第40話


ミノタウロス討伐の依頼を達成できなかったギルド『青銅の鎧』のもとに、アルトリア家からの使者がやってくる。


「あなた方には失望しました」


アルトリアの使者の男は開口一番にそう言った。


「我々に任せてくれれば確実に成し遂げてみせる。そう豪語していたから、我々はあなた方に任せたのです。その結果がこのザマとは。情けない限りです。『青銅の鎧』はトップギルドだと聞いたのですが…どうやら違ったようですね」


「お、お待ちくださいっ、もう一度チャンスを…」


縋るようにそういうギルマスだが、使者の反応は冷たいものだ。


「いいえ。あなた方は完全に信用を失いました。もうアルトリア家が青銅の鎧にクエストを依頼することはないでしょう」


「そ、そんなぁ…」


「あなた方のせいで、我々は大きな取引の機会を逃し、相当額の損失を出しました。本来なら、裁判に訴えて賠償金を請求してもいいぐらいなのです」


「ば、賠償金…」


「旦那様の慈悲により、今回の件でアルトリアがあなた方を訴えることはありません…しかし、今後もう何かを依頼することはないでしょうね」


「あ…あぁ…」


使者の言葉にギルマスは呆然とする。


アルトリアとの繋がりが絶たれる。


それはすなわち、『青銅の鎧』が今後2度と貴族界とのコネクションを得ることが出来なくなるということであり、彼らの野望は完全に潰えることになる。


「それでは、これで」


「あっ、待ってくださいっ!失敗したのにはわけが…」


「見苦しい言い訳なんて聞きたくないですね。さようなら」


ギルマスを冷たくあしらって、使者は『青銅の鎧』ギルドホームを後にした。


「終わった…」


ギルマスがガクッと膝をついた。


アルトリア家からの依頼を失敗した。


きっとそのことは、瞬く間に巷に広まって『青銅の鎧』のブランド価値を失墜させる事態に発展するだろう。


そうなれば、もはや抜けたメンバーの補填など不可能であり、ギルドの存続すら危うくなっていくる。


少なくとも現時点で『青銅の鎧』がトップギルドの一角から陥落するのは決定事項だ。


「どうするどうする…?どうすればいい…?」


ギルマスは部屋をぐるぐると周り、必死に策を練る。


ちなみに全てを諦めたガイズは呆然として、部屋の隅に突っ立っている。


「あぁ…このままじゃおしまいだ…事態を放置しておけば、さらにメンバーが抜けてしまって取り返しがつかなくなる…どうやったら残ったメンバーだけでも繋ぎ止めて置けるだろうか…?」


ギルマスはもはや役立たずのガイズを頼ろうとせず、自らの頭で必死に考える。


そしてある結論に至った。


「そ、そうだ…!アルトに戻ってきてもらおう…!」


思いついた策は、クビにしたアルトに戻ってきてもらおうというなんとも身勝手なものだった。




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