第46話 マリアーニ城塞



【57日目 ジェダイト公都南方100キロ シリトンに至る街道上 午後3時】



名前 ドメニコ・トゥーリオ

種族 人(男性) 

年齢 33 体力F  魔力F

魔法 水弾4光弾4火弾5

   回復2暗視3魔法防御2

   神託3

身体強化 筋力4持久力4衝撃耐性4

   睡眠耐性2麻痺耐性2毒耐性2

   防御2

称号 マリアーニ伯爵家騎士

   亜神(火竜)アエロステオンの信者



 えーっ!「亜神(火竜)アエロステオンの信者」ってなんなの?中央大陸の魔境に巣食う例のヤツですか?


 しかもコイツ強いんですけど。カルロネ司祭(邪)ほどではないがこの世界の人類としては最強クラスの強者なんじゃ。


 で、マリアーニ伯爵家騎士って何なの。賊じゃなくてジェダイト政権側の人間なのですかー?





『グレタさん コイツはマリアーニ伯爵家騎士で亜神(火竜)アエロステオンの信者なんだけど』


『はいアリス様。こっちで大怪我だったふたりも同じ称号ですよ。ちょっと聞いてみましょう』



「隊長殿。マリアーニ伯爵家というのはどこにあるのですか?この男達は3人ともマリアーニ伯爵家の騎士ですよ?」


「え どうしてそんなことが。マリアーニ伯爵家はこの辺の領地の領主ですよ。こっから北に5キロルのところにマリアーニ伯爵領都があって領館もありますよ」


「この3人がマリアーニ伯爵家騎士であることは間違いありません。私はステータス5を持っているから人のステータスが見えるのです」


「はあ。そうなんですか。分かりました。これで確認は終わりですか?」


「ちょっと待ってください」





 私は生き返らせた騎士を使って精神構造干渉による記憶サルベージを試みる。記憶や人格に傷を与えるかもしれないから今までは試す気はなかったが今回は非常事態で緊急避難。正当防衛だ。


 悪いけどー精神構造干渉ー








『ふう。神力を5パーセントくらい使ったな。グレタさん。マルチナさんはマリアーニ伯爵家領館にいるはずだよ。コイツの記憶にマルチナさんを拉致したら領館で監禁する予定だったとある。

そして目的は人質兼ねて情報収集。内容は、なんと私の身辺調査だよ。人質の目的は私に言うことを聞かせるため。

亜神(火竜)アエロステオンは私に対して随分と攻撃的で敵対的なようだ』


『そうなんですか? 火竜はどうやってアリス様のことを知ったのでしょうか?』


『分かんないけど、イースさんが私の降臨を察知したんだから亜神(火竜)アエロステオンが察知してもおかしくないかもね。やはり神になっていたか。しかも私に敵対的なのか。覚悟決めないとかな』


『で、どうしますかアリス様」


『マリアーニ伯爵家当主自体が亜神(火竜)アエロステオンの信者だってさ。もう領館に乗り込んでマルチナさんを救出するしかないでしょう。どうかな?』


『そうですね。そうなんでしょうけどこの騎士達は強いですよ?正面からいくとどうなんでしょう。簡単ではないような』


『いやいや。私たち二人が本気になればこの程度の強化人類、なんてことないでしょ?

私は、なんなら中央大陸の火竜を討伐するつもりですよ? 情報が欲しい程度でマルチナさんを拉致したんですから万死に値します。

コイツの記憶サルベージで当たりをつけたけど、恐らく火竜アエロステオンは時空神ではないと思います。であれば時空間操作で真っ二つにしてやりますよ』


『了解しました! では北5キロルのマリアーニ領都の伯爵領館に急ぎましょう』





♢♢





【57日目 ジェダイト公都南方95キロル マリアーニ領都 午後4時】



 マリアーニ領都へは長距離走行モードで15分ほどで到着した。アレキサンドライト帝国の都市のほとんどは都市全体を守る城壁を持たず、領館が城塞となっていることが多い。強化カラス達に空中偵察させた結果マリアーニ領館もそのタイプである。


 市街地を駆けながら強化カラス第1飛行隊と第2飛行隊に隠密状態で城塞に集合するよう指示する。





 強化カラスがだいたい集まったところで城塞内の人間に片端から睡眠1を放っていき無力化できなければ即座に睡眠3を使用するよう指示したうえで城塞に突入させた。


 先程の火竜アエロステオンの信者は睡眠耐性2を持っていたのでこれを基準にして領館内の全員を無力化するためである。死亡から復活させた騎士に睡眠1が効いたのは弱っていたからだろう。





 マリアーニ城塞は平地に築かれた平城であるが環濠と城壁に囲まれていて門は閉ざされている。


 四方が概ね200m程の四角形をしていて敷地内の高さ10m程の台地に領主の居住する領館と思しき建物があった。





 私とグレタさん=グレタ少佐がマリアーニ城塞に到着した時には強化カラス達が突入して3分ほどが経過しており屋外にいた人間は全員無力化できていた。領館は玄関が閉ざされておりカラスたちは中に侵入出来ていない。



『ではグレタ少佐。「飛行」を使って城塞の中に入りましょう』



 飛行1を使うと最速で秒速2m(時速7.2km)で空中を機動できる。私アリスの場合には最大MPの状態であればおよそ42分間の空中機動が可能である。




 隠密1飛行1を使って私とグレタ少佐の2人はゆっくりと上昇して高度15mほどを維持しつつ城塞の環濠と城壁を飛び越えていった。意識のある人間が私たちのいる方向を見たとしても隠密の効果によって気付く事は無いであろう。




 89式神器を腰だめに構えて隠蔽障壁を展開しつつ空中を機動する2人。目に見える人間は全て地に伏している。




『強化カラス! 睡眠1では眠らなかったヤツは居るか?』


『サブマスターアリス。そこの赤髪の男が該当する』


『了解! サンキューカラスくん!』




 私は赤髪の男に空中から接近し赤髪の男のステータスを確認する。



名前 エリア・ウンガロ

種族 人(男性) 

年齢 28 体力F  魔力G

魔法 水弾4火弾4

   回復2暗視3魔法防御2

   神託3

身体強化 筋力2持久力2衝撃耐性2

   睡眠耐性2麻痺耐性2毒耐性2

   防御2

称号 マリアーニ伯爵家騎士

   亜神(火竜)アエロステオンの信者



『間違いなく亜神(火竜)アエロステオンの信者だ。コイツの記憶をサルベージしよう。グレタ少佐、周囲を警戒しておいて。』


『了解です。カラス第1飛行隊!アリス様周囲を警戒しつつ防衛せよ!』




 では。  ーー記憶サルベージ!







『ヨシ分かった。マルチナさんはあの領館に監禁されている。急いでいきましょうグレタ少佐!』



 2人は「飛行」を停止して走って領館に向かう。10秒ほどで領館の中央玄関に到着した。



『今から探知5で館の中を探査します。周囲を警戒してください』


『了解しました。カラス第1飛行隊!警戒せよ!』



 では館の中を探査ーー探知5!




『ーー扉のすぐそこに2名。1階に9名。地下は見えない2階は11名〜12名。3階は4名。床に倒れているのか?』


『アリス様、中に入りましょう!』


『よし、入ろう!』



 正面玄関の縦横3m程もある巨大な両開きのドアは鍵がかかっているのか開かない。



『闇弾3 発射、発射、発射、発射!』



 闇弾3が扉に命中する。9mm拳銃弾程の破壊力に加えて闇の効果によって直径8cmの球状空間の範囲にある物質が消滅する。


 鍵のケース部分とデッドボルト、そして床とのロックボルトがありそうな場所を片端から闇弾3で撃っていく。




『ん。扉がフリーになったような感じがする』


『私にお任せください。筋力5衝撃耐性5防御5』



 グレタ少佐は強化されたキック2発で両開きドアの左右を吹っ飛ばした。


 89式神器の隠蔽障壁を展開しながら腰だめに構えて中に入る私とグレタ少佐の2人。





「なんだ! おい、君たちはー? 誰も居ない?」



 玄関ホールの左隅に机を置いて座っていた受付らしき中年男が誰何するーーしかし隠蔽障壁の効果、そして隠密の効果によって彼からは私達を認識できない!



「睡眠3、発射!」「睡眠3、発射」



 私に睡眠3を撃たれた机の椅子から立ち上がりかけた受付の中年男。そのままの勢いで飛び上がったかと思うと糸が切れた操り人形のように脱力して机の上に激突しその反動で後ろに派手な音を立てて倒れていった。死んでないよね?


 グレタ少佐が睡眠3を撃った机の右横に立っていたメイドはそのまま崩れ落ちた。


 この2人はドアの向こうに居ることは分かっていた2人だ。下っ端臭いので放置だ。





 扉を蹴破った音を確認に来たのか。正面のドアが開き執事らしき中年男がやって来た。



「何の騒ぎだ。誰なんだねー」


「睡眠3」



 私の睡眠3によって執事らしき中年男を無力化する。


 執事らしき中年男は歩いてきた勢いのまま顔から床板に突っ込んで両開きドアの敷居まで転がっていった。


『コイツは少しは上役に見えるね。ステータス!』



名前 トマス・ウンガロ

種族 人(男性) 

年齢 43 体力F  魔力G

魔法 水弾4風弾4火弾4

   回復2暗視3魔法防御2

   神託3

身体強化 筋力2持久力2衝撃耐性2

   睡眠耐性2麻痺耐性2毒耐性2

   防御2

称号 マリアーニ伯爵家執事

   亜神(火竜)アエロステオンの信者



『よし。執事で亜神(火竜)アエロステオンの信者だ。記憶をサルベージしよう』


 記憶サルベージ!






『やばい! 領主がマルチナさんを拷問しようとしている!3階の展望室!右側だ!』




♢♢




『やばい! 領主がマルチナさんを拷問しようとしている!3階の展望室!右側だ!』



「反応速度5筋力5衝撃耐性5遠視1」



 アリスの叫びにグレタは即座に「反応速度5」を発動した!


 反応速度5の効果で体感時間が32倍に引き伸ばされる。周囲が一気に暗くなると共に音が一切聞こえなくなる。グレタは正面のドアを蹴り飛ばして廊下に出る。


 アリス様は右側と言った!右に向きを変えて走り出し突き当たりの仕切りドアを蹴り飛ばして階段ホールに突入。使用人が階段を登ろうとしているが「飛行」を併用しつつ頭の上を飛び越えて行き2階に。


 二階に飛び込むや空中で周囲を素早く見渡す。女中がドアを開けて中央ホールから入ってこようとしている。今登って来た階段を折り返す様に細長い階段が続く。この階段を選択。人が一人ギリギリの幅の階段を弾丸のように登る。


 登りきった先にはドアは無く展望室になっていて猿轡された女性が後ろ手に手と脚を縛られて床の絨毯に横たわっている!


 傍に大柄な筋肉質で金髪短髪の男が女性を見下ろして佇んで居る。



「こいつか!!闇弾4 発射 発射 発射 発射!

回復4!睡眠1!

魔法全解除!」



 金髪短髪男の両腕の肘2箇所、両脚の膝2箇所の合計4箇所にグレタの撃った闇弾4が命中した! 


 直径16cmの球状範囲にある物質が亜空間に弾き飛ばされて消滅。と同時に回復4の効果により出血が停止しながらも金髪短髪男は達磨落としのようにその胴体を床に落下させた。



『アリス様!マルチナお嬢様確保!3階展望室です!』



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