第61話 奇 襲
【230日目 フローライト南方10キロル 朝10時頃】
翌朝。私、グレタ、キアラ、サーラ、エミリーは縦隊となって長距離走行モードで走行を再開している。アンバー高原の北東端をひたすら北上する。10kmも走ればフローライトに到着するはずだからそこで小休止とする予定なのです。
砂色の荒野がどこまでも広がっている。季節は既に初冬となっており朝夕は冷え込みが激しい。日中でも気温は15度位にしかならないし最低気温は0度近くとなる。
朝の冷たい空気を切り裂くように走っていると。
突然左側が光ったかと思うと右側に吹っ飛ばされた!
「反応速度5筋力5衝撃耐性5遠視1」
私は即座に反応速度を発動した!
反応速度5の効果で体感時間が32倍に引き伸ばされる。周囲が一気に暗くなると共に音が一切聞こえなくなる。右にクルクル回転しながら吹き飛ばされているのを飛行5を発動して身体の回転を止める。89式神器を控え銃(両手で体正面に保持する執銃時の動作)から腰だめに構え隠蔽障壁を起動するとともに敵を探す。どこにいる!
戦闘用軍装のお陰で負傷はないが爆風の影響で耳がおかしい。
『マイホーム開口部展開! 右側に開口部を作ったから入れる人は入って!
ハエ男爵! 敵はどこにいる!』
素早く周囲を見渡すとサーラ、グレタ、キアラも私同様空中で姿勢制御して89式隠蔽障壁を展開している。エミリーはなす術なくクルクルと回転しておりサーラがサポートに向かっている。
私たちの周囲を攻撃魔法が大量に通過していくとともに攻撃魔法の一部は周囲の地面や岩に命中して巨大な白い火炎を吹き上げている。高レベル火弾だ! 反応速度の効果で攻撃魔法の弾体速度は遅いけど時速100キロは超えている感じがする。
『マスター、敵は進行方向正面250メルト。火弾8若しくは9を連発している竜である。マスターらに当たりそうな火弾は我が闇弾6で迎撃している。マスターらも早く自分で防御するが良い』
火弾8や火弾9の攻撃力の詳細は不明だが銃弾の範疇を超えて火砲並の攻撃力が有るのは間違いない。現に今吹っ飛ばされたのは榴弾の破片効果と思われる。
『隠蔽障壁マックス! 正面に展開! 引き続いて左右後方! みんな敵は正面だよ! 反撃しないで防御しつつマイホームに退避! ハエ男爵は敵の攻撃魔法を迎撃せよ!』
敵の竜はどこにーーいた!
巨大な頭部。巨大な顎。ノコギリ状の長い牙が不気味に光る。体長の半分にも達する太長い尾。がっしりした巨大な後ろ足。巨大な体に対して異常に小さく細い前足。砂色で体毛のない皮膚。
周囲を強化カラス飛行隊が旋回して攻撃魔法を打ち込んでいるが竜の魔法防御が強いのかダメージを与えられているようには感じられない!
『敵はジグザグに方向を変えながらこちらに向かって来ているーー体長15mくらいのティラノサウルスそっくりの恐竜タイプの竜だよ!
敵の動きが早い! 恐らく反応速度2から3を持っている! 急いで入って!』
エミリー、サーラ、キアラがマイホームに入ったところで竜はアリス達の姿が見えないーー89式神器の効果なのだがーーことに気づいたのか火弾の攻撃をハエ男爵に向け出した。しかし竜の目は頻りにアリス達の行方を探している!
私がマイホームに入ろうとしたところで隠蔽障壁が順に立ち上がっていく。頭上では竜の火弾、ハエ男爵の闇弾の激しい撃ち合いとなっている。火竜が撃つ火弾をハエ男爵は闇弾を直撃させて迎撃している。どうやったらそんな離れ業ができるのだろうか。少なくとも自分には絶対に出来ない。恐るべき魔法技量を持っている悪魔のハエである。
ハエ男爵の闇弾射撃間隔のほうが短い一方で竜の火弾の威力は高い。しかし闇弾は当たれば問答無用で対象を亜空間に弾き飛ばして消滅させるので両者の攻撃魔法の撃ち合いは均衡している。火竜の撃つ火弾の射撃精度が低いのも助かっている。
私がマイホームに入り終えて振り返ると火竜が目前に迫る。
時速50kmくらいの速度で走っていた竜が不可視の隠蔽障壁に激突して壁に張り付いたかと思ったらその場に崩れ落ちた!
障壁は空間構造そのものであるためその剛性は無限大だ。障壁に激突した竜はその運動エネルギーを全て自分の身体内で瞬間的に消費したはず。 その結果少なくないダメージを負ったと思われる。
竜が動きを止めた隙を逃さず私の時空間操作が発動。直径5mの障壁が竜の体内、巨大な後ろ足2本と尾を同時に斬り落とすように竜の胴体後部を斜めに両断した!
『ハエ男爵! 竜を無力化しなさい! 睡眠、恐怖、嘔吐、片端からかけていって! 両眼を火弾で焼いて!』
ハエ男爵の連続攻撃が命中して竜はうめき声を上げながら痙攣しながらのたうち回るとともに嘔吐を始めた。睡眠は効かなかったけど恐怖と嘔吐は効いたようだね。
『ハエ男爵。周囲に敵がいないか探査して。特に闇竜。アイツがいたらヤバいから』
『了解。マスター』
『強化カラスたち! 半径5キロル内に闇竜がいないか検索しなさい!』
ハエ男爵と強化カラスたちが周囲を探査する間に私は火竜に動きがないか注意しながら闇竜が居ないか探査をかける。ハエやカラスたちを信用していないわけじゃなくてダブルチェック、トリプルチェックってやつです。念を入れて探査ーーーー私たちと火竜以外に反応は無い。闇竜はいないようだ。
半殺しにした火竜はとりあえず死なないように切り落とした両脚と尾の切断面、そしてハエ男爵に焼かせた両眼に局所的に回復をかけて出血を止める。
引き続いて更に念を入れて小さな両前脚を切断して回復。更に障壁で作り出したリングを火竜の顎に口輪として作り出してキツく絞りあげる。これで口を開けることはできないでしょう。嘔吐はすでに出る物は出し尽くしていてのどや肺に詰まらせることもないと思う。
30分ほどかけて周辺の検索は終了した。
『マスター 闇竜は近くにはいないようだ。特に反応はない』
『分かった。強化カラスたちは引き続き半径5キロル内の警戒を続けて!』
ーーふう。闇竜が近くにいないなら取り敢えず安全と言えるか。
今のはヤバかった。ハエ男爵が私たちに直撃するような火弾を闇弾で迎撃しなければ、そして火竜のヘイトを引き寄せてくれなければ攻撃が誰かに直撃して死んでいたかもしれない。
でも火竜を無力化することが出来た。良かったよ。コイツが手に入ったからには情報を引き出すこともできるし色々と使い道があると思うから。
痙攣しながらカラ嘔吐を続ける横たわる竜に話しかけてみる。
「おーい。そこの竜。聞こえるかな?」
返事はない。口を開けないので当たり前だった。念話で試してみる。
『おーい。そこの竜。この声聞こえる?』
念話なのに痙攣したうめき声しか伝わってこない。しょうがない、恐怖と嘔吐限定で「治癒!」これで会話できるでしょう。
『おーい。そこの竜。この声聞こえる?』
『ーーこの声は誰だ。皇女姉か?』
『そう。あなたは亜神(火竜)アエロステオンなのかな?』
『そのとおり。我はアエロステオンである』
この野郎、敗北してダルマになってるくせに偉そうというか堂々としているね。さすがは最上位魔獣の真竜というべきか。
『そうか。あなたは闇竜と違って私を殺す理由は無いんじゃなかったの?』
『そのとおりだ。だが第1使徒闇竜タタウイネア様の頼みは断れない』
『じゃどうしても私を殺すの?』
『やむを得ないがそのとおりだ。しかし難しいだろう。我はこんな状態になってしまった上に皇女姉がどこに居るのかも分からないからな』
私はマイホーム開口部を闇竜までの距離が5m以内になるまで移動させる。神力負担が重いが安全には代えられない。
よし5m内に入った。
鑑定ーー火竜のステータス
名前 アエロステオン
種族 真竜(男性)
年齢 8385(身体年齢1385)
体力B 魔力B
魔法 風弾7火弾9回復5睡眠4
ステータス5暗視4隠密2
探知2魔法防御6念話5飛行8
魔獣調教1竜通信5
身体強化 筋力6持久力6衝撃耐性6
睡眠耐性7麻痺耐性7毒耐性6
反応速度3防御7老化緩和6
神技 時空間操作Pエネルギー操作K
ベクトル操作Q物質創造R
生命体干渉M精神構造干渉K
神域干渉K
称号 竜亜神セイタード(時空)の第2使徒
竜亜神 魔獣調教師
やはり火竜に間違いない。このステータスを見ると神としての力はあんまりないね。かつての女神イースと同程度か。信者を作る程度だね。
体力Bと魔力Bとは。私と比べると桁違いに強力だ。これならホントの意味で攻撃魔法を連発できるよ。5000年前に女神イースがコテンパンの半殺しにされたのも分かる強さだ。
ではコイツを使って実験してみるか。まず私たちが持ってない魔術を頂く。
ーーーそれぞれ持ってないもの転写!
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