第10話 辺境の街
【11日目 早朝】
概ね6から7キロル踏破したところで東の夜空が薄らと白んできた。夜間の行軍を終了し朝食とする。塩おにぎりも良いけど飽きが来るので内容を変える。
「物質創造 ハンバーガー大きめ。具はしっとり多めでポテト付きセット3個出ろ!」
私の好きなハンバーガーとポテトのセットが出て来る。数あるハンバーガーチェーンの中でも好きだったんだよね。
具がしっとりしていてボリューミー。野菜多めでソースとパティの味が調和していていつ食べても大満足。
「ささ、沢山召し上がれ。お代わりも大丈夫だからね。水はさっきのコップに自分で入れてね。」
『ボブは鳥のモツ(生)で良い?
では ニワトリのモツ(生)出ろ!』
「それでは頂きましょう。」
ハンバーガーの食べ方を見せながら教えつつ朝食を食べる。
物質創造ハンバーガーセットの神力消費は塩おにぎりの半分くらいだ。やはり質量依存で消費が変動するようだね。
野生動物には内臓も与えないと栄養素が足りなくなると聞いたことがあるのでボブにはモツを与えてみた。
本当は飲み物としてコーラとか炭酸とかお茶が欲しいけど物質創造で「ほぼ水の飲料」を作る訳にはいかない。神力が勿体無いから。
ハンバーガーに二人は大変満足してもらえた。ふふ。幾らでもあげますよー。
私は大きなハンバーガーセット1個で満足だが今まで厳しい食事事情だったと思われる二人と一匹にはお代わりを追加しておき体力の回復を促しておく。
ジェダイトに正体不明の能力者が居る可能性はあるものの現状では情報が足りないのでその可能性に留意しつつ慎重にジェダイト公都潜入を目指すこととする。
朝食後神力をマイホームに注入して内径を4.3mにまで拡張した。というのも人が直ぐ隣にいる状態でトイレは無理だと気がついたんだよね。気がつくのが遅いけど。
それにジェダイトにおけるマルチナさん救出ミッションにおいてこのマイホームの居住性が良いことが成功の鍵になるかなとも思っている。
で、マイホームを出来るだけ拡張していって余裕あるレイアウトにしたい。とりあえず上下半分に割って上を居室に、下を物置とトイレにという訳。
その諸々の作業に必要な神力を準備するのに2日ほどここをキャンプ地として待機しようと思う。その間、二人と一匹は魔術の訓練と検証をお願いした。
限られた魔力で如何いかに効率よく効果的に魔術を運用出来るのか。
そのためには個々の魔術のレベル毎の効果と消費魔力の解析が必要不可欠となる。グレタさん達にはこれを担当してもらう。
【13日目 夕方】
イース世界に転生して13日目の夕方。このキャンプ地に着いてから2日半。ようやくマイホームの改良が終了した。
内径は余裕の6mで下から2.5m、2.5m、1mの空間を「障壁」で区切って三層構造とした。
1番下の第1層は出入口の開口部、トイレ、物置、洗面、調理場。
トイレは洋式で新たに追加接続した内径1mの球状異空間の中に汚物を落とし込むようになっており使用後は「洗浄」をかけて処理する方式とした。
小便器はない代わりにボブ用の和式ぽっとんを準備して同じく内径0.5mの球状異空間を設置。
洗面調理場の排水も球状異空間を設置。水は使いたい人が魔法で自分で出すスタイル。
第2層へは急だが階段で上がって居室。下からの階段入り口とベッド3箇所を円周に沿って均等配置。
中央にソファーセットを置く予定(まだ出来ていない)
第3層へは急な階段でアクセス出来るロフトでまあ現状では物置にしかならないかな。
これ以上マイホームの内径を拡張しようとすると投入する神力に対するスペースの効率性が減ずると思ったのでこれからはアナザーワールドで追加の異空間を接続してスペース拡張を図る。
概ね内径6m程度の球状異空間を必要に応じて連結させていくこととする。
とりあえずこれで、その気になれば一週間でも一ヶ月でもマイホームに立てこもってミッションの遂行が可能な体勢ができあがった。
出来上がったマイホームを見たグレタさん親娘は「ふむふむ。亜神アリス様ですからこのくらい当然ですね」みたいな感じで何故か自分たちの手柄のように自慢げにしていた。
いよいよジェダイト方面の人類生活領域へ向けて歩き出した。
マルチナさん救出作戦の開始である。全員十分な休養を取ったということで軽くジョギングで移動することにする。
2日も待機していた訳なので遅れを取り戻す意味もある。全員が「筋力5」「持久力5」「衝撃耐性5」を持っているから全く問題ないだろう。
「アリス様、暗視1筋力1持久力2衝撃耐性2で多重発動すると魔力消費と回復がほぼ均衡すると思われます。試してみてください」
「うん、分かった。えーと暗視1筋力1持久力2衝撃耐性2!」
MPamount 99/100 remaining time ∞
「確かに。これ夜間長距離移動パターンで使えるね。ありがとうグレタさん」
♢
魔力消費が魔力回復と均衡する程度の強度の発動でもおよそ時速15キロル程度は速度が出ている。
1時間ほどかけて15キロルほどは走破したと思うのでそろそろかな?
おお、左10時の方向およそ5キロルに建物群を発見。人類生活領域だ。
まだ宵の口だから酒場とかで情報収集できるかな?食糧とかの買い物も出来れば嬉しい。そして公都への行き方が分かったら直ぐに出発だ。
居住地の手前500mからは歩く。
「グレタさん、この時間にアンバー高原の方向から街に入ろうとすると不審に思われますかね?」
「そうですね。おそらく、ですが、境界柵も見張も見当たりませんから特に警戒心が強いというわけでは無さそうです」
グレタさんは遠視と暗視を使い細かく街の様子を見ながら答えてくれる。
「じゃ静かに堂々と入りますか。なんか情報収集に適した場所に心当たりありますか?」
「アレキサンドライト帝国には一定以上の規模の集落には傭兵組合の事務所がありますのでそこに情報要求を依頼すればお金は掛かりますけど回答してくれると思います。
でなければ酒場か商店か。
酒場は酔っ払い相手になるとめんどくさいですね。我々は全員女性ですし」
「なるほどー。傭兵組合ですか。
あるんですね傭兵組合。ちょっと行ってみたい気がします。
傭兵組合を探しましょう」
アッサリと居住地域の中に入って行く。一応マントのフードは下げておく。夜にフードだと不審者として逆に目立つというグレタさんの意見を採用したものだ。
ちなみに私のフード付マントはこの二日間のあいだに物質創造で製作した。
閑散としていて建物が疎らな区域からやがて建物が密集したメインストリートと思しき大通りに入る。
営業している酒場が一軒あるね。その30m離れた対角線の位置にウエスタン式回転ドアの事務所風建物があって灯りが灯っている。グレタさんは酒場を通り越してその建物に向かって歩いて行く。
事務所風建物のウエスタン式回転ドアを開けて中に入る。カウベルがカラカラと鳴ってカウンターの中のおじさんがこちらを見る。頭の半分禿げ上がった赤ら顔の40男だ。
一応我々のグループの設定としてはグレタさん親娘と親戚の子(私)が公都の親戚を頼るため旅行中というものだ。
これはアレキサンドライト帝国訪問団が何らかの理由で逃亡する際にあらかじめ決めてあった設定を流用させてもらった。
「夜分遅く申し訳ありませんが、まだ営業しておられますか?」
設定上の代表者であるグレタさんが尋ねる。
「ああ、ロードナイト傭兵組合へようこそ。あと30分で締める予定なんだがそれでもいいかい? 話は聞けるよ」
「ありがとうございます。
実はですね、我々三人で公都の親戚を訪ねる予定でしてね。
出来れば乗合馬車とか、そうでなければ物騒なので護衛の方でも契約出来ればと思ってお尋ねしたいんです」
「ほお、そうかい。乗合馬車の乗車予約は傭兵組合が業務代行しているんだ。
えっと乗合馬車は一週間に1便今日からだと明日に出発便があるんだが満席だね。
「数日前に何か大捕物があってね。
その命を受けた公爵軍派遣部隊の大部分はもう公都に帰還したんだけどね。
最後まで居残っていた20人ほどが明日の乗合馬車に分乗して帰るんだってよ。運が悪いなお嬢さんたち。
「急ぐなら護衛を雇うのはどうだい?
歩いて行くとなると傭兵も嫌がるから割高になるけど来週の乗合馬車を使うよりも断然早いよ。
「歩いたら2泊3日で次のシリトン子爵領都だ。護衛3人で金貨3枚ってところかな。
お嬢さんたちの護衛なら皆んな喜んで手を挙げると思うぜ。
何なら今から向かいの酒場で募集してこようか?そしたら明日出発できるかもしれないぜ?」
「お気遣いありがとうございます。
生憎あいにく持ち合わせてが少なくて護衛の雇用は難しそうです。
申し訳ありませんが、そのシリトン子爵領都への道と食糧を購入出来る所をご紹介いただけませんか?」
「ああ、シリトン子爵領都へはこの目の前の大通りを左に出てまっすぐ行けばそのまま街道になって領都に一本道さ。
食糧は心当たりがあるからちょっとここで待っててくれれば、商人を連れて来るよ。
この時間だから店は空いてないのさ。ちょっと待ってな」
カウンターのおじさんはカウンターに休憩中の札を掛けるといそいそと外に出ていった。
♢♢♢♢
俺は傭兵組合職員のマッテオ。夜のメインストリートをコソコソと周囲を窺いながら公爵軍派遣部隊が入り浸っている酒場へと急いでいる。なぜなら営業時間の終わり間際に飛び込んできた客を一目見てピンと来たからだ!
あの黒髪の2人は公爵軍派遣隊が取り逃したとして手配されている女2人だ! 瞳もヘーゼル色、年齢も大体合ってる。
情報提供の賞金が1人金貨10枚。2人で20枚確定だ!
もうひとりの女は手配には無いが手配者と行動を共にしているなら共犯で有罪だ! あれ程の上玉ならボーナスがあるかも知れん。上手いこと組合事務所で待たせることが出来たから今すぐ酒場に居る派遣部隊に通報だ!
俺は酒場に入ると手揉みしながら酒場で酒を痛飲している派遣隊長代行に急いで近づく。
「隊長様、隊長様。傭兵組合のマッテオで御座います。逃亡中の女2人とその共犯者の女1人を発見して傭兵組合に待たせてあります」
「なにぃ。本当のことなのか?」
「本当ですよ。私は傭兵組合の職員ですよ?嘘を言うわけないでしょ。しかも共犯者はアッシュブロンドのビックリするような上玉ですよ! 早く捕まえましょう!」
「ほんとだな〜 嘘だったらただじゃおかないからな?
「今ここにいる公爵軍全員注目!
「逃亡中の女2人とその共犯者の女1人が傭兵組合の中にいる!
共犯者はアッシュブロンドの上玉だ!
速やかに逃亡者2名と共犯の上玉女1名を確保する。
お前は宿舎に急行、居るやつ全員応援に来させろ! 武装してこいよ!
残りの者、武器持ってるやつは武器の使用を許可する!
魔術の使用オールフリーだ! 出動!」
♢♢♢♢
あの傭兵組合の職員。外見はアレだけど、なかなか人当たりのいいおじさんだったな。しかし数日前の大捕物って間違いなくマルチナさんのことじゃん。
あの酒場にマルチナさん捕縛作戦に参加していたヤツらが居るかも知れないんだね。
危ない危ない、酒場での情報収集はアウトだったよ。
「アリス様アリス様ちょっといいですか?」
傭兵組合の扉から外を見ていたキアラさんが私に声を掛ける。
「うん、いいよキアラさん。どうしたの?」
「さっきの禿げおじさんだけど、いったん酒場を通り過ぎて右の方に向かって歩いていって、ぐるっと回って酒場に入ったよ?」
「えっと、マジで?」
「マジです。」
私とグレタさんは急いで扉に向かいキアラさんの指差す酒場の様子を観察する。
「あのハゲ、私たちを嵌はめようとしているのかな」
「そうかも知れませんね。こうなったら商人とか商品とかもうどうでも良いから放って置いてさっさとこの街を離脱致しましょう。直ぐにいきましょう」
「よし、シリトン子爵領都へ直ちに出発しよう。ボブ行くよ!」
急いで扉を出て全員の状態を確認する。ボブはキアラさんが抱っこする。異常無いね。いざ出発!
ところが! 私たちを怒鳴りつけて命令する怒声が夜の街に響き渡る!
「そこの逃亡者2名と共犯の上玉女! お前たち手を頭に揃そろえて膝をつけ!」
「抵抗するなよ! 大人しくしろ!」
酒場から7人の厳つい髭親父と傭兵組合のハゲが飛び出してきた!
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