第2話 惑星イース
【1日目】
一瞬にして視界が切り替わり、地平の先まで続く荒野が目に飛び込んできた!
ここが惑星イースか。
日差しが強いのか。恐ろしく眩しい。。
この依より代の目が強い光に対応できていないのかもしれない。眩しさが落ち着くのを待って周囲を観察する。
強い日差しによって作られた私の影が右前方に伸びている。
目の前の風景を見渡してみる。高さ1メートルから2メートルほどの背の低い木がまばらに生えた砂色の明るい大地が見渡す限りどこまでも続いている。
土地の起伏はあまり無いね。
周囲をゆっくりと観察する。
右に10キロほど離れたところに高さ500から600mほどの赤っぽい岩石質の山脈?が前後にのびている。
前方と左側には山は無く平坦な荒野が続いている。左後ろの方向はるか遠く、100キロ以上だと思うが山塊が見える。
後方は平坦な荒野が続く。小さな丘が所々にある。
平坦な荒野のど真ん中に居るようだ。
手を翳かざしながら太陽のある場所を確認する。地球でも言える事だが太陽というのは危険な天体で肉眼で直視すると目にダメージを受けてしまう。
断言出来ないが太陽は一つだね。
神様はG2スペクトル型恒星って言ってたから地球の太陽とほぼ同じはずだ。
太陽は天頂と地平線までを4分割して地平線から4分の1くらいのところ。春分の頃なら午後4時くらい、若しくは朝9時くらいと言ったところだろうか。現在地の緯度や地軸の傾きさえ不明なので今しばらく太陽の動きを観測しなければ分からないな。
一応、確かめる必要がある。夢ではないと思うけど、これが現実だということはどうやったら?
両手で身体のあちこちを軽く叩いたり摩さすったりしてみる。手を叩いて音を出してみる。体を触れられる感触が感じられるし、手を叩いた感触と音がしっかり聞こえる。全く違和感ないね。現実的。
何度か軽くジャンプしてみる。
体が軽い感じがする。違和感はあるが、現実的である。飛んだ時の浮遊感。着地の衝撃。音。運動したことによる息遣いや血圧の変動。生身の体の感覚がしっかりと感じられる。
しゃがんで小石を拾う。ジッと観察してみる。
「石」だね。石の細部まで観察できる。夢というか何かの創造の産物とは思えないな。
乾燥した細かい砂が付着している。息を吹きかければ砂が吹き飛んでいく。石を投げれば放物線を描いて5メートルほど前方に軽い音を立てて地面に落ちる。
もう一回しゃがんで傍らに生えている木の葉っぱを観察する。
土埃で覆われているが細長い楕円形で長さ10cmほどの葉には葉脈がありあちらこちらに生えている木には無数の葉っぱが緩やかな風に揺れていた。
これは現実にちがいないな。夢ではない。仮に仮想現実のようなものだとして。こんな細部まで作りこめるなら最早それは現実と言ってもいいだろう。
これで魔術とか亜神の力が使えることが確認できれば神様の言った通り別の宇宙であると 判断して良さそうだ。
もう一度、回りを見渡す。
むーん。アメリカ、ニューメキシコの荒野に似ているなあ。昔の西部劇とかに出てくるやつ。ニューメキシコには仕事で出張して滞在したことがある。
見渡す限り人工物が何にもない荒野だとか、空気が澄み切っていて、遠くの山がびっくりするほどクリアに見える風景とかが印象に残っているんだよね。
半乾燥地域ということになると生き物にとっては厳しい環境なのかも。見たところ大型の生物は見あたらない。空を飛行する鳥類は2羽、3羽いるね。取り敢えず目に見える危険が無いようなので少し安心できた。
神様知識によると、この世界イースには魔物が無限に湧き出す「魔境まきょう」と呼ばれる魔物の支配領域が至る所に点在しており、その深部には高度な魔法技術を連発する魔獣の集団が巣食っているという。
この半乾燥地域にもその様な「魔境」が存在するかも知れない。いま私がいるここが「魔境」でなければ良いが。
続いて自分自身を観察してみる。
腕を見ると色白で細っそりしている。指はすらりと白魚のよう。
胸は控えめに膨らんでおりウエストとヒップは緩やかに女性的なボディーラインを描いている。
亜麻色の七分袖シャツに足首まで隠れるロングスカート。足元は表面が傷だらけで白く変色した革のブーツ。
視界の端にはショートストレートのアッシュブロンドの髪が揺れている。
なるほど。顔以外は典型的なコーカソイド風美少女だね。15歳ということだし。顔を見たいところだけれど、それより早急に自分の出来ることや能力を把握しなければ。なにしろどんな危険生物や敵性生命体がいるのか分からないうえに食糧も飲料水も見当たらない……
……この依り代、女だよね。ビックリだよ。
そういや、あの神様。依り代は現地の知的生命体で人類としか説明しなかった。魔術だの、魔物だの物騒だのって言われて聞き忘れたよ。
でもあの時は依り代は既に準備されていたはず。文句を言っても遅かったんだろうな。文句を言った結果この依り代を廃棄するって言われても後味悪いし困る。それに私は亜神(時空)となった影響か。女性であることについて特に感慨は感じなかった。
私は、死ななければ無限の未来まで時空神として存在し続けることが出来る。今は無理だが神としての格が上がれば男性でも女性でもその姿を変化させることができる。転写された神様知識によるとね。
だったら男でも女でも、どっちでもいい。気に入らなければ将来的に変えてしまえばいいから。
この件についてはあまり緊急性を感じないので横に置いておく。
さて、能力の確認である。
神様が言うには、この依り代は幾つかの初歩的な魔法技術つまり魔術を行使できるらしい。
神様が私の依り代を作り出すにあたってゼロから体を作ったのではなく現地の知的生命体から適当に選んで複製したと言っていた。
同時にその現地知的生命体の精神構造体から一般常識や言語能力、運動能力、魔術等の技能を転写してくれたようだ。
ということは私と全く同一の姿・能力の人物がこのイース世界に生きているんだよね。出会ったらビックリするだろうなあ。
この子(依り代)が持つ魔術に「ステータス」というのがある。この技術は「本人の身体的な各種能力を数値化して認識する」というものである。
やってみよう。「ステータス」
名前 マルチナ
種族 人(女性)
年齢 15 体力 G 魔力F
魔法 水生成1光生成1ステータス1
身体強化 防御2
称号 亜神(時空)の依り代
攻撃能力は無いね。マルチナというのは多分依り代の元となった人物の名前だろう。イタリア風だなあ。こういったところもファンタジーA型標準宇宙の仕様なのかな?
ちなみに水生成1、防御2などの数字1とか2が示すのはその魔術の強さを意味している。数字が大きいほど強力ということだ。
神様知識によると。
魔力レベルは魔術の発動を繰り返す事により僅かに上昇する。
魔術の習得は魔術を使える者が教えたい者の体に触れながら魔術の発動を繰り返す事により非常に僅わずかな確率で習得する。
魔物の「魔核」に魔力を込めることにより魔物の固有魔術を行使出来るし僅かな確率で習得する。
このため魔物の魔核は魔術発動の媒体かねて魔術の習得道具として価値ある物として売買の対象となっている。
魔物というのは「魔境」などから無限に湧き出す攻撃的な疑似生命体である。魔物の額には魔術発動の核となる「魔核」が付いている。魔核を手に入れるには魔物を倒す必要がある。
このイース世界の人類は、誕生した時に幾つかは低レベル魔術を持って生まれるものだが稀に高レベルの魔術や魔力レベルを持って生まれる者がいる。
その確率は出生数1000人から10000人に対して1人と極めて低確率なので高レベル魔術保有者はかなりの希少性があるといえる。
こんなことを考え込んでいると太陽が若干傾いていた。地球的な感覚だと1時間ほどじっと立っていたことになる。
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