第74話


「やれやれ…暗殺者がこいつ一人だといいが…」


カゲルを仕留めた俺は、気絶したカゲルをそのまま放置してパーティー会場へと戻った。


カゲルは、ルーナ王女を暗殺できなければ、自分は殺されると言っていた。


あの状態だと今日中の王女暗殺は不可能で、あいつはそのうち雇い主から消されるだろう。


放置していても問題ないと判断し、俺は王女とニーナの元へ戻った。


「よお、変わりないか?」


「あっ、アルト様っ!!」


「アルト…」


会場に戻ってみると、ルーナ王女とニーナは相変わらず一緒にいた。


どうやら二人とも無事のようだ。


「俺がいない間に何かなかったか?」


「い、いえ、特には何も…」


「大丈夫でしたよ、アルト。それで…そちらの方は…?」


ルーナが何か期待するような目を向ける。

安心しろ、王女。


多分あんたの期待以上の戦果だ。


「暗殺者は仕留めた」


「「…っ!?」」


そういうと二人が大きく目を見開いた。


「ほ、本当ですか、アルト様…!?」


「ニーナ。声が大きいぞ」


「あっ、す、すみません…」


俺たちは周囲に聞こえないように声を潜めて会話をする。


「廊下に気絶して寝転がってる…おそらく毒を仕込んだ犯人で間違い無いだろう」


「「…っ」」


ごくりと二人が唾を飲んだ。


「た、戦ったのですか?」


ルーナが恐る恐ると言ったように訪ねてくる。


「ああ。そうだ。毒のオリジナル魔法を使ってきたが、まぁ、なんとかなった。それよりさっさと人をよこして捕獲しておいた方がいい。すぐに動けないようにはしてあるが、何があるかはわからない」


「わ、わかりました…」


ルーナが頷いて、ちょうど近くを通りかかったボーイを呼び止めた。


「すぐに衛兵を…して……えぇ、地下牢に…」


そしてひそひそと何事か耳打ちする。


「わ、わかりました。仰せのままに」


ボーイは恭しく礼をして慌てたように去っていった。


おそらく兵を動員してカゲルを捕縛するように指示を出したのだろう。


ほっと一息ついたルーナが、俺を見つめてくる。


「ありがとうございました、アルト。あなたのおかげでどうやら私は生きて生誕祭を終えることができそうです」


「いや、まだ油断は禁物だ。他にも暗殺者が潜んでいるかもしれない」


雇われた暗殺者が一人とは限らない。


パーティーが本当に終わるまでは注意を怠らない方がいいだろう。


「そ、そうですね…」


ルーナが頷いて身を引き締める。


そんな彼女に俺は言った。


「それから……王女。戦果はそれだけじゃ無いんだ」


「ん…?」


「え…?」


ニーナとルーナが二人してぽかんと口を開ける。


そんな彼女らに俺は言った。


「暗殺の依頼者の名前を押さえたんだ。聞きたいか?」




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