第22話


勝負は一瞬で決着した。


「「「「…」」」」


シーンと静まり返る会場。


観衆たちは皆、口をあんぐりと開けて、倒れたまま動かなくなった巨体を眺めている。


そんな中、コツ、コツとエミリアがガレスに歩み寄った。


信じられないと言った表情で、ガレスの体を揺さぶる。


「が、ガレス…?ねぇ、ガレス…ねえってば…?え、気絶してる…?なんで…?」


信じられないと言った表情で俺を見てくる。


「な、何をしたの…?」


「峰打ちだ」


「み、峰打ち…?」


「ああ、開始と同時に腹に一発」


「嘘よ…そんなの…だって、ガレスは元王族に仕えていた騎士で…」


「そうなのか?その割にはそこまで強くなかったような気がするが…」


「…」


エミリアががっくりと肩を落とした。


それと同時に、爆発的な歓声が上がる。


「「「「うおおおおお!!!」」」


「すげぇ!」


「勝ちやがった!!」


「何者だこいつ!?」


「何も見えなかったぞ!!」


貴族たちが、貴賓を忘れて勝者である俺のことを讃えてくる。


「アルト様!!やりましたっ…!」


そんな中、表情を綻ばせたニーナが駆け寄ってきた。


「俺は役目を果たせたか?ニーナ」


「はい…っ!申し分ないです…っ!」


俺の手をとってぴょんぴょんと飛び跳ねるニーナ。


背後で膝をついて絶望するエミリアとはとても対照的に映った。


こうして…俺は突発的に起こったナイトバトルに勝利して、無事にアルトリアの家名を守ったのだった。




「すごいものを見せてもらった…」


「まさかアルトリアの騎士があんなに強いとは…」


まだナイトバトルの余韻も冷めやらぬまま、パーティーは再開した。


「腹減ったな…」


そういえば食事の途中だったことを思い出し、俺は料理を食べ始める。


…と、数人の少女が急に俺の元まで駆け寄ってきた。


「騎士様、騎士様。先ほどの戦い素晴らしかったですわ」


「ええ、お見それしました。まさかあのガレスさんを倒してしまわれるなんて…」


「しかも一瞬ですよ?信じられません」


「はぁ…」


何やら俺の前に来てそんなことを言い始めた。


俺は適当に相槌を打つ。


「お名前をお伺いしても?騎士様」


「アルレルト家の騎士、アルトです」 


作法にのとってお辞儀をすると、きゃあという悲鳴が上がった。


なんなんだこれ。


「ねぇ、アルト様。ぜひ一曲私と踊ってくれないかしら?」


「あっ、ずるいわ!!アルト様と踊るのは私よ!!」


「アルト様っ!!こんな貧乏貴族の娘と踊るのではなく、私と踊ることをお勧めしますわ!」


「え、ちょっと…俺は食事を…」


少女たちが俺の腕を掴み、互いに罵り合いを始めてしまう。


「なになに?」


「ガレスさんに勝った騎士様と踊れるそうよ!?」


「えっ、私も踊りたい!!」 


「騎士様!!ぜひ私とも!!」


そうこうしているうちに、貴族の娘たちが次々に俺の周りにやってきてしまった。


皆、一曲踊ってくれと喚き立てながら、俺の服をあっちこっちから引っ張る。


「ちょ、お前ら…いい加減に…」


これは…一応、多くの女性から取り合われているということになるのだろうか。


なんだろう、あんまり嬉しくない。


そしてニーナさん。


そんなに遠くから睨みを利かせないでください。


こっちきて助けてくださいよ。


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