第59話 大悪魔タンニーン


【225日目 悪魔の魔境の西端 午後4時頃】



 グレタ、キアラ、サーラ、エミリーの4人は言葉も出ない。



「いちおう想定通りだね。アースに現存する類似兵器とほぼ同じというか、全く同じだった。これなら大悪魔タンニーンもイチコロじゃないかな」



「アリス様。これは神の怒りの鉄槌ですね? 

偉大なアリス様。亜神アリス様のお力を今日ほど強く感じたことはありません。どうか今後ともイースの人類にお心をお寄せください。

この偉大なる神器。大悪魔なんぞ一撃ですよ。

なんなら中央大陸の竜の盆地。今すぐに行っても火竜、闇竜の息の根を止めることが出来るでしょう。このグレタが保証します」



他の3人もコクコクと頷いている。




『ハエ男爵 居るか?』


『なんだ。姿も見せず名も言わぬ卑怯者よ。』


『悪魔伯爵、カマキリ伯爵はどこにいる』


『伯爵はここから北東80キロルのところだ』


『よし。悪魔男爵よ! カマキリ伯爵を配下の軍勢ごとここまで引っ張ってくるのだ!』







【226日目 悪魔の魔境の西端 午後5時頃】



 ハエ男爵は24時間後にカマキリ伯爵とその配下軍勢を引っ張ってきた。やはりカマキリには魔獣調教は効かなかった。カマキリとの距離は1kmだがマイホームを完全に閉鎖しておけば神器を使用しても問題ないだろう。


 一応遠視でカマキリの様子を観察してみる。概ね上空20mでホバリングしている。鎌を大きく広げて羽を大きく羽ばたかせ胴体をそっくり返しながら。音が聞こえないのは幸いである。気が狂うかもしれないからね。




 黒いカマキリ。顔は逆三角形で左右の頂点に巨大な複眼。身体が茶色がかった黒のくせに複眼は真っ白である。複眼なのに真っ黒い目ん玉が付いていてこちらを見つめているように見える。カマキリの複眼って中心部が黒く見えるんだよね。不気味。


 カマキリって茶色っぽい黒だとゴキブリにそっくりだね。あの柔らかそうな外骨格。確かカマキリもゴキブリも白蟻の仲間だったような気がする。そういやカマキリの卵って大量の子カマキリが卵から生まれるところなんてゴキブリと一緒じゃん。




 ーふむ。ハエ男爵よりもキャラが薄いね。これ以上観察してもコメントはこれ以上出そうにない。




……カラス第1編隊! W54型神器を運搬せよ! 手順はさっきと同じ ただし退避はマイホームまでの2倍の距離を取れ!




 さっきはカラス君たちは衝撃波で吹っ飛ばされたって言ってたからね。エネルギーは40分の1だけど今回はマイホームとの距離が1キロだからマイホームまでの倍の距離を取れば良いでしょう。多分。








 5、 4、 3、 2、 1、


 昨日のトリニティサイト型と同じくファイアーボールが出現した。ただし直径は50mほどである。距離が近いのでその光景に圧倒されるのに違いはない。しかし音も振動も全くなく光のエネルギーも上限カットされるのでテレビの画像を見ているようである。今回は距離が近かったからマイホームを完全に閉鎖したために神託・念話・調教が不通なのでカラス達の様子が分からない。




 30分くらい経って落ち着いてきたので念話・神託・調教が通じるように微小ホールを開ける。




『ハエ男爵!』


『ゴミムシ公爵を引っ張って来いというのだろう 行けばいいのだろう 行けば』


『理解が早くて結構。行くのだ! ハエ男爵!』







【228日目 悪魔の魔境の西端 午後4時頃】



 ハエ男爵は47時間後にゴミムシ公爵を引っ張ってきた。ゴミムシにも魔獣調教は効くわけなかった。やはり距離は1kmだがマイホームを完全に閉鎖しておけば前回同様に問題ない。


 一応観察してみよう。遠視!


 コイツは飛ばない虫みたいだね。触覚の短いゴキブリか。これと言った特徴はないな。




……カラス第1編隊! W54型神器を運搬せよ! 手順はさっきと同じだ!






♢♢






『ハエ男爵!』


『襟巻トカゲを引っ張って来いというのだろう 分かっておるわ』


『よし行け! ハエ男爵!』







【229日目 悪魔の魔境の西端 午後5時頃】



 ハエ男爵は24時間後に悪魔の魔境の主である襟巻トカゲの大悪魔タンニーンを引っ張ってきた。コイツとは話をしてみたいので更に近くに引っ張ってくる。


 距離20m位に近づいた。




『お前がこの魔境の主、大悪魔タンニーンなのか?』


『そのとおりである。我こそが大悪魔タンニーン。悪魔の中の悪魔である。』


『お前はなぜ存在している? 何が目的だ?』


『我が存在しているのは魔境核を守護するためよ。故に魔境から出ることはない。魔境は出現した時から領域の広さは変わらないのだよ。なのにわざわざ魔境に入ってくるものがある。迷惑な話よ。』


『ならお前はなぜここまできた? 魔境核から離れてもいいのか?』


『魔境核を通じて貴様を監視していた。貴様のような奴に先程のような大爆発を魔境核の側で起こされるわけにはいかぬ。故にそこの悪魔男爵の申す通り足を運んでやったのである。我に用事があるのであろう』


『魔境核はあの爆発に耐えられないのか?』


『耐えられる訳なかろう』


『そうか。ところでお前、どのくらい強いんだ?』


『このイース世界最強である。数ある魔境の主とはいえ、我より強い主はおるまい』


『自身満々だな。何を根拠にそんなことを。お前この魔境から出たこと無いだろう。中央大陸の火竜、闇竜のほうが強いだろう。

奴らは別世界から来た神の使徒でありこのイース世界で神に至った者共だぞ』


『そんなこと知っておるわ。我がいつから存在すると思って居る。この星が出来て大陸が姿を現した時から存在してきたのだ。高々6000年~7000年しか居らぬ者共に遅れはとらぬわ』




 なんと! これは丁度いい生き字引が居た。この悪魔の魔境の悪魔共は口が軽くてお喋りって傭兵組合のおじさんは言ってた。このタンニーンも口が軽いかな?




『タンニーン。お前何で火竜や闇竜のことを知っている。ここから出たことないのに』


『魔境の主のみは魔境核からこの世界の知識を受け取ることができるのだ。我はこの魔境が出来た25億年前からここの主として存在しているのだ。我が原初の魔境の主である』


『火竜と闇竜は何で自分たちの世界に戻らない。この世界に奴らの目的なんて無いでしょう?』 


『闇竜は奴の主からゲートを守れと命令されておる。ゲートの向こうが岩石で覆われているゆえ戻れない。それだけだ』


『ゲートの転移面に闇弾をぶち込めば向こうの岩石など消滅するだろう。なぜやらない』


『それは分からん。そんなことしたらゲートが破壊されるのではないか』



『ええー? そっか。分かった。サンキュー、タンニーン』





『姿の見えない謎の存在よ。貴様は神であるな? 我がしもべ悪魔伯爵と悪魔公爵をあの爆発で滅ぼした。

さては亜神エネルギーだな。あんなことできる神は他にはいない。25億年存在してきた大悪魔タンニーンが忠告してやろう。

あの力は矮小な依り代を持つ貴様には過ぎた力だ。いずれは貴様の身体を蝕んでいくだろう。

五千年から一万年程度の寿命しか無いのだからせいぜい大事にすることだ。我は貴様のような亜神エネルギーが滅んでいく姿を何回も見たぞ?』




 フーン。この大悪魔タンニーンは色々と博識の上お喋りだねえ。しかも「魔境核」からなかなか役に立つ情報を得ることが出来るんだね。この襟巻きトカゲは今後のため生かしておいて活用するのも良いかもしれないね。コイツは悪魔男爵のハエとかカマキリとかゴミムシほど気持ち悪くも不気味でもないし。虫系じゃないからかな? 


 念話による会話中に大悪魔タンニーンは目をキョロキョロ動かしたり舌をペロペロ出したりしてるけど今までの悪魔達と違って若干の可愛いげがある。




『残念。時空神だよ、タンニーン。

で、君はここから出ないんだよね。この魔境から出ないこと。配下の悪魔をこれ以上作らないこと。魔境核を中心に半径10キロメルトから悪魔を出さないことを約束できれば滅ぼさないでやってもいいよ? 貴重な生き字引だからね』



『貴様時空神と言ったな? 魔境核に問い合わせるーーなるほど。あんなことやこんなことも出来るのか。

わかった。貴様の要求は飲もう。

せっかく25億年存在してきたのだからまだまだ未来まで存在したいのだ』


『じゃ頼むよ。半径10キロメルトの円周上に岩石を山にして積み上げて人類に分かるようにしてね。迷い込んだ人類には出ていくよう警告を十分に行ってね』


『分かった。亜神(時空)のー』


『アリスだよ。異世界アースの亜神アリスだよ』


『異世界アースの亜神アリスよ。何か知りたいことがあればまた来るが良い』


『サンキュー 大悪魔タンニーン。この惑星イースの最長老である生き字引よ。悪さはするなよ?』


『分かっておるわ。さらばだ。亜神アリスよ。また会おう』


『またね。バイバイ』





 大悪魔タンニーンは魔境核のある魔境中心部のある東に向かってバタバタと走って去っていった。



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