第52話 アークデーモン

【85日目 アンバー高原 オーバル外縁部 午後10時】



「お姉さま、あの小高い丘の上に醜いガマガエルのような男が仁王立ちしてますけど。あいつが探しているアークデーモンかな?」




 我が妹マルチナがアークデーモンを発見した!



「おっ さすが妹マルチナよ。確かにあいつに違いない。良く見つけてくれたね、ありがとう。この手柄。これは是非昇進させたいけどマルチナには階級ついてないからなあ。

あ、そうだ亜神アリス軍団の階級を付けるか。どうしようかな。マルチナは身体弱いから私と一緒で階級呼称しなくていいか。私は中佐という設定だけどみんな中佐って呼んでくれないんだよね。

何しろ私は亜神。中佐は無論のことそもそも階級呼称は馴染まないということかもしれないね。じゃマルチナは事務官にする? 亜神アリス軍団事務官マルチナ。アリス付を命ずる。うん、このくらいがちょうどいいかもねえ」



「アリス様? マイホームに入って圧倒的有利なポジションをとれたからといってだらけ過ぎですよ? マルチナお嬢様もお呆れになります。

あの上位悪魔、うかうかと対応すると思わぬ反撃を喰らって怪我をしかねません。慎重に対応しましょう」


「ーごめんねグレタさん。そのとおりだったよ。では、視線が通るから時空間操作で両断出来るけどどうしようか。アイツもしかしてしゃべれるかな?」


「アタシは試したことないから分からないな。でも外見上魔物たちを統制しているように見えるし統制しているなら知性があるはず。外見も邪悪な人類といっても良い姿形。会話できそうですね。アリス様会話しますか?」


「会話してみたい半分、別に会話しなくていい半分かな。そうだ。先に魔獣調教かけてみるか。えい調教! かかった感じがする! 

へええ。こんな感じか。邪悪さがにじみ出ている。気分は悪いね。反吐が出そうだよ」


「でしょう? だから良いものじゃないって言ったでしょう。ちょうどいいからあの上位悪魔の戦闘力確認を兼ねてデーモンとレッサーデーモンを殲滅させてみたら? 5000年前はアタシはいつもそうやってたよ?」


「うん。その前にちょっと会話してみるよ」





 小高い丘の上に仁王立ちしている醜いガマガエルのようなアークデーモンを観察する。距離は概ね200mくらいだから遠視を使えば隅々までハッキリと見ることができる。


 デップリと醜く太った全体フォルム。体表は病的な黒色で毛は一本も生えていない。首は全く無くて比喩では無く本当にカエルのような頭が胴体から生えている。巨大な口には針のような牙が無数に生えていて、涎を撒き散らしながらひっきりなしに長細い舌が出たり入ったり。頭から飛び出した二つの眼球はギョロギョロと独立して視線を動かしていた。


 気味が悪い。観察なんかしなければよかった。調教による意思の表示でアークデーモンとの会話を試みる。





『そこのアークデーモン。 お前は会話できるのか』



 アークデーモンはなお一層激しく2つの眼球を動かしながら、舌を高速で出し入れしながら周囲を警戒して。私たちを発見できないことに苛つきながら意思の表示を返してきた!



『儂を支配したのはお前か。名を名乗れ。』


『悪魔風情に名乗る名などないのだよ。おまえ、なぜ我々を攻撃しようとした?』


『そこに貴様らが居るからだ』



 調教による意思の表示は会話の内容を周りの人は分からないのでいちいち説明してあげないといけないのが面倒だね。皆んなに説明してあげると悪魔と会話が成立する事に皆んな驚いている。





『そこに貴様らが居るからだだとか意味ありげだけど何の回答にもなってないよ? まあ良い。お前はこの魔境の主なのか? 名前はあるのか?』


『はは。主であるわけないだろ。儂程度の者、名前などは無い』


『ではこの魔境の主はどんな奴だ。名前があるなら教えろ』


『タンニーン様よ。お前ごとき一撃で滅ぼす。竜であり悪魔である大悪魔タンニーン様である』




 竜であり悪魔である大悪魔タンニーンだって? 竜タイプの悪魔って事か。ソイツは強そうだね?




『学校の先生みたいな名前の奴だね? ソイツは何処にいるのか?』


『この魔境の中心部。魔境核のそばで守護に任じておられるわ』


『そのタンニーンってやつを討伐したらこの魔境はどうなる?』


『どうもならんわ。次なる主が指定されるのみよ』


『魔境核を破壊したらどうなる』


『魔境は消滅する。二度と復活しない』


「魔境の主タンニーンはどんな魔法を使うか。どの程度強いか』


『闇弾8~9はお使いになる。身体強化もだいたいは使う。竜よりも強いと思うぞ儂は』




 衝撃的な事実。闇弾8とか9とか避けることも出来ずに消滅させられてしまう! 皆んなに伝えると絶句して固まってしまった。




「という事なんだけどー。みんな、なんか聞きたいことある?」


「………………」




「じゃもういいか。ちょうど良いから攻撃魔法の射撃訓練と効果の確認をしてみましょう。レベル5〜レベル1の各属性攻撃魔法がどの程度効くのか実験です。魔力は50パーセント程度は残しておいてくださいね。では始めましょう」








 止まった悪魔たちへの攻撃魔法は百発百中で悪魔への効果は大体わかった。


 レベル4攻撃魔法が頭に当たればどの属性であっても倒せる。レベル3攻撃魔法だと厳しい。ただし闇弾3と火弾3は別で余裕で倒すことができた。特に火弾3は頭の半分くらいを吹っ飛ばすので強力だ。攻撃魔法が当たった時の様子からすると属性効果が減衰している感じがあるから魔法防御を持ってるんだろうね。



 「アリス様、動いている的への攻撃も経験しておいた方がいいよ。あと、強化カラスたちも参加させようよ」



 サーラさんのもっともな提案を受けてアークデーモンに指示して悪魔たちを走ったり、飛べる奴は飛ばせたりした。これが意外と楽しくて一時間ぐらい遊んでしまった。その間に飛行できる悪魔、デーモンとアークデーモンを一匹ずつ近寄らせてステータスを確認した。



名前 ー

種族 デーモン(性別なし)

年齢 88912 体力G 魔力F

魔法 闇弾3回復3

   ステータス1暗視1探知2

   魔法防御1防御3飛行2

   睡眠1悪魔通信0魔物調教2

身体強化 筋力3持久力3衝撃耐性3

   睡眠耐性3麻痺耐性3毒耐性3

   防御3

称号 魔物の調教師

   大悪魔タンニーンの眷属悪魔

   悪魔男爵の眷属悪魔

   アークデーモンの眷属悪魔

   亜神(時空)アリスの眷属悪魔


名前 ー

種族 アークデーモン(性別なし)

年齢 433129 体力F 魔力E

魔法 闇弾4回復4

   ステータス1暗視2探知3

   魔法防御2防御4念話1飛行4

   睡眠2悪魔通信0魔物調教4

身体強化 筋力4持久力4衝撃耐性4

   睡眠耐性4麻痺耐性4毒耐性4

   防御4

称号 魔物の指導者

   大悪魔タンニーンの眷属悪魔

   悪魔男爵の眷属悪魔

   亜神(時空)アリスの眷属悪魔



 なるほど。これは強い。こんなのが数百匹レベルで密集していたら並みの軍隊では太刀打ちできないだろう。ジェダイトのような強化された軍隊でもある程度の数的優位がないと勝てないだろうね。


 あと悪魔通信0というのは大悪魔タンニーンとか悪魔男爵から一方的に指示される遠距離通信だそうだ。要するに電源入れっぱなしのラジオ受信機のようなものらしい。悪魔ユニークな魔術は神域から転写できるリストに無いけどこんなもの要らないので転写はしない。







 強化カラスたちも含めて一通り攻撃魔法を試し終わったのでそろそろ終わりにしようかな? この辺りは悪魔男爵の縄張りらしくてあんまり長居して不意打ち的に遭遇しても危険だからさっさと移動したほうがいいと思う。イースさんのやり方ー同士討ちをさせてみようか。



『名もなきアークデーモンよ! 

おまえは周りにいる悪魔を殲滅せよ!』









「草を刈るように全部倒してしまいましたね。上位悪魔恐るべしです」


「キアラさん。奴は多分、他の悪魔にじっとしているように命じたのでしょう。悪魔は指揮系統がしっかりしているけどそれは弱点でもあるといえるね。

最後に調教した悪魔への自殺の指示が有効なのか試してみようか」



『名も無きアークデーモンよ。お前は自分で自分を滅ぼせ!』




 調教した悪魔への自殺の指示は有効だった。これは便利? なんだろうか。使い所あるかな?







「さて。タンニーンみたいな大悪魔が居るようなところは避けていきましょう。進路を北に向けて出発しましょう!」


「賛成!!!!!!!!」





 私たちは25日ぶりに人類生活領域に向けて走り出した。



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