概要
東京丸の内、ビルの谷間で男が死んだ。
監視モニターがあらゆる場所に設置された歩道上、つまり屋外でありながら密室である。
モニターの死角で刺殺された倉方玜介と、その傍らにいた妻の倉方陽菜子。彼女が目撃者であり、被害者であり、唯一の容疑者でもあった。
事件の一週間後、マンションの自宅が焼失する。放火も疑われたが施錠され、陽菜子が葬式のために外出中の出来事だった。不審な二件の密室事件。
倉方夫婦の関係は複雑だ。夫は自宅に帰らず浮気を繰り返す、その事実に怒るどころか耐えるだけの妻。警察は彼女を容疑者として取り調べるが、全く身に覚えのない陽菜子は困惑するだけだった。
そんな彼女に手を差し伸べたのは東雲財閥の一人息子東雲慶喜。事件の調査をはじめた二人の関係は、徐々に恋愛へと発展していく。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!恋愛心理サスペンス…彼女の心を通して追う真実。
物語は夫が刺殺された時、傍にいた陽菜子の視点で綴られます。
思う所の多い仲であった夫が、突如いなくなった困惑。目撃者、容疑者と扱われてゆく騒がしさ。時に思い出に浸り、全く別の事を考え、今の状況と似つかわしくない言動をする。
それが、妙な現実感。何か事件が起こったとしても、現実を生きていくという事をひしひしと感じさせます。
そして、思いや考えを多分に含んでいる、彼女の視点で物語が進んでゆくからこそ、写実のように鮮やかな、でも決して実写では語れない、彼女の心理、彼女の心のフィルターを通してみた世界を体感するようでした。
決して先の読めない、常に緊張をはらんだ展開。揺蕩うような薄闇の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!誰が夫を殺したのか?
ついさっきまで隣で歩いていたはずの夫が、何者かにナイフで殺害される。
犯人は誰なのか。
警察は妻である自分を疑っているようだが……。
主人公・陽菜子の視点で展開する本作。
ミステリー、事件、となりますと、犯人は誰だろう、真相は? と予想しながら読んでいく方も多いと思うのですが、このお話はなかなかに大人な作品です。
主人公をめぐる複雑な環境、切々と、一方で他人事のように吐露する心理、彼女は孤独なのか、あえて孤独になろうとしているのか……。救いのヒーローも用意してあるのですが、どこか鬱々とした雰囲気が抜けません。混沌ともいいましょうか、配置してある要素は明るいはずなのに、主人公だけはずっと暗…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ミステリであり人間ドラマ
突如、夫である玜介を何者かに殺された陽菜子。それは、二人で歩いている途中、ほんの少し目を離した一瞬の出来事でした。
しかし陽菜子の悲劇はそれだけでは終わりません。警察が玜介を殺しの容疑者と疑ったのは、他ならぬ陽菜子だったのです。
もちろん陽菜子は無実を訴えますが、状況的に一番怪しいのは彼女で、しかも捜査が進めば進むほど、疑いはますます濃くなっていく。
そんなミステリ要素満載な本作ですが、同時に陽菜子をめぐる人間ドラマでもあるのです。
上手くいっているとは言えなかった夫婦関係。玜介にとって自分はなんだったのか。そして自分は、そんな玜介をどう思っていたのか。
さらにはミステリアスな会社の後輩…続きを読む