第51話
アルトが『青銅の鎧』の失敗した依頼、ミノタウロスの討伐をかつての仲間と協力して成し遂げた一方その頃。
貧民街に潜伏していたガイズは、ついに金が尽きて瀬戸際に立たされていた。
「あぁ…俺、このまま死ぬのか…」
貧民街の薄暗い路地裏に寝そべって、空を見上げているガイズ。
その体は痩せこけて、瞳は虚だ。
彼はもう何日も何も食べておらず、もはや歩く気力すら失われていた。
きっとこのまま野垂れ死ぬのだろう。
今更足掻いたところで無駄だ。
ガイズはそんな諦めの境地に達していた。
「…?」
ふと傍に誰かが立っていることに気がついた。
「いつの…間に…?」
ガイズはその男の気配を感じ取ることが出来なかった。
いつの間にかガイズの傍に立っていたその男は、フードをかぶっており、ガイズをじっと見下ろしていた。
が、唐突に口を開く。
「やっと見つけた。君みたいな男を探していた」
「俺、みたいな…?」
「自暴自棄になり、人生を諦めている…そんな奴さ」
「…」
男のいう通り、ガイズはもはや生きることを諦めていた。
男からはそこはかとなく怪しい雰囲気が漂っており、何をされるかわかったものではなかったが、ガイズには立ち上がって逃げるような体力も気力も残されていない。
ただ、見下ろしてくる男をぼんやりと眺めていた。
不意に男が懐から何かを取り出した。
「これを、お前にやる」
「…?」
それは紫色の石のようなものだった。
「これを飲み込め。そうすれば力が手にはいる」
「力…?」
「そうだ。力だ。誰にも負けない力」
「誰にも…負けない…」
「そうだ。誰もお前に逆らえなくなる」
「…俺に、逆らえない…」
「なんだって手に入る。力さえあれば…金も女も、全部だ」
「金も女も…全部…」
「そうだ。これを飲め」
ポトリと男が紫色の石を落とした。
ガイズは近くの地面に落ちた石を必死に拾った。
「飲み込め」
「…っ」
しばし逡巡する。
だが、ガイズにもはや選択肢は残されていなかった。
この男が何者かもわからないし、この石がなんなのかもわからない。
だが、何もしなければこのまま死ぬだけ。
ガイズは藁をも掴む思い出その石を飲み込んだ。
「…っ!!」
どくん、と。
体に脈動が走ったような気がした。
次の瞬間、爆発的なまでの力が湧いてきた。
「なん、だ…この力は…っ」
ガイズはすくっと立ち上がった。
フードの奥で男がニヤッと笑った。
「ほう…適合したか…ふつうなら体が耐えられず自壊してしまうのだがな」
「自壊…?俺を試したのか…?」
「そうだ。おめでとう。名も知らぬ男よ。お前は今、力をえた。誰にも負けない力だ」
「ちから…」
「体の奥からみなぎってくるのを感じるだろう?」
「感じる」
「その力を使って存分に暴れろ。なんだって手に入る。金や女…あるいは憎い相手に復讐することだってできる」
「復讐…」
ガイズの顔に、最後に責任を押し付けていったギルマスと、全ての始まりであるアルトが思い浮かんだ。
「お前は誰のせいでその状態になった?誰のせいでそこまで落ちぶれた…?復讐したい人間がいるんじゃないか?」
「いる…あいつらを…この手で…コロス…」
ガイズの体のうちから爆発的なまでの憎いという感情が湧き出てきた。
ガイズはもう、ギルマスとアルトに復讐をすることしか考えられなくなっていた。
「アイツラ…オレヲコケニシヤガッテ…ユルサナイ…コロシテヤル…」
「ああ、そうだ。憎いやつは殺せ。お前にならできるさ」
ガイズは気づかない。
自分の声が異様に低くなっていることを。
見た目が完全に人外のそれになっていることを。
「さあ、いけ。怪物よ」
「オォオオオ…」
低い唸り声を上げながら、ガイズは…いや、ガイズだった『モノ』は、貧民街の出口を目指して歩き始めた。
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