第44話 中央大陸の脅威



【50日目 シリトン市街地 夜8時】



 宿屋の支配人が来てアレキサンドライト教皇庁の聖女様が来訪したことを告げてきたので三階スイートに案内してくれるように頼む。




「亜神アリス様。お招きいただきありがとうございます。イースとその巫女アリアンナとノエミで御座います」


「あ、どうぞどうぞ。お入りください。ささ、どうぞこちらに。そっちのソファーに三人で座ってくださいね。はいそうです。ラウラさーん、悪いけどお茶をお願い」





「すいません。なんかお手間を取らせちゃって。アタシは普段はダンジョンの奥で魔物に身の回りの世話をしてもらってるので人間社会の常識にちょっと自信なくなってるのよね。

訪問するときは手土産ってルールだったかしら。逆にこんな凄い神器とかカラスとか貸してもらってほんと感謝してます。ありがとうございます」


「同じ人類で神となった者同士、気にしないで下さいよ。イース様がこの世界の人類をお守りくださったからこそ、いま私と行動を共にしているマルチナ皇女殿下の侍女グレタさんキアラさん、シリトンに暮らしていたサーラさんエミリーさんラウラさん。フィリポ以下4人。無事に暮らしてこれた訳ですから。

この人たちは私の家族も同然の大事な人たちです。イース様は彼女たちの恩人ですから、私にとっての恩人でもあります」


「えへへ。そういってくれると。アタシも気が付いたら何か神の力を得ていて、戦っていたのよね。

でもね。アタシも6011年間も生きてきたからもう寿命なのよ。あんまり先は長くないと思う。

そんな時にアリス様の降臨を感知したのよ。驚いたけど嬉しかった。助けが来た!と思った」


「そっか。老化緩和6の効果ですね。イース様、あと1年死なないでいてください。そしたら私が何とかしますよ。まかせてください」


「え、そんなことできるの?さすがは本物の神様。アタシのような、なんちゃって亜神とは違うね。お願いします。アタシもこの世界の人類だし、この先の人類の行く末に心を悩ませていたのよ。ありがとうございます」


「いや本物の神様ってのはこんなもんじゃなくとんでもない存在ですよ。私は1か月前に会いましたけど。無限の過去から存在する全知全能の存在でしたよ。気に入らなければ一つの世界。宇宙を吹っ飛ばすことも可能でしょうね。恐ろしいです。くわばらくわばら」




「はあ、そうなんですね。ところで、この子達。聖女といわれる私の巫女たちですけど。素晴らしい恩恵を授けて頂きましてありがとうございます。

念話、ステータス、神託、神楽。いずれも非常に希少で有用なものです。特に神楽。こんな魔法があるとは。貴方たちもお礼を言ってね」


「ありがとうございますアリス様!!」


「いいよいいよ。ウチのキアラさんの友達でしょ?だったら私の友達でもあるわけだから」






「それでですね。アリス様にはこのイースについて、ご注意していただきたい件がありまして。


「実は中央大陸。セントリア大陸と呼んでいるようですが。この大陸の中央山脈の中にある盆地がとんでもない魔境になってましてね。


「アタシが5000年前にレベル5攻撃魔法を転写して強化した人類2000人の軍勢があっという間に半壊。私自身も半殺しの目にあって大敗北を喫しました。


「私が持っているレベル7攻撃魔法などは、その時に取り巻きの連中から転写しました。半殺しにされた私は命からがらこの東大陸イースリアに逃げ戻ったんですが極度に弱体化してしまって魔術の転写とかができなくなってしまいました」





「どんな奴が居るの?」



「火竜と闇竜です。

火竜は火弾8以上を連発してきます。恐ろしいほどの速射でした。魔力も相当に持っていて途切れることがありませんでした。今考えても良く生き残って帰ってこれたと思います。


「闇竜は、闇弾6以上は確実に撃ってきますが実際の事はよくわかりません。ただし火竜が闇竜に従っていたので火竜より強いんだと思います。


「ほんとに恐ろしい奴らです。あれから5000年経ってますので二匹とも神の力を手に入れている可能性があります。魔獣に神になる素質があるのかは分かりませんが。

もしかしたらあの二匹だけは魔獣じゃないのかもしれません」





 わー。居たよ。この世界に今の私でも勝てないかもしれない強敵が。


 火弾8とかホントにシャレにならない。護衛艦の艦砲、しかもHEAT(成形炸薬)効果付のAP弾(徹甲弾)だなんて掠っただけで生存できないレベルだ。強化人類2000人があっという間に半壊も不思議ではない。


 それと闇竜コワイ。闇弾も恐ろしいが、神になってるかもって恐怖なんですけど。こいつらにまかり間違って人類並みの知能が有ったら負けるかも。ヤバすぎる。





 ジェダイトに居るかもしれない能力者の正体は、魔術研究本部副本部長ことカルロネ司祭(邪)からのチクリで分かってしまっていた。


 ジェダイトの前公爵が前世がニホンの転生者で、恐らく魔物調教5以上を持っていた。長命だったというから老化緩和1もしくは2を持っていたと思われる。魔物調教はなぜか神域から転写可能な魔術リストにはない。もしかしたら削除されたのかもしれない。


 ジェダイトの前公爵はこの力で迷宮を片っ端から支配して活用した。今はもう前公爵は死んでいるが迷宮管理権は引継ぎが出来るので間違いが起きなければ永久に迷宮を管理できるだろう。


 ジェダイトの周辺国に時を同じくして転生者が6名。分かっている範囲で今でも存命している者は居ない。ジェダイト宮殿内離宮に軟禁されているオーバルの元ダンジョンマスターは既に死亡している転生者からダンジョン管理権を奪っただけの男だ。




 この人たちはこの人たちなりに強かっただろうし転生者っていうから興味もあるけど、恐らく神ではない。強さも人類の枠に収まっていただろう。


 しかし火竜と闇竜は全く違う。最初から人類の尺度に収まらない最上位魔獣の能力を持つうえに神になっているならホント強さの底が見えない。関わり合いになりたくない。幸いコイツらは魔境から5000年間閉じこもって出てこないらしい。そのまま老衰で死んで欲しい。





「ありがとうイースさん。貴重な情報だよ。そんな奴らとうかうかと遭遇してしまったら我々も半壊。全滅してしまうかもしれない。絶対に行きません。中央大陸。誰が何と言おうとです」


「ふふ。そうしてください。あと、巫女ノエミから聞きましたがアンバー高原にはアリス様の降臨された場所に記念のモノリスがあるとか。

この巫女二人はそのモノリスを目指して可能であれば新しく降臨されたであろう神族の神託を得ることが使命だったとのことです。ですのでこの子達はアンバー高原にはもう行く必要がなくなりました。

だからここでマルチナ皇女の到着を待って、一緒にアレキサンドライトに帰ったらよいのではないかと話しているのです」


「いいんじゃないですか? 私たちも皇女一行とアレキサンドライト帝都に行こうと思っていますから一緒に行きましょう」


「ありがとうございます。もの凄く心強いです。是非お願いします」





 その後、少しおしゃべりしてから女神イース達は帰っていった。


 女神イースと聖女の3人にはデザートコンバットブーツを作って進呈してあげた。あと宿に帰る前に強化フクロウ2号を護衛として追加派遣した。






♢♢♢♢






 その頃アンバー高原の北部。辺境の街ロードナイト南方30キロの地点に30名からなる傭兵団がアリスの建てたモノリス周辺にたむろしていた。


 彼らはシリトンの西300キロにある西海岸の港町ショールを拠点とする傭兵団「竜の息吹」




 日頃は商船の護衛や海外コロニーでの護衛警備。時には外国船に対する海賊行為など主として地中海貿易にかかわる傭兵業を得意としている傭兵団である。


 彼ら傭兵団「竜の息吹」の団員には共通点があった。






「団長、これが神託で調べて来いって言われた目的のもので間違いなかったんですか」


「ああ。いま神託で我らが主タタウイネア様に報告したけどこれで間違いないそうだ。で、これを作った奴を探し出してどんな些細な事でも良いから調べ上げろってことだ」


「どんな奴かって。あの絵を見たらわかるじゃないですか。例のチラシにある皇女姉君御一行じゃないんですか」


「ああ。俺もそう思うから皇女姉君のことについてお知らせした。そしたらマルチナ皇女がジェダイト公都からシリトンに向けて移動予定なのをご存じでな。我々とは別にアエロステオン様の信者を使ってマルチナ皇女の方を調べるそうだ。

皇女姉のことは我々に調査するよう指示されたのでロードナイトを経由してシリトンまで戻るぞ副団長。情報収集だ」


「了解しましたー。おーい。調査と報告は終わったぞ。ロードナイト経由でシリトンまで戻る!全員馬に乗れ!準備出来しだい出発する!」




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