転生した美少女亜神は最強の神技「時空間操作」を使って異世界を生き抜く!

Cranberry

第1部 異世界イース編

第1話 亜神(時空)になる


 8月第2週の月曜日の朝。通勤電車の窓を大粒の雨が叩いている。やがて窓から広々とした飛行場が見えてくる。航空自衛隊入間基地(こうくうじえいたいいるまきち)。私はこの基地で勤務している25歳の航空自衛官だ。


 次の稲荷山公園駅(いなりやまこうえんえき)で降りて10分歩けば事務所につく。そろそろ降りる準備をと思い荷物棚の鞄に手を伸ばした時。突然目の前が真っ暗になった。





『あれっ どうした?』





 声を出そうとして声にはならず。



 声が出ないだけじゃなく音も聞こえない。

体を動かそうとして体の感覚が感じられない。地に足をついて立っている感覚も無い。

どちらが上か下かも分からない。





『えっ 自分 死んじゃったの?』





 真っ暗というか、外界の情報、目、耳すべての感覚器からの情報が無いような。




 死んでないはずだ。ではこの状況は何?






 私はしばらくの間何もせずに様子をみてみる。何も起こらない。






 目が見えなくなったのかもしれない。だったら近くに人がいるかも。


 身体の感覚が無いのは変だけど。突然の病気や怪我で倒れてしまったのだろうか。意識あるのに植物状態なんて嫌なんですけど。


 声を出すよう意識してみる。





『あのー 誰かいませんかー?』


『はいはい ここに居ますよ』



 後ろから声が聞こえたような気がした!



『うわっ、びっくりした! 誰なのですか? あなたは?』


『僕は神ですよ』





 目の前に「白い光の塊」が浮かんでいる。

この光の塊が返事を返してくれたようだ。





『…………カミって…………神様ってこと、でしょうか?』


『そうです。神様です。GODとも言いますね』





 神って。この状況が冗談や遊びでしたってことは。無さそうだな。どうやったらこんな状況作れるんですかって事だよ。神か。




『そうなんですか? 神様。はい。分かりました。』


『それでね、今のこの現状について君に説明をしようと思うけど大丈夫かな?』




 神様ってことは死んでしまったのかな。死後の世界についての説明とかあんまり聞きたくないんだけど。




『説明してくださると。動揺している感じですけど大丈夫です。説明お願いします』




『では説明します。

君は死んでしまったと思ったみたいだけど最初に言っておくよ。君は生きています。


『僕はとある目的のための適任者を探していてね。地球の日本を見ていたんだ。人が多いからね。そこで君が電車に乗っているところを見つけてね。この人で良いやって思ったから見失わないうちに君の精神構造体を複写コピーしちゃいました。


『そうやって複写してできたコピーをここに連れて来たと言うわけだよ。それが「ここにいる君。


『「ここにいる君」は生きている。

もちろん「地球にいる君」も生きている。今頃は電車を降りて歩いているんじゃないかな』




『そうなんですか? そしたら自分は何なんでしょうか?』




『「地球にいる君」から複写コピーされた精神構造体ですよ。

「地球にいる君」と「ここにいる君」。

このふたりは今や切り離された別人格の存在というわけさ』




 何と。この神様は私の心をコピーして2つに増やしたと言っているような。


 そして増えた余分が私?




『何のためにこんなことを? なぜしたんですか?』




『君を「時空を司る神」として生み出す。そして地球のある宇宙とは違う宇宙へ送り出すためさ。


『なぜかというと僕は時空を司る神「時空神」なんだけど自分の同類を生み出すのが本能のようでね。生み出したいから生み出すのさ。


『それと君を選んだ理由は特にないよ。そろそろ次の時空神を作りたいなーと思って地球を見ていてね。なんとなく君が目に付いて。ついコピーしちゃった。フィーリングかな』





 複雑な話だ。話の内容を咀嚼するー





『そうなんですか。この神を作り出すという工程? プロセス? は中断とかできますか? 中断できるなら地球の本体に戻していただけると嬉しいなーと。結婚して子供できたばかりなんですよ。お願いします』



『悪いね。もう時空神を作る工程に着手してしまった。既に「地球の君」からコピーされた「君」という人格が誕生してしまった。これは「地球の君」とは別の人格なので元に戻すことは出来ない。元に戻すなら、どちらかが死ぬ、ということになるね』




『そこを何とかは?』


『ならない』




言葉がでてこない。



『…………』



『…………』





 なんとか言葉を絞りだす。



『これから私、どうなるんでしょうか』



『続きを話すよ。

生まれたての時空神は神格を安定させるために生身の体を持った神、亜神(時空)にしなくちゃいけなくてね。

要するに君の精神構造体を転写して亜神(時空)化するための「依り代」として生身の知的生命体が必要なんだ。


『この依り代をこの地球宇宙で作っちゃうと君の送り先の宇宙に持っていけなくてね。

地球宇宙と君の送り先の宇宙の物理法則が異なるから物質の相互移動が出来ないんだよ。


『という訳で送り先の宇宙の典型的な知的生命体の体を君の依り代として複製して準備してあるからそれに転写する。

現在はこの段階まで工程が進んだところなのさ』




『じゃあ。私の精神は別の宇宙の知的生命体の体に入れられちゃっている。元には戻せないということですか?どんな体なんですか?』


『理解が早くて助かるよ。そのとおり、元には戻せない。君の依り代は現地の人類。初歩的な魔術を使える体を選んで複製しておいたからそこそこ戦えるんじゃないかな。割と物騒な世界だからね。魔物とかいるし』




『魔術とか魔物とか。そんな世界があるんですか……』




『その辺の説明はあとにして次の工程に進むよ。時間ないからね。「依り代」に転写されている君の精神構造体に、私の「神格」を転写する』




 何かエックス線撮影してるときみたいな。帯電するような熱を帯びるような感覚に5秒から6秒間ほど晒されたような気がした。




「ヨシ、出来た。

これで君を亜神(時空)として別の宇宙に送り出すことが出来ました。おめでとう」





 亜神(時空)にされてしまったようだ。





「……ありがとうございます?」



「どういたしまして。地球の君は精神構造体をコピーされただけだから、今まで通り生きていくはずだよ。君がいずれ亜神(時空)として成長すれば、会いに行けるかもしれないね」


「そうなんですね、わかりました。ありがとうございます」





「白い光の塊」が徐々に人型に変化していく。





 時空神に文句は言わない。神様の神格を転写される際に神様に関する知識を概略だけど転写してもらえた。


 現在の自分は生まれたての亜神。


 それに比べてこの時空神は万能な存在だ。機嫌を損ねるとどんな制裁が加えられるのか想像もつかない。恐ろしい。


 当面は穏便に友好的に。できれば気に入られてプラスアルファのサービスが欲しい。決して世渡り上手とは言えない私だけど、空気の読めない反抗は悪手であることは理解している。


 器の小さい一般市民であるので。まずは無事に生き残らなければ。





 今や完全な人型。20代後半に見えるイケメン男性の姿に変化した時空神。白く輝いてる。





「君を送り出す先の世界はファンタジーA型標準宇宙にあるイースという惑星だよ。この宇宙は僕が130億年前に創り出したんだ。


「イースというのはこの惑星の知的生命体が自分たちの世界を呼称している名前だね。惑星イースはG2スペクトル型恒星のハビタブルゾーンに存在する地球型惑星だよ。誕生して40億年以上経過してるから良い感じに成熟した生態系になっている。


「ファンタジーA型標準宇宙は魔法技術を宇宙構造の中に組み込んだ宇宙の中では知的生命体の社会が比較的に安定する宇宙の一つなんだ。

地球にはない魔法技術の詳細についてはイースでいろいろ試してみてよ。転写した神の知識を参考にするといい。君はそういうの好きでしょ?」





 埼玉県狭山市にある航空自衛隊入間基地に所属する25歳男性航空自衛官。有朱宏治(ありす こうじ)2等空尉(とうくうい)。それが私。


 防衛大学校を卒業したあと幹部自衛官に任官して23歳で結婚。先月には子供が産まれたばかりだった。


 地球にいる妻と別れてしまったのは悲しいけれど、神様の説明だとオリジナルの私自身は精神構造体をコピーされただけで今でも地球で生きている。


 であれば妻と子供については心配ないということだ。


 それに私が亜神(時空)として成長すれば地球を訪問したり干渉したりすることができるらしい。将来の楽しみというか希望が見えた。


 WEB小説を読んだ事あるから異世界に行って生まれ変わるというのは知っている。WEB小説と比べれば生まれ変わる先が人類。しかも亜神ならラッキーだ。小説だとトカゲとか蜘蛛とかの事もあるからね。


 自分自身が異世界で生まれ変わって楽しいのかはわからないけど、どっちにしろ拒否できないし、してしまった。変更もできない。なるようになるだろう。できれば直ぐに死ななければいいなあ。





「神様。いろいろとお心遣いありがとうございます。また丁寧な説明をしていただき重ねて御礼申し上げます。そこで神様。恐縮なのですが、ひとつお願いが」


「何か特別なサービスが欲しいとかチート能力が欲しいとかはナシだよ。そもそも亜神になったんだから十分にチートでしょ?

生まれたての亜神は弱いから直ぐに死んでしまうかもだけど君の依り代は年齢15歳。初歩的な魔法技術を幾つか使える健康な体を選んだからまあ、大丈夫でしょ」





 亜神だから十分にチート?強いって事だな。神の概略知識を参照するーなるほど。強いかもしれない。弱いってのは依り代が弱いってことか。




「はい。わかりました。それでは神様。私から神様とコンタクトする方法はあるのでしょうか?なにしろ神様は私を亜神として生み出した言わば親というべき存在ですから会いたくなると思うんですよね。よろしければご教授お願いします」



「君にしたように亜神を生み出すということは定期的に行う作業のようなものでね。君を違う宇宙に送り出したあとのことについては興味はないんだ。

亜神を送り出す先の宇宙や生み出した亜神がその後どうなろうと関知しないし干渉するつもりも無いよ。

そもそも地球宇宙や転生先のイース宇宙をはじめとして宇宙は無限に存在しているんだよ。

僕自身が無限の過去から定期的に宇宙や亜神を創造してきたんだから宇宙や亜神は無限に存在するんだ。


「無限に存在する宇宙の中で神や亜神同士が出会うことはほとんどない。こうして君のような亜神を生み出したあとに偶然再会したことは一度もないからね。再会する方法がないとは言わないがそうする必要は感じないしね。


「そういうわけで君と別れたあと君と再会することはないだろう。君は君の好きな様にすればいいよ」





「ーーわかりました。ではそのようにします。

私もできるだけ死なないようにして無限の未来まで生きていきます。無限の時間があれば再会も可能でしょうから神様と再び会うことを楽しみにしています」


「ははは。確かに無限の時間があれば再会は可能だね。君の言うとおりだ。僕も君と再び会うことを楽しみにしているよ。

ああ。そろそろ君の依り代がイースで目覚めるみたいだ。もうお別れをしなくちゃ。できるだけ死なないようにね。さようなら」


「はい。ありがとうございました。さようなら神様」




♢♢




 一瞬にして視界が切り替わり、地平の先まで続く荒野が目に飛び込んできた!







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