第19話 南部方面軍司令部(1)

【32日目 午後1時頃 シリトン】


 南部方面軍副司令官フェデリーコ・アメーリア中将は慌しく皇女姉君御一行の出迎え準備を指示していた。


 今日の昼過ぎにロードナイトに所在してアンバー高原からの部隊撤収を支援していた第62師団兵站連隊の連隊長が早馬を乗り継いでシリトンの、ここ南部方面軍司令部司令官室に駆け込んできたのだ。




①皇女姉君御一行は傭兵組合の手配した馬車で南部方面軍司令部に向かっている。朝に発ったので夕刻前には着くだろう。


②方面軍司令部へのご訪問は皇女姉君御自身のご希望であり馬車を妨げてはならない。


③皇女姉君御一行の行方について伝達したのはロードナイト傭兵組合職員マッテオ氏なので適切に処理すること。これも皇女姉君のご希望である。


④以上の情報は傭兵組合マッテオ氏の口述による物だが、途中の宿場にて休憩中の皇女姉君御一行と思しき髪色と年齢の女性3名とリンクスを視認。情報に間違い無いものと思われる。




 第62師団兵站連隊長からの速報を聞いて。さて司令官の御指示は?とサミュル・ヴェルディ中将の方を伺うと顔にとんでもなく汗をかきながら目が泳いでいる。


 ああ。この人はあと半年で軍を引退。大過なく軍歴を全うする事で満額の年金と公爵からの褒賞を貰って田舎の領地に引っ込む予定だったからな。

 領民5000人の準男爵領で孫の成長を楽しみに隠居するって嬉しそうに語ってたよ。


 それが皇女姉君。実は正体不明で謎の超技術保有者にして我々に敵意を抱いている可能性のある危険人物。よりによってこの司令部目指してやってくるとは。


 大過あったね。可哀想に。


 悪い人じゃないし、お世話にもなったから感謝してるけどプレッシャーに弱いんだよな。



「司令官、まずは皇女姉君御一行を丁重にお迎えする準備に掛かります。

更に参謀本部への速報、それから統合情報本部情報官へもお伝えしなければならないと思いますがー」


「そ、それでは副司令官、情報官へは君からお伝えしてもらえるかね」


「了解しました。では私が露払いとして情報官。その流れで魔術研究本部副本部長、参謀本部副本部長にも私からお伝えしますので司令官はタイミングを見て参謀本部長へ一報される、という事で早速」



 副司令官フェデリーコ・アメーリア中将は魔法即時通信を使用して統合情報本部情報官を呼び出した。





♢♢♢♢





 午後4時頃にアリス他2名と一匹。そして傭兵4人が乗った馬車はシリトン領都中心部にある南部方面軍司令部の正面ゲートに到着した。


 馬車は一旦停車。傭兵リーダーフィリッポさんは御者と一緒に外へ出て誰かと話している。


 フィリッポさんは中に戻って来て先導の騎馬に続いて付いて来るよう言われたのでそうしますとのこと。


 そのままゆっくりと走り出す馬車。前を見ると成る程、2騎の騎馬が並んで先導していた。2分ほどで建物の前に着く。司令部の庁舎だろう。馬車の後方出入り口に即製の簡易デッキを若い軍人4人が設置した。



「皇女姉君殿下。下車の準備整いました。ご案内いたしますのでこちらにどうぞ」


「はい、よろしく」



 20歳前後の女性軍人が声をかけてくれる。グレージュの髪をひっつめてあるのが素敵。

 目は大人っぽくて色気があると評判の桃花眼。睫毛が長くクッキリとした二重が綺麗で惹きつけられる。


 誘導に従って後方出入り口に向うと、左手を差し出して右手を取ってくれてニッコリ。



「お支えします。足元お気をつけて下さい」


「ありがとう」



 素晴らしい! 素晴らしい接待です! 期待が高まります。



 手を支えられながら階段を降りたところで女性軍人が挨拶してくれる。



「南部方面軍司令部総務部のサーラ・ビアンコ中尉と申します。皇女姉君殿下のご案内を担当しますのでよろしくお願いします」


「はい マルチナ皇女の姉アリスです。よろしくね」



 ニッコリと微笑むとビアンコ中尉もニッコリと微笑み返してくれる。これだよ。こういうの欲しかったんですよ!やるな。南部方面軍。何をして欲しいかよく分かっている。

 さっそく物質創造で作った飴ちゃん5個入り巾着袋をビアンコ中尉にプレゼントする。凄く喜んでもらえた。


 グレタさんキアラさんが降りて来るのを待ってビアンコ中尉の案内に従い臨時に敷かれた赤絨毯に乗ったところで偉そうな軍装を着たハゲた小太りのじいさんと背の高いイケおじさんがいた。



「司令官サミュル・ヴェルディ中将でございます」



 小太りのじいさんが自己紹介してくれる。



「副司令官フェデリーコ・アメーリア中将でございます。司令部においで頂き光栄で御座います」


「ありがとう。マルチナ皇女の姉アリスです。暫くの間、お世話になりますね」



 ビアンコ中尉の先導で赤絨毯を進む。

 途中で高さ30cm程のお立ち台に乗せられる。正面には儀礼用と思しき抜身の剣を身体右体側に垂直に保持した分隊長と槍の石突きを地面に置き右手でピッタリ体側に保持している10名の分隊員。儀仗兵だ!




「皇女姉君殿下に敬礼ーー」


「頭かしらーーー 中なかッ!」


 分隊長が右手に持つ剣を垂直に立てながら柄を顔の前に持ってくる。そして分隊長の右斜め下方に剣がビシッと放り出される。と同時に分隊員が一斉に槍を体の正面に捧げてこちらに顔を向ける!


「捧銃ささげつつ」の槍バージョンだ!


 分隊の左に整列する4名のラッパ隊が威勢のよいメロディを吹き鳴らす。


パパパパーパーパーパッパパーーパパパパー




 私は感動と共に胸に右手を添えて答礼する。なにこれ超気持ちいい。最高かよ。南部方面軍司令部に出頭することにして大正解だったよ。


パパパーパパパッパ パパパパパーパパパパー


「なおれーーッ!」



 3挙動で一斉に槍を右体側に戻す分隊員たち。分隊長は剣をクルリと回転させながら顔の前に柄を構えてから最初の構えに2挙動で復帰する。シッカリと訓練され気合も漲っている。大変によろしいでしょう!!!



 私はトコトコと分隊長の所へ歩いて行きポケットから飴ちゃん巾着を4つ出して渡す。



「素晴らしい儀仗でした。ありがとう。これからも頑張って下さいね? これ飴ちゃんです。皆さんで分けて下さいね」



 儀仗を受けた後の御礼とプレゼントは様式美だよね。一度やってみたかったんだ。

 航空自衛隊じゃ儀仗を受けるほど出世しそうになかったから。イース世界で経験できて感動だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る