第58話 悪魔の魔境再び
【225日目 悪魔の魔境の西端 午後3時頃】
私、グレタ、キアラ、サーラ、エミリーは縦列となって長距離走行モードで走行していた。アンバー高原の北東端をひたすら南下している。
このまま進めば悪魔の魔境の西端にぶつかるはずだ。半年前にガマガエルのアークデーモンを討伐したあたりになる。想定距離はフローライトから45キロメルト。そろそろ到着すると思うけどーー。
『カラス第3飛行隊から報告! 前方2キロメルトに黒い悪魔の集団発見! 集団の中に黒ハエ発見! アリス様! 早速いましたよ! すぐに調教しましょう!』
「ちょっと待って。その前に飛行! そしてマイホーム開口部展開!」
飛行1で上空10mまで上昇してマイホーム開口部を展開する。私の後に続いてエミリー、キアラ、サーラ、グレタの順に開口部からマイホームに入っていく。はなから上空に開口部を開けたほうが神力の大幅な節約になるのだ。ふふ。私だって学習しているのですよ。
黒ハエまでは距離があと2キロメルトほどもあるのでサーラさんに光弾4をハエ男爵の付近に打ち込んでもらう。光弾は曳光弾でもあるので魔法発動者の所在地がバレバレになっちゃうけど今回はハエをおびき寄せたいので丁度いいのだ。
魔物の集団は波を打つようにこちらに向かって押し寄せてくる。なんでこんなに大量に密集して存在しているのか。見た感じ2~3万匹くらい居そうである。ほとんどが狒狒の褐色レッサーデーモンである。
デーモンどもの存在比率から考えると例のガマガエル型アークデーモンが40~50匹、シュッとした人型デーモンが200~300匹は居るだろう。
やがてマイホーム眼下一帯が悪魔共で一杯に埋め尽くされた。
久しぶりにレッサーデーモンを見たが相変わらず目が赤く醜い鉤鼻。口は耳まで裂けて針のような牙が無数に生えていてよだれを垂らしている。耳は醜く垂れ下がっており頭には禍々しい角。
一体一体に個性を感じない画一的なフォルム。同じ金型で大量に成形したみたいだ。
レッサーデーモン共から視線を上げると高度100メルトから30メルトほどをハエらしい気持ちの悪い軌道を描きながら接近してくる黒いハエがいる。なるほど。アイツがハエ男爵か。ハエ叩きで叩き落としたくなる。
おやあ? マイホームから50mくらいのところで空中ホバリングをしているな。どれどれ。遠視を使ってハエ男爵の様子を観察してみよう。
フムフム。前足をしきりに擦り合わせている。何を考えているのかさっぱりわからない巨大な二つの茶色い複眼。複眼の下には長さ50cm太さ径30cmくらいの筒が垂れ下がっており先端からはぬらぬらとした舌が盛んに出入りしており涎を垂れ流している。
観察しても不気味なだけだった。
あの黒ハエはサーラさんの光弾の効果によって我々の場所については見当をつけているはず。そして一向に近づいて来ない。なるほど、さすがハエとはいえ男爵。警戒して50m位から近づいてこないようだ。
しかし調教系の魔法は視界が通れば1km位から効果範囲である。では遠慮なく。
『魔獣調教1 そこのハエ!』
なんと! 掛かった!
『そこのハエ。聞こえるか』
意思の表示で問いかけるもハエは悠然とホバリングしている。調教されたのに堂々としているなあ。
調教による意思の表示なので会話の内容を皆んなに説明してあげる。アークデーモンの時と同じです。
『お前は誰だ。どこにいる。この悪魔男爵に対して無礼であろう。すぐにこの支配を解除するのだ』
『ふふふ。ハエ風情に名乗る名など無いのだよ。お前、名は有るのか』
『馬鹿にするでない。悪魔男爵こそ唯一無二の名前。悪魔男爵は我しかおらぬのだからな。』
『なるほど。お前より上位の存在は何人いるか。名前を列挙せよ。』
『我より上位は魔境の主タンニーン様よ。その次は悪魔公爵閣下。そして悪魔伯爵様よ』
ハエ男爵は色々と教えてくれる。フローライト傭兵組合のおじさんが教えてくれた通り魔境の主、悪魔公爵、伯爵がいるようだ。そう言えばこのハエを飛行ドローンとして中央大陸まで使い捨てにできるんだろうか? 聞いてみよう。
『お前はこの魔境から出ることはできるのか。この魔境から出てこのイースを一周するほどの飛行は可能か?』
『出たくはないが出ることは可能だ。なんだ我を何かの使いに出そうというのか。お前に対してあらん限りの呪いと恨み。恐怖をぶつけ続けてやろう』
超遠距離自律型飛行ドローンとして利用できそうだね。では特殊神器の実験を始めようかな。
『ハエ男爵。向こうに小高い丘があるだろう。そこにこのあたりの悪魔どもを集めよ』
ハエ男爵は強い怒りの波動を発しながら悪魔どもに指示を出した。
概ね40分後。悪魔たちは半径500m内に密集したようだ。中心の丘まではここから4kmほどある。ハエ男爵にはこっちに戻ってこさせる。
『カラス第1飛行隊 第1編隊! このトリニティサイト型神器をあの丘の天辺に置いてきなさい! 神器を置いたら一旦その場で待機。神託で報告せよ!
カラス第2飛行隊は第1編隊の援護を実施せよ!』
グレタ、キアラ、サーラ、エミリーの4人は固唾をのんで見守っている。隠蔽用神器を監視用開口部に密着させる。大丈夫とは思うけど念のためなのです。
そのかわりに背後の壁に直径1μmの穴を開ける。どこかで空間的につながってないと神託とか念話、魔獣調教が繋がらないからね。
遠視でカラス達の様子を観察する。お、特殊神器を設置できたみたいだね。
……頂上に置いたぞ マスター。
……よし。障壁遅延解除1分。スタート! カラス第1編隊、カラス第2飛行隊直ちにこちらに退避! 1分以内にマイホームまで撤退。高度は500メルトくらい取りなさい!その後に丘の天辺を観察して戦果報告せよ!
……ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャー……
50、40、48、47、46、45、
戦果確認までは神託を接続し続けなければならない。カラス共うるさいなー。
……ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャ
10、 9、 8、 7、 6、 5、 4、 3、 2、 1、
突如として直径200mほどの白熱した光輝くファイアーボールが出現。地面に半分埋まっている半球ドーム状。
ファイアーボールは徐々に膨張しながら上昇していく。およそ10秒後には典型的なマッシュルーム状キノコ雲となるがマッシュルームの傘の部分はファイアーボールが上昇したもので未だに白く輝いている。空には衝撃波によって形成された巨大な水蒸気の環っかが浮かぶ。
と、猛烈な衝撃波がマイホームを襲う。疎らに生えていた低木が枯葉のように砂ごと吹っ飛んでいく。マイホームの周囲が砂嵐に覆われて何も見えなくなる。
音がシャットアウトされているから無音だが外がとんでもないことになっているのは分かる。
カラスくんたち身体強化使っているから大丈夫でしょう。最悪私が治癒をかけてあげるからね。
……ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー
……ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー ギャーギャーギャー
……誰かへんじしろ
……マスター 何だ
……何だじゃないだろう 戦果確認できたのか
……できた 真っ白い光の塊ができて そのあと吹っ飛ばされた ビックリしたが問題はない
……よし……神託終了
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