第54話 オプシディアン公都

【106日目 オプシディアン公国 公都 午前9時】


 私達はオプシディアン公国の公都郊外に到達していた。オーバル公国の魔境に隣接する最南端から20日間かけてかなりゆっくりというかのんびりと移動したことになる。




 移動速度を落としたのは昼夜逆転生活を戻したかったこと。オプシディアン公国を観察したくて街道や街の様子を見たり食料や食品の買い物をしたこと。


 そして別行動の訪問団が既にアレキサンドライト帝都に先着しているから皇女マルチナが無事に移動中であることは神託を通じて訪問団経由で伝わっているので急ぐ必要も無かったためである。




 オプシディアン公国公都は珍しく街壁を持つ大都市である。もっとも囲われているのは旧街区のみで外壁の外側にも街が広がっている。


 公都の北西には帝都、北東には教皇庁。この3つの区域が接し合って存在していた。









「そろそろオプシディアン公都の新街区に入ってきましたね。あと2キロルほどで外壁があって旧街区です。

旧街区は貴族屋敷と政府行政府、一部の高級商店やホテルとレストラン。そして宮殿があります。

宮殿は城塞になってますよ。旧街区はおよそ直径1.5キロルの広大な円状の街区です」


「なるほどなるほど。ありがとうグレタさん。分かり易いです」





 私たちはのんびりと旧街区に向けて歩いていた。私の左隣には手を繋いで妹マルチナ。鉄板の不動の定位置となっている。


 右にはグレタさんがいてさっきのように観光ガイドのように滑らかに語ってくれる。前方にはフィリッポ曹長以下2名が露払いとして展開。役に立っている。後方にもニコラ伍長とジョルジュ一等兵が警戒。


 中間に女神イースのグループとサーラ姉妹。かなりの規模の団体さんだね。





 新街区に入ってふと前方を見ると騎馬の騎士が4騎と神官らしき者達が4名こちらを見ていた。私たちが近づくと神官のような者がツカツカとやって来ると、大音声で喋り出す。



「そこにおられるのは女神イース様とその巫女アリアンナ様、ノエミ様でございますね? 大聖堂の神官と神官騎士がお迎えにあがりました」



 口上を述べると神官と騎馬の神官騎士は跪いて頭を垂れた。



 ほほう。神託で色々と指示を垂れていたイースめ。神官どもを迎えに来させたか。となると妹マルチナの迎えを手配しなかったお姉ちゃんである私の株が下がってしまったかな。そっと妹の方を見てみる。妹マルチナは私の左腕をぐいっと抱え込んでニッコリ。



「アタシは皇宮のお迎えに来てもらうよりお姉ちゃんと手を繋いで歩く方が100倍嬉しいよ? イースさんはこれから女神イース軍団を組織するから体裁が必要なんだよ。私たちにはそんなものいらないからね。だってあと9ヶ月もすればアースに帰るんだから」



 この可愛さと清らかさ。天使マルチナか。いや聖女か。それに以心伝心どころか心が繋がってるから心地の良いこと良いこと。



「ありがと。アースに行ってくれるの? 皇帝様とか皇后様とか大丈夫かな」


「分身作って行くんでしょ? 外から見ただけじゃ分身作って別の宇宙に行ってるなんて分かんないから説明の必要もないよ。大丈夫」


「そっかー。そうだよね。一緒に行ってくれてありがとう。もし一緒にアース行くの厳しかったらアースに帰るのどうしょうか迷ってたんだ。良かったよ」


「えへへ。そうなの?」




 このやり取りを優しい目で見守るグレタ。


 しかしキアラ、サーラ姉妹たちはこのような砂糖を噛むようなやりとりを一ヶ月以上見続けて慣れてしまってもうなんとも思わないのであった。




「ほらアリス様マルチナ様。神官騎士が進み出したよ。アタシ達も行こう」



 サーラに急かされて前進しだす一行。





♢♢





 女神イースと巫女ふたりは巨大な山車に乗せられて前後に騎馬10騎ずつ、徒士の神官兵20人ずつのパレード状態になってオプシディアン公都大通りを北上していく。


 我々は何故か山車の後方15mを山車に続くようにして歩いている。イースの従者ポジションですか?





 公都は本当は素通りするだけで女神イースのグループは大聖堂へ、私たちは帝都へ向かうつもりだったけど公国側が女神イースが素通りなどもっての他ということで公国宮殿前で公爵一家のご挨拶を受けるらしい。


 ちなみに女神イースが隠れ住んでいたアレキサンドライトの迷宮は教皇庁の敷地内大聖堂の中にある。迷宮のダンジョンマスターはイースなので魔物が大聖堂に迷惑をかける事はない。





 これだけの大都市で山車に乗って練り歩くとなれば地球の感覚で言えばテロ攻撃の良い標的。竜の信者にとっても格好の襲撃チャンスであるはずということで強化カラス飛行隊を全力展開。


 増やしに増やして300羽。15個飛行隊で公都全域と山車及び我々をスポットで警戒監視と防衛を命じている。


 今のところ竜の信者は未発見なのでここオプシディアン公国での存在密度は低いのだろう。






 宮殿前広場で女神イースを乗せた山車が止まる。山車の右を見ると高さ1m程のお立ち台があってオプシディアン公爵とその家族らしき夫婦と子供3人が片膝をついて頭を垂れている。女神イースが声をかけるようだ。



「オプシディアン公爵よ。出迎えご苦労である。我、女神イースは復活した。

再び力を振るい人類に恩恵を与えていくのでその方をはじめとして改めて我に対する信教心を高めてなお一層我に帰依するようにせよ。

細部は巫女と司祭を通じて示すゆえしっかりと対応せよ」


「ははー。ありがたいお言葉。肝に銘じましてございます」


「うむ。頼むぞ。それと我が復活するまでの間、永きに渡り教皇庁や大聖堂そして信者たちを保護し支えてくれた事は誠に大義であった。お主らには一足早く恩恵を授けよう」


「転写ー神託 念話 ステータス!」




「「「「うおおおおーーー!!!」」」」



 大歓声が巻き起こる。





「イースさんアクセル全開だね。女神イース軍団の力がこの大陸中に満ちるのも遠くないでしょうね」


「うん。期待以上の動きだよ。この調子で竜の信者たちの活動可能領域をどんどん狭めて欲しい。本当に」



 マルチナ妹と女神イース軍団の将来について語り合う。





 山車は再び進み出す。目的地は大聖堂だ。


 公都を南北に走る大通りを北上していく。あと700m進んで外壁を超えて右に行けば大聖堂、左に行けば帝都だ。




『イースさん。アリスです。なかなか良い感じで復活をアピール出来ましたね。さすが女神として5000年間君臨していただけのことはあります。感服しました。』


『まあね。名が売れていて既存の宗教組織が権力持ってるからね。これくらいは出来ないと話にならなくない? アリス様もこれを期待してイース軍団を作らせようとしたわけでしょう?』


『そうなんだけどね。こんなに鮮やかに期待以上の速度と規模で実行とは嬉しい驚きなんだよね。さすが女神様。

ところで、そこの外壁抜けたら私たち左の帝都に行くから。カラス3個飛行隊預けるから自由に使って。イースさんアリアンナさんノエミさんでそれぞれ持てば良いんじゃないかな?

で、イースさんは迷宮に籠るの?』


『基本はね。やっぱ迷宮が一番安全だと思うのよね。なんならアリス様も来る? あと9ヶ月だっけ? 迷宮に籠もってれば確実だよ』


『うん。それは一案なんだよね。ちょっと考えてみるよ。ありがとう。また神託使って連絡するから』


『はーい。了解。 じゃーね』









 外壁を出て左に曲がった私たち。そこには帝都皇宮からの迎えの馬車と護衛が待っていた。



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