づいていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る