第35話 ロードナイトの風(3)



【39日目 午後3時頃 シリトン市街地】


「そうだ。傭兵リーダーの事。グレタさんキアラさんちょっと相談だけど」


「はいはい。今日の襲撃時に傭兵リーダーが邪魔だった件ですか? アリス様の隠蔽障壁展開を妨げるとは万死に値しますが己の身をもって攻撃魔法を防いだのは評価しましょう。プラマイゼロですね」


「ははは。邪魔だったのはその通りなんだけど。身をもって防いでくれた事は高く評価しているんだよね。

彼らには私達の情報を全く与えずに護衛させちゃった。悪いことしたかなって気がしてる。

で、今回のことでハッキリしたのが現状では彼等の能力だと足手まといになる可能性が高いって事。

なので解雇してサヨナラするか、使徒じゃない何かランクダウンさせたあの司祭みたいなポジションで護衛に使い続けるか決めたいなって」


「なるほど。亜神アリス軍団には士官ばかりで兵隊が居ないのが不満だったのです。

ボブ軍曹は実質ペットなので当てにできないというか称号に出ていないので軍曹である自覚は無いですからね。

若い者は軍曹と伍長と一等兵。フィリッポめは准尉辺りにしておけばよろしいかも知れませんね。

それをキアラ少尉が小隊長として指揮する。

悪くないです。キアラのいい肉壁になってくれそうです。

そしてアリス様や私が良いように小僧として使う。便利で良いですね」


「うん。言い方はアレだけど私が思っていた事とほとんど同じだよ。キアラさんはどう?」


「そうですねえ。良いと思うよ。さっき私達がマイホームに籠城して警戒してたときあの子達は弱いのに周りを警戒してくれていた。真面目で信用できる。

彼らが実際はあんまり役に立たないのは事実だけど恩恵がないならあたしも同じだし。

男手が有った方が良いこともあるしなめられないですむかも知れない」


「よし。じゃあ彼らがどっちを選ぶかだけどフィリッポ傭兵リーダーに聞いてみよう。

グレタさん、傭兵リーダー呼んでくれる?」





♢♢♢♢





 俺はシリトンを根拠に活動する傭兵パーティ「ロードナイトの風」リーダーのフィリッポだ。


 午前中に南部方面軍の演習場で賊の襲撃を受けて大怪我を負ったはずなのに気がついたら完全に治っていた。服が破れているから間違いなく攻撃魔法の直撃を胸に受けたはずだ。


 皇女姉君殿下が治してくれたとしか思えないが説明してくれない。側近のグレタ女史も余計な事は聞くなと圧をかけてくるしなー。


 パーティメンバーに聞いてもかなりの時間いなくなっていたとしか分からないし。この俺とか司令官、女性中尉もいなくなってたってどうよ。訳の分からない黒い壁だとか言ってるし。


 ま、いずれにしても明日明後日は司令部には行くけど控室にいるだけだって事だから気が楽で良いけどね。






「コンコン」 



ノックだ。「どうぞ〜」



ドアを開けて入って来たのはグレタ女史だ。



「フィリッポさん、アリス様が用事があるので来てくださいとの事です。手ぶらでよいですよ。お話しだけですから。大丈夫です?」


「大丈夫ですよ。今から行けます。」



 俺は立ち上がってグレタ女史に続いて三階のスイートルームのリビングに向かった。







「フィリッポさん、どうぞお座り下さい。」



 お茶とお菓子が準備されていて勧められる。遠慮なくいただきながら今日の襲撃時の動きや少年傭兵のプロ意識をほめられる。



「ありがとうございます。ところでお話しがあるとか。どんなお話しでしょうか」


「ええ。実はですね。我々の事情が変化しましてね。このままの護衛契約は無理そうになってしまったんですよ。

もちろんすでに支払った報酬はそのまま納めてください。

その上で新たなオファーをしたいと思っているのです」


「そうなんですか。残念ですね。それで新たなオファーとはどのようなものなのでしょうか」


「その事ですが実は他言無用の内容なので。聞いた事は誰にも話さないと約束していただかないと困るんですよ。いかがですか?」


「ああ、それはよくある事ですから大丈夫です。真っ当な傭兵は守秘義務を守りますよ。ロードナイトの風はそういう傭兵パーティですからね」


「分かりました。では最初にこれを受け取ってくださいーー転写 ステータス!

今あなたはステータスという魔法が使える様になりました。自分のステータスを意識して見てください」



「ん、ステータス?  うわーっ!」



名前 フィリッポ・パチーノ

種族 人(男性) 

年齢 35  体力F  魔力F

魔法 光弾4風弾3

   ステータス5

身体強化 筋力1持久力1防御1

称号 パチーノ準男爵家3男





 レベル5魔法「ステータス」がある。

流れからして皇女姉君がした事に違いない。しかしそんな事できるのか?



「今貴方に転写したレベル5魔法ステータスは差し上げます。好きに使って下さい。

通常はレベル5で持っている人はほとんどいないでしょうから役に立ちますよ?他人のステータスまで閲覧できますからね」



「そうなんですか?だとしたらそうでしょうね。ありがとうございますって言葉じゃ足りないですね。どうお礼をしたら良いのか」


「いえいえ、お気になさらず。これからのお話に必要なので渡したのですから」



「それでですね。新たなオファーとは」




「オファーとは?」




「皇女姉君とは世を忍ぶ仮の姿。

本当は、異世界の神アリスなのです。異世界を巡る旅の途中にこのイース世界に降臨し受肉した姿が今のこの姿。亜神アリスなのです」




「ふーん。そうなんですか。」




「信じられませんか?」




「信じるも信じないも、よく分からないというのが正直なところで。神の証明ってどうやるんでしょう?」



「なるほど。ではこれではどうかな?」




       ーー光あれーー




 部屋全体が強くて柔らかな光の波動に包まれる。皇女姉君の差し出した掌の上に光が凝縮していき直径10センチメルトほどの光る球体が出現した。



「永久に光り続け、破壊することもできない神器です」



 皇女姉君は実に自然に光る燭台を虚空から作りだしてテーブルの上に置いた。




 ジッと神器? を見る。




 これって魔法の光生成と違うのか?虚空から工芸品を生み出したことのが凄く思える。



 皇女姉君の顔をチラ見する。まだ信じてないのがバレたか。不満そうに見えるな。




「ムウ。グレタさん。この人なかなか信じませんね。どうしたら良いと思います?」


「そうですね。このように察しの悪い男は役に立たない可能性が高いです。

説明するにもいちいち手間がかかって大変ですし無制限に情報を垂れ流すのは良いことではありません。

転写したステータスを引っ剥がしてからこのまま解雇してサヨナラでよろしいのでは?」


「そっか。そうかもね。じゃフィリッポさん。残念だけどー」



「わー、待ってください!ちょっと疑問をほのめかしただけじゃないですか。いま気づきました。魔術の転写? なんて人間にはできませんって。異世界の亜神アリス様ですね。分かりました。お話しの続きお願いします」



 やばい。気を悪くさせちゃった。神と言われてもピンと来ないけど、魔術の転写もこの神器も凄まじいのは確かだ。儲けの匂いがする。儲けを逃すのは傭兵の名折れなのだ。話は全部聞かないと。



「えーどうしようかな。一度失われた信用は取り戻す事難しいっていう格言を知らないの?」


「アリス様。一度失われた信用は取り戻せない、が正しい格言でございますよ?」




「すみません。すみません。悪気は無いのです。ただただ察しが悪かったのです。お許しください。

一度失った信用は行動で取り返すのがこのフィリッポの信条。

必ずや亜神アリス様のご期待に添える様に努めますのでなにとぞ。」




「そう? そこまで言うならー」


「アリス様? 甘い顔を見せるのも場合によりけりでございますよ?

この男。純粋では無い何かを隠しているやに見受けられます。

今日の襲撃の時も身を挺してアリス様を護ったように見えたものの。ただただ逃げるつもりだった可能性も考慮すべきです」



 うへえ。あの時は正直何も考えてなかったから俺にも分からない。



「グレタ様。キアラ様。なにとぞいま一度。私以外のパーティメンバーの機会をぜひとも。私は身を引きますので彼らには新しいオファーをしてやっていただけないでしょうか。お願いします」



「む。話を続けなさい。」



 お。グレタ女史のツボに効いた?



「ははーっ。俺はあいつらの保護者代わりで面倒見る義務があるんだ。その俺があいつらのチャンスを潰したなんてあいつらの親兄弟に顔向けできない。

あいつらは役に立ちますよ!力はそんなに無いけどハートがあるからね!

見るだけ聞くだけでもお願いします!」



「お母さん、この人達そんな悪い人じゃ無いよ。シリトンに行く時、宿場町で変な傭兵に絡まれた時も、弱いのに身を挺して守ってくれた。あたしは感謝してるよ。

今日だって腹に一物あるようには見えなかった。仮採用で試用期間を2、3ヶ月とる感じで試してみたら?」


「ふうむ。それもそうですね。

アリス様。この男。当初は准尉にと思いましたが曹長あたりで仮採用して様子を見るというのはいかがでしょうか」



「オファーの中身も説明してないけど、どうなのかなフィリッポさん?」



「ははっ。説明を希望いたしますー」



「じゃグレタさんよろしく」



「かしこまりました。ではフィリッポ。

そなた達が希望すれば次のような扱いにて亜神アリス様の使命達成の手伝いをする事を考慮しましょう。




一つ 今までの護衛契約は現時点で終了。支払い済み報酬は返還の要無く確定させる。

一つ 今後は亜神アリス様の守護に任ずる亜神アリス軍団員としてアリス様に帰依し勤めを果たすものとする。


一つ フィリッポは曹長

   ニコラは伍長

   ジョルジュは一等兵

   ルイージはニ等兵とする。   


一つ 軍団員としての報酬は支給しない。


一つ 生活や各種行動に必要な経費や装備及び物品は支給する。軍団の事業実行に伴う収入は全て軍団会計に入金される。


一つ 軍団員は亜神アリス様、使徒及び神獣の指示に従うものとする。


一つ 軍団員は使命を果たすための恩恵を得る。退団時は危険な物を消去するが危険で無い恩恵は消去しない。


一つ この他の事は第1使徒グレタの指示による。不在の時は第3使徒サーラ、さらに不在の場合には第2使徒キアラの指示を受けるものとする。





 以上です。貴方が即決する訳には行かないでしょうから隣の控室にて説明と協議する事を許します。隣の控室以外では決して口にしない様に。守秘義務です」



「ははーっ。ではいったん下に降りてから戻ってメンバー全員で話し合います。ありがとうございます」



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