第45話 火竜の信者


【57日目 ジェダイト公都南方100キロ シリトンに至る街道上 午後2時】




 第3使徒グレタ達の乗った大型馬車はジェダイト公都に至る街道を北上していた。フィリッポ曹長が御者を務めていて、それ以外のグレタ、巫女エミリー、その他の軍団員3名は後部の客席に座っている。


 シリトンを出発して既に7日が経過している。タイミングとしてはそろそろマルチナ皇女を含む使節団一行と行き当たる頃である。


 馬車の周囲には常にカラスまたはフクロウが2羽編隊で飛行している。グレタの調教状態になっている強化カラス2号と強化フクロウ2号の統制下にあるカラスとフクロウたちである。

 シリトンを出発した時点ではそれぞれ10羽づつの配下を伴った状態であったがこの7日間でカラスの配下は100羽、フクロウの配下は20羽に増えていた。グレタがカラスとフクロウを見かける片っ端に調教をかけたからである。


 グレタは動物調教の真価を見抜いていた。


 知恵があって高速空中機動できるカラスとフクロウは秀逸である。何羽居てもいい。餌と水は強化個体に面倒見させれば手間もない。使い捨てできる便利な駒。


 内心フィリッポ達より役に立つのでは? などと考えているグレタであった。









 警戒監視のため前方展開させている強化カラス2号から意思の表示!人間同士の戦闘があったようだ!怪我人が多数居る!


 「意思の表示」とは動物調教された動物と調教者が自己意識を伝達する手段である。到達距離はおよそ1キロルで念話の10倍ほどになる。



 グレタは強化カラス2号に現場に急行しての状況確認を指示する。



「みなさん前方2キロルから5キロル地点で戦闘があったようで怪我人が居るようです。詳細を確認中ですがマルチナお嬢様の使節団が戦闘に巻き込まれた可能性もあります。ちょっと急ぎますよ」



 速度を上げる大型馬車。









 強化カラス2号からの意思の表示。



『マスターグレタ。マスターの目的であるマルチナのいるグループが野盗に襲われたようだぞ。盗み聞きしたグループの人間の会話からするとマルチナが拉致されたと言っている』


『拉致? カラス2号! 配下を周囲に展開して野盗を捜索しなさい! 発見したら追跡すること。絶対に見失わないで!』


「フィリッポ! 馬車を止めなさい!」



 緊急事態だ!カラス2号が1キロル以上離れたら意思の表示によるコンタクトできないから野盗を見失ってしまう!


……神託 アリス様 緊急事態です






♢♢♢♢





 シリトンの高級宿屋「高目」のスイートのリビングでゴロゴロしながら思索に耽っている亜神アリス。




 女神イースと出会って3日が経った。


 その間、5000年前の事を中心として女神イースが知っている事を聞いているうちに女神イースとその巫女ふたりがこのスイートに泊まり込むようになってしまった。


 女神イースとイースの巫女ふたりは好きだからウエルカム。なので新しく作ってあった第4の球状異空間をマイホームに接続してイースホームにしてあげた。イースさんもこれで安心できるでしょう。




 そばにはサーラさんがいて何かと私の世話を焼いてくれる。



「ほらアリス様、この焼き菓子凄く美味しいよ。食べる? 林檎フレーバーの紅茶も淹れたよ。はいどうぞ」


「うん。ありがとうサーラさん。サーラさんの入れてくれる紅茶は美味しいからね♪」


 ニッコリと微笑むとニッコリと微笑み返される。素晴らしい。完璧な午後の昼下がりです。こんな毎日が永久に続けばいいのに。そして闇竜と火竜には大至急死んで欲しい。





 あれえ。


 私の中のマルチナさんがザワついている。グレタさん達と再会したからって訳でもないような。







……むむ グレタさんから神託 何かあったね?




……アリス様 緊急事態です マルチナお嬢様が何者かに拉致されました


……分かった! 直ぐに神楽で呼んでちょうだい



「みんな、緊急事態だからグレタさんのところに神楽で飛ぶよ。じゃー」





♢♢





 グレタさんの通報を受けてエミリーさんの神楽によって降臨(転移)する。


 降臨(転移)のエフェクトは割と自由みたいだ。イースさんの時のような派手な登場ではなくパッと実体化する。



「グレタさんお待たせ! 直ぐに神託で強化カラス2号の状況を確認するよ」




……強化カラス2号よ 状況を報告せよ


……サブマスターアリスか いまだ捜索中 見つからない 我だけだと手が足りない 加勢をよこせ


……分かったよ 待ってろ




「グレタさん、まだ見つからなくてカラスの手が足りないって。強化カラスを増やすからカラス隊を召集してもらっていい?」


「了解です。カラス第1、第2、第3飛行隊集合せよ!」




 3個飛行隊って随分集めたね。おおお。カラスの大群が突っ込んでくるのはいつ見ても心臓に悪いよ。



 カラスが次々と着地していく。着地してもなく訳でも騒ぐわけでもなく大人しいのも不気味。



「よーし、横隊に整列!」



 強化するカラスを選り好みしている余裕はない。この際魔力が少なくてもしょうがない。

ーーー強化カラス標準型ー転写!



名前 NO NAME ×80羽くらい

種族 カラス(男性or 女性) 

年齢 1〜5歳 体力ForG魔力ForG

魔法 水弾1光弾1土弾1風弾1火弾1

   睡眠5回復5ステータス5神託5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5調教耐性3

   思考強化5老化緩和5

称号 グレタの眷属



『よし、お前たち80羽くらいのカラス飛行隊。強化カラス2号のところまで行って指揮下にー 』


『サブマスターアリス。 俺たちはもともと3つの群れなんだ。群れのボスを決めてくれ。ちなみに俺はこの群れのボスだったよ』


『一刻を争うのに面倒な。でも指揮系統は重要か。じゃお前は第1飛行隊長。で他のボスは、お前とお前ね。第2飛行隊長、第3飛行隊長。これでいいね。ヨシ行ー 』


『マスターグレタ。各飛行隊長には名前をくれ』


『第1、第2飛行隊。ただちに強化カラス2号のところまで行って指揮下に入るのだー。行け!さっさと行くのだー』




 調教されたカラスはマスターの指示に背くことはできない。一斉に北の方角に飛び立っていった。




『カラス第3飛行隊の半分。ここから向こうのカラスは巫女エミリーを防衛せよ! グレタ、アリスの次にエミリーの命令に従え! 

残りのカラスは私グレタについてこい』



「全く一刻を争うというのに名前など。中途半端に知恵があるのも考えものですか。さあ、我々も後を追いましょう。アリス様、進む方角を指示してください」


「うん。最初に襲撃地点に行ってみよう。何か手がかりがあるかもだから。賊の怪我人か死体があれば試したいことあるし」


「フィリッポ!私とアリス様はマルチナお嬢様救出には向かいます。あなた達はここで待機してエミリーさんを護りなさい。


「エミリーさんは基本的に亜空間ホームに入っていてください。何かあったら神託でアリス様に助けを求めること。神楽による転移を予期。そのため魔力は使わないように。


「フィリッポ達も基本は亜空間ホームに入って警戒監視しなさい。分かりましたね」



「分かったよ。エミリーさんの防衛に専念するよ。グレタさんも気をつけてな」


「大丈夫です。このグレタがアリス様もマルチナお嬢様もお守りします。ではアリス様。行きましょう」


「ヨシ出発!」









 グレタさんとふたりで長距離走行モードで襲撃地点へと向かう。しかしマルチナさんを拉致って誰が何のために?





 襲撃地点へは3分ほどで着いた。訪問使節団らしき集団がいる。グレタさんは迷いなく使節団の中の一人に声をかける。



「クレリチ子爵。ここで何があったのですか?」


「あ。グレタ侍女頭じゃないか。シリトンで待っているんじゃなかったか?なんでここにいる?」


「マルチナお嬢様が心配だから迎えに来たのですよ。で、襲撃してきたもの達で捕らえることができた者。怪我をした者。亡くなった者はどこにいますか? ちょっと確認したいのです」


「ああ、それだったら向こうでジェダイト中央方面軍の連中が調べているよ」


『グレタさん、こっち側の怪我人とか死亡者ってどのくらいいるか聞いてみて』



「使節団や護衛の人たちの被害はどのくらいなんですか?」


「死亡者は居ない。大怪我が10人くらい、怪我人が20から30人くらいだな。

野盗達はマルチナ様を攫ったらあっという間に離脱していった。

襲撃してきた野盗達は使われた魔法からすると相当の手練れだ。幸い野盗側に殺意が感じられず手足など行動阻害を狙った攻撃を多用されたから死亡者が少なかった。不幸中の幸だな」


「回復魔法を使える者はいるんですか?」


「いるにはいるが、人数が足りないかもなあ」


「大怪我の者のところに案内しなさい。急いで!」





 クレリチ子爵の案内で大怪我をした人のところに案内してもらう。


 見たところ4人ほどは死にかけている。しょうがない。治癒するか。……治癒!




 大怪我の4人の出血は止まり、傷ついた体組織は急速に元の正常な状態に戻っていく。

神力の16パーセントくらい消費したね。おにぎり1個半を物質創造するのと同じなのは凄くリーズナブルだね。


 大怪我が治っていくので大騒ぎになるが説明の手間が惜しいのでそのまま立ち去り、賊の方へ急ぐ。


「クレリチ子爵、こっちきてください。中央方面軍に口を利いてください。賊の確認をさせてくれって」


「分かったよ。ジェダイト側からはあんたや皇女姉君が大層な重要人物って聞いてるからな。隣の方が皇女姉君という方なのか?」


「その通りですよ。私が皇女姉のアリスです」




 私はフードを外してクレリチ子爵に顔を見せる。


「えっ! マルチナ殿下ではないですか?

どうしてここに?」


「クレリチ子爵。この方はマルチナお嬢様の姉のアリス様だと言ったでしょう? 時間がないので説明している時間はないのです。早くアリス様を案内してください」


「……分かりましたよ。こっちです」





 軍人達が人だかりとなっている一角に進んでいく。


「隊長殿。使節団のクレリチ子爵です。我が帝国皇女姉君殿下アリス様がおいでです。賊を確認したいとのことですのでご配慮をお願いします」


「うん? 皇女姉君殿下? あ! ああ。わかりました。こちらにどうぞ」





 中央方面軍の隊長さんが案内をしてくれる。


「こちらが死亡した者。こちらが大怪我している者2名。賊はこの3人で全部です」



 ふーむ。死亡した1名をジッと見る。頭を攻撃魔法で撃ち抜かれている。攻撃魔法の射入口が右側頭部で射出口が後頭部か。治癒で治るような気がするな。試してみるか。


……治癒!




 頭部の傷が時間が巻き戻るようにして修復されていく。と同時に一度死亡したことによって生じた身体機能の不全や体組織の崩壊を修復して元の健康体に戻しているはずだ。凄い威力だね。死体からの復活って。これって生命の創造と殆ど変わんないよね?



 これで治ったはずだけど。お、目を開けた! すかさず睡眠1! 一時間くらい寝ていてください。



 大怪我のふたりも治癒と睡眠1をかけておく。3人の治癒で神力16パーセントを消費。






 生き返った賊のステータスを見てみる。




名前 ドメニコ・トゥーリオ

種族 人(男性) 

年齢 33 体力F  魔力F

魔法 水弾4光弾4火弾5

   回復2暗視3魔法防御2

   神託3

身体強化 筋力4持久力4衝撃耐性4

   睡眠耐性2麻痺耐性2毒耐性2

   防御2

称号 マリアーニ伯爵家騎士

   亜神(火竜)アエロステオンの信者





 えーっ!「亜神(火竜)アエロステオンの信者」ってなんなの?中央大陸の魔境に巣食う例のヤツですか?



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