第4部 悪魔の魔境編
第51話 悪 魔
【60日目 アンバー高原 午後10時】
私たちはアンバー高原を南下してグレタ母娘と出会った洞窟に向かっている。
洞窟に到着したらたっぷりと休憩をとってから夜の間に東に方向を変えて走行を再開してシリトンからの距離を稼ぐことにしている。
昨日は満月だった。だから今日の月は十分に明るい。それに季節的には夏至。つまり一年で一番暑い季節となっているのだ。日中の走行は辛いだろうから夜間走行なのだ。
【85日目 アンバー高原 オーバル外縁部 午後8時】
シリトンを出てから25日が経過した。現在地はアンバー高原オーバル外縁部の最東端であると思われる。
というのも正確な位置が分からないからだ。詳細な地図はないし道もほとんど無い。アンバー高原を夜間に東に走行するのも月の位置を参照しながらの走行である。
帯同している強化カラス2個飛行隊40羽は見通し外に偵察に出すと迷子になって戻ってこれなくなるから大変である。
なまじ強く作って水まで出せるから餌があれば死なない。餌はロードランナーやプレーリードックを簡単に狩れるので飢えることが無い。迷子になっても死なないから神託を使ってきて迷子だ迷子だ大騒ぎして大変なので見通し外には行かないように徹底している。いまいち偵察には役に立たない。
ロードナイトを出発してから走破した距離ははっきりしないけど800キロくらいかなと思う。途中にグランドキャニオンみたいな落差2000メートルほどありそうな渓谷があったりして飛行が無ければ進めないところが2か所ほどあった。
グレタさん達が洞窟で待機していたときにアレキサンドライト帝都に向かった伝令は無事なんだろうか。心配になる。渡れない渓谷は北に迂回するしかないだろう。南に迂回してないよね? 南は危険だから。
移動中に各種魔法の訓練や簡単な戦闘訓練を行った。全く経験がないのはマルチナさんと巫女アリアンナ、ノエミ両聖女だけ。
旅の当初にデザートコンバットブーツをマルチナさんに作ってあげて、この25日間に戦闘用軍装とハットも人数分作った。89式神器も人数分。
亜空間ホームも人数分作って渡した。何があるか分からないから保険という意味と亜空間ホームは鞄代わりになるから便利なのだ。アイテムボックスである。時間は経過するけど。
ちなみに時間経過の無いものは作れなかった。常時神力消費を許容すれば時間経過ほぼナシの異空間を作れないことは無いが神力消費がキツイので諦めている。
遅めの夕食を食べてからミーティングという名の雑談タイム。
「そろそろ魔境に近づいたと思うんだけど、魔境に入ったら分かるのかな?」
「5000年前と状況が変わってなければ人類には魔境か魔境じゃないかは区別がつきませんでしたね。魔物は分かるらしいですよ?多分居心地がいいんでしょうね。しゃべれる魔物と会ったことないから分かんないけど」
「なるほどー。 分かんないのか。では魔物が出現しださないと魔境に入ったかは分からないってことですね。イースさんに魔物調教の使い方を教わろうと思っていたのです。早く使いたいですよ。
皆さんには分からないでしょうが、異世界アースでは私くらいの世代はモンスターをゲットするゲームに親しんでますから魔物の調教は子供のころからの夢なのです」
「そうなんですか? 変わった世界なんですね。魔物を調教しても何一つ胸躍ることも夢がかなった感じにもなりませんよ?
奴らは魂の無い疑似生命体ですからね。これっぽっちも可愛いということはありませんし。
言うことを聞きながらも機械的で非生物的な殺意と憎悪は振りまいてきますよ? 用が終わったら速攻でぶっ殺してましたね、アタシの場合は」
「うへー。マジですか。夢破れました。ゲットした魔物と心を通わせたり魔物の戦いに一喜一憂してその成長を喜んだり。時には辛い別れや死別などのドラマは?」
「あるわけないじゃないですか。魔物ですよ? 気を許して調教が外れた瞬間に嚙みついてきますよ。あんまり寝ぼけたこと言ってると死にますよ?」
「わかりましたよ。ちょっと夢を語ってみただけじゃないですか。で、ここの魔境で出てくる魔物って何でしたっけ」
「アタシも具体的な個別の知識って記憶が曖昧なのよね。
なんせ5000年でしょ?普通の人類なら200世代だから。人の名前、国の名前、地名。キリがないのよ。
なんとなくよ、なんとなく。違ってるかもだけど多分悪魔じゃなかったかな。それもかなり強い」
「え。そうなの? 悪魔って魔獣と並び称される場合によっては竜に匹敵する脅威である悪魔ですか? あの恐ろしい闇弾を放ってくる?
北上してオーバル公国に行きましょう。オーバルを隠密使いながら走って駆け抜けたほうが余程安全です。そうしましょう」
『カラス第2飛行隊から報告! 周囲を黒い魔物多数が包囲! 悪魔かもしれません! 距離約200!』
『反応速度5! 障壁×6! マイホーム、フィリッポホーム開口部展開!』
私たちを中心に六角形の形になるように漆黒の障壁を作る。円盤型ではなく長方形の板型。高さ3m幅6mの壁だ。13人もいると意外と広い範囲に散らばる。全員が六角形の範囲内に居てくれて良かった。
移動中の訓練の成果だろう。全員反応速度5を使用、89式神器を腰だめに構えながらホームの開口部と漆黒の障壁が立ち上がるまで周囲を警戒する。
概ね200メートルくらい離れたところに魔物がいるらしいが反応速度5の効果で周囲は漆黒に包まれており全く見えない。そうだ遠視だ!
いた! 茶色のサル? 狒狒? のような形の身長1.2mくらいの魔物。悪魔なのか? 周囲に。多いな。300~400匹は居るかな。こいつら組織的な動きだ。指揮官が居るのか? 障壁が立ち上がった。まずはホームに入ろう。
『みんな、ホームに入ろう。急いで!』
フィリッポホームは4人しか入らないから9名が入るマイホームよりも早く避難できる。しかしフィリッポ曹長の指導なのか。私たち9名が入り終わるまで私たちの周囲で警戒してくれている。自分たちの役割をよくわかっているね。良きかな良きかな。
これは昇進させることも考慮すべきか。しかしフィリッポを昇進させると准尉か。ほぼ士官だし、階級だけ聞くと下手するとグレタさんの少佐よりもエラそうだからね。
これは自衛隊の勤務経験が無いと分かりにくいかもだけど准尉は兵、下士官の代表者でご意見番なのだ。だから准尉の先任者が部隊指揮官の次に権力を持っている部隊も多い。フィリッポがグレタさんよりエラそうなどとは受け入れることは出来ない。ゆえにフィリッポの昇任はナシだ。退役するときに特別昇任させてやろう。ありがたく思いたまえ。
『よし、全員入ったね。隠蔽用障壁をはめてと。じゃ5メートルくらい上昇させるよ。うーん相変わらず神力の消費がキツイ。神力総量が10パーセントくらいになってしまった』
開口部の高度が5メートルとなって周囲がよく見渡せる。突如出現した漆黒の壁に黒い魔物たちは特に戸惑うこともなく近づいてくる。さすが心の無い奴らである。猿とか狒狒とかは見ようによっては可愛く見えるときもあるがこいつ等は全然である。
目が赤く鼻は大きくて醜い鉤鼻。口は耳まで裂けて針のような牙が無数に生えていてよだれを垂らしている。耳は死んだ蝙蝠の翼のように醜く垂れ下がっており頭には禍々しい角が一本。悪魔か。じゃなければファンタジー世界定番の邪悪寄りのゴブリン?
ステータスによる鑑定は距離が遠いから届かない。
しかし魔物ってのは生物のような進化的な環境適応による合理性など微塵も感じさせない。明らかに邪悪・狂暴・狂気を体現する造形をしている。
やはり疑似生命体ってことだな。イースさんの言う通り。人類とは共存できない存在だね。
邪悪なゴブリン共は漆黒の障壁の2mから3mのところで前進しなくなった。立ち止まった邪悪なゴブリンはジッと立ち尽くしている。ふと見ると邪悪なゴブリンの後ろに身長1.7mくらいの真っ黒な人間が立っていた。こいつが悪魔なのかな?
「イースさん、この猿みたいな邪悪そうな魔物って何ですか?」
「こいつらはレッサーデーモンですね。レッサーといっても魔物で言えばレベル4以上の脅威度はあります。闇弾1。個体によっては闇弾2を撃ってきます。恐ろしいですよ。数が多いですしね」
「確かにそれは恐ろしいね。それで、後ろにいる人間みたいなやつは何ですか?アイツも悪魔ですか?」
随分近づいてきたので良く見える。真っ黒で身長1.7mくらい。中肉中背な者と醜くでっぷり太った者がいる。素っ裸で生殖器は見えない。背中から蝙蝠のような羽が生えている。しかし体に対しての大きさや推定強度からして空力的に飛行するための器官とは思えない。飛ぶなら魔法で飛ぶのだろう。
顔は邪悪ゴブリンと特徴は同じだがもともとの頭の形が人類寄りなので印象は随分と異なる。邪悪ながら知性を感じさせる。もしかしたら会話が可能かもしれない。
「あいつらはデーモンですね。レッサーデーモン100匹に対して1匹の割合でいるといわれます。最初から101匹のユニットで発生するんじゃないかって言われていましたね。攻撃は闇弾2~闇弾3を使います。奇襲されたらまず命は無いという恐怖の魔物です」
「なるほど。マイホームがなかったら反応速度を起動して逃げるか、先制攻撃で殲滅しないとヤバいですね。よかったですよマイホームがあって。こうやって安全なところから高みの見物が出来るんですから」
「デーモン4~5匹に対してアークデーモンつまり上位悪魔が居ることが多いですね。5000年前はそうでしたよ」
「そうなの? あの闇弾5以上をつかうという上位悪魔? こんなに気軽に会えるところにいるんですね? ヤバいじゃん。どっかに居るかな?」
「お姉さま、あの小高い丘の上に醜いガマガエルのような男が仁王立ちしてますけど。あいつが探しているアークデーモンかな?」
我が妹マルチナがアークデーモンを発見した!
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