第26話 女神イースの聖女
【38日目 朝 洞窟】
明日はシリトンの南部方面軍司令部へ向かう。白い砂の盆地にある小魔境での魔物を討伐しながらの魔術や戦闘連携訓練を終えて私たちは小魔境から聖地を経由して洞窟まで戻ってきていた。
「なんか疲れちゃった。神力使い切っちゃったからもう寝たいよ。マイホーム開口部展開! さあ、中に入って休もう」
「アリス様、私はちょっと確かめてみたい魔術がありますので外に居ますね」
「あたしも動物調教を試してみたいので外に居るよ」
「りょーかい。何かあったらマイホームに戻ってね」
マイホーム2層のカウチでゴロ寝しつつうつらうつらする私。開口部は開放してあるので出入り自由だけど、みんな探知使えるし大丈夫でしょう。
昼にはグレタさんが簡単なパスタを作ってくれたのでそれを食べる。ボブ用の生肉は準備出来ていないしハムやベーコンは味付けが強すぎて喰えないので、いつも通りに私の物質創造で作った定番のササミを出してあげる。
夕刻になってもダラダラしていた私はキアラさんに声を掛けられた。
「アリス様、動物調教5ですが、使い方次第では役に立つかも知れません」
「そう?」
「このアンバー高原で比較的多いクロアリを調教してみたけど、動物調教0の強度でも余裕で行けました」
「ふーん。そうなんだね」
「それでですね、何となく感覚的に分かるんですですけど、クロアリ1億匹、同時調教が余裕でできそうです」
「それは凄いね。」
「そうなんですよ。ちょい小型のアリなら多分10億匹行けます」
「鳥だったらどう?」
「大きさにもよるけど、10000匹ってところですかね。因みに大体の空間指定で一括指示できます。なかなかの能力ですよ。例の赤犬クラスなら1000匹目安でしょうか。熊みたいな大型動物は100匹ですね。
そんなに大量の動物がいること無いからそこまでの数は調教は出来ないけど。
「あと複数種類同時指定も可能です。
しかも変な欲望や感情、意思の表示はほぼ伝わって来ず純粋に指示できます。24時間調教も多分余裕です。確認しますけど」
「なるほどー。攻撃力には然程期待出来ないかも知れないけど、複数の鳥を使役できれば索敵や警戒に都合がいいかもだね」
「熊とか犬の大群が出てきても安心だよね。
「取り敢えず、この前アリス様が言っていた展示飛行というのをカラスか鳩でやってみます。同時多数の制御の練習になりますし。デモンストレーションとしても悪くないよね」
【39日目 朝 洞窟】
アンバー高原に籠ってから6日目の朝を迎えた。今日はこの洞窟を出立してシリトンの南部方面軍司令部へ向かう。
ロードナイトにはすでに迎えの馬車が到着しているだろうから、そろそろ行きますか。
朝ご飯を食べてから支度を整えた私達はいつもの縦隊を組んでロードナイトへと走る。
この6日間は小魔境での魔物討伐を利用しての魔術、連携戦闘の確認と訓練。グレタ&キアラ親娘は個別に戦闘訓練。防御用神器の取り扱い訓練。私は防御用神器の練習をするより神技発動の練習が必要と考えて各種神技の発動を確認した。
グレタさんがボブのステータスに新たな称号「亜神(時空)アリスの神獣」が付いている事を教えてくれた。
名前 ボブ
種族 リンクス(女性)
年齢 3 体力F 魔力F
魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5
闇弾5回復5ステータス5
暗視5遠視5隠密5浄化5結界5
探知5魔法防御5念話5飛行5
身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5
睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5
反応速度5防御5
思考強化5調教耐性5
称号 マルチナのペット
亜神(時空)アリスのペット
亜神(時空)アリスの神獣
獣は使徒には成らず神獣に成るという事か。なるほど。
1時間半ほどでロードナイトに到着。居住地内に入りメインストリートを目指す。傭兵組合事務所の前に迎えがいるはず。
迎えの馬車ありました。ビアンコ中尉が手を振ってくれている。こちらからも手を振る。
さあ。シリトンに向かいますかね。
♢♢♢♢
時は少しさかのぼる。
6日前に亜神アリスが聖地でモノリス型神器を作り出し、その仕上がりに満足している頃ー
ロードナイトナイトから北東へおよそ1000km離れたアレキサンドライト帝都の隣。教皇庁大聖堂の最奥。
大聖堂の巫女であり一般的には女神イース様の御使いの「聖女」様と呼ばれることもある女性達。彼女たちはいつものようにその勤めを果たしていた。
「巫女アリアンナ様。先日のレオナルド第2皇子とのお茶会はいかがでしたか? 宮殿の庭園のガゼボでレオナルド様と優雅なひと時。憧れてしまいます」
「巫女ノエミ様。レオナルド様とは小さい子供のころから良く存じ上げておりますので、このように成長して大人になっても気さくに気軽にお話もできるしホッとするひと時ですね。
優雅というか普通の日常の延長という感じですのよ。ほほほ」
「凄く羨ましいです。あたしも良いとこのお坊ちゃんに嫁にしていただいて巫女を続けながらも悠々自適に暮らしたいです。誰か伝手とかないですか? アリアンナ様。
だってあたしは平民出身だから。このまま行くと例え巫女として大事に、重要人物として崇められても結局は質素な生活習慣を守りながら結婚もできず老いていくのよ。こんな夜中にシフトを組んで寝ずの番。ううう。」
「結婚はできるでしょ? 選り好みしなければ」
「選り好みはしたいのよ。好きでもないオジサンを押し付けられたらと思うと。いったいどうやったらソコソコ若くてお金持ってて性格の良い貴族の坊ちゃんとお知り合いになれるのか」
「わかったよ。レオナルド様にも機会があったら聞いてみるからね? 落ち着いて機嫌直してね」
「うん。頼むよ。お願い」
「それにしても、マルチナ皇女殿下はまだジェダイトからお戻りにならない。使節団はジェダイトに拘束されたという噂もあるし。心配だなあ」
「アリアンナはマルチナ様と仲いいからね。
マルチナ様もだけど侍女のグレタさんとキアラちゃんも心配。キアラちゃん困ってないかな。侍女だからって粗末に扱われていなければ良いけど。
レオナルド様や皇帝陛下や皇后殿下もご心配されてるでしょうね。皆んな無事ならいいんだけどー」
その時、神石の輝きが突如大きくなった。
「あれ?こんな事今まで無かったのに?」
「神託だよ、アリアンナ! 先輩に聞いたことある!神託の時は光が強くなるって!」
巫女アリアンナと巫女ノエミは神託を聞き逃さない事が自分たちのミッションであることを思い出して、身を固くして神託が下されるのを待った。
♢♢♢♢♢
翌日の朝。アレキサンドライト教皇庁の最高権力者とも言える教皇聖下は、教皇宮殿に所在する教皇執務室において大聖堂神官長からの報告を受けていた。
ここオプシディアン公国公都に本拠地を置くアレキサンドライト教皇庁。過去も現在においても帝国にとどまらずこのイースリア大陸における宗教的権威の体現者である。
皇帝の居城である帝城に隣接する、日本の皇居にも匹敵する広大な土地を独立国のように独占管理する教皇庁。
かつては世俗的権威は皇帝が保持しつつ教皇庁を保護し教皇庁は宗教面で帝国の運営を支える。その様な車輪の両輪というべき関係の両者であったが帝国皇帝の権威が減退する一方で。
教皇庁は独自の荘園やイースリア大陸各国や中央大陸、西大陸に点在する教皇領からの収入、各国教会組織の管理運営などの権利権益を背景として未だに過去と変わらぬ権勢を保持している。
女神「イース」。それは教皇庁が信仰を捧げる主神であるとともに「実際に存在が確認されている神」でもある。
教義によれば。5000年前にこの世界に降り立った女神イースはレベル5魔術を自在に付与する事ができ、この魔術を付与された人類達の力によってこの世界に蔓延る魔獣や悪魔を次々と滅ぼしてその支配領域を減退させ人類活動領域を現在の様な姿にお広めになったという。
そしてそれはこの世界の各地に伝承や言い伝え又は遺跡としてその痕跡が残っており、その存在を疑うものは殆どいない。
霊廟奥に安置されている女神イースが創造したと云われる光輝く神石。この神石は女神との繋がりがあると言われていて、この近くにいると女神からの神託が実際に下される事がある。
そのため大聖堂では、いつ神託が下される事があっても聞き漏らさぬ様に魔法「神託」を持つ巫女複数名を常に待機させているのである。
事が起こったのは昨日深夜。
突如として2人の巫女は同時に神託を得た。
『アンバー高原ロード?????において???!が降臨した。?????』
魔法「神託」はその発現確率が最高レベルに低い超希少魔法である。大聖堂では「神託」を持つ者を探し出して帝国中からかき集めているものの「神託0」の保有者が僅かに8名。
「神託0」の能力は極めて限定的で、神託の解釈には無視できないノイズが混入してしまっていた。
「教皇聖下、以上のような状況で御座いまして神託の解釈は非常に不完全なのですが、アンバー高原。恐らくロードナイト近郊において「何か」が出現したものと推察されます。直ちに確認する必要があるかと存じます」
「なるほどロードナイトまでは1000キロメルト、早馬を乗り継いでも片道10日はかかる。調査時間を含めると1ヶ月はかかる計算であるな」
「神託の内容は、もしや一刻の猶予もない事態かも知れませぬ。ジェダイト大使に協力を仰いでジェダイト公都神殿への伝達を要請するべきではないかと。彼らの持つ秘匿された高速通信を利用させてもらいましょう」
「それもやむを得ないかも知れぬな。教皇庁から調査官を派遣するとしてもジェダイト公都神殿で調査を先行させておけば、時間の短縮になる訳であるし」
「私もそう考えました。教皇聖下」
「神託であるが、『???!が降臨』の部分は何が降臨だと考えるか、神官長」
「分かりません。降臨というお言葉使いのことですから邪悪なものでは無いと愚考します。教皇聖下はどうお考えですか?」
「同じである。もしかしたら、神の眷属に連なるもの。もしかすると女神イース様にご関係のある神族である可能性も有るのではと考えていた」
「なるほど」
「そうであった場合、その神族におかれては神託を下されるやもしれぬ」
「はい」
「その時に近くに魔法「神託」を持っている者が居らぬと申し訳が立たぬと危惧しておる。
そこで、昨夜神託を受け取った二人ならば間違いなく神のご期待に添えよう」
「添えますね」
「巫女アリアンナ及び巫女ノエミ両聖女にご足労頂こう。ロードナイトに行ってもらおう」
「しかし巫女ノエミは兎も角、巫女アリアンナはレオナルド第二皇子の婚約者候補。そんな遠方のミッションに行かせてよろしいのでしょうか」
「まだ婚約者候補である。それに此度のミッションは女神イース様の神託に答えるもの。この上のない名誉であるしロードナイトにおわすかもしれぬ神族の新たな神託をいただけるかもしれぬ崇高なもの。皇子殿下の婚約者候補としてこの上なく相応しいものである。
故に直ちに準備していただき出立してもらおう」
「どの程度の陣容で行っていただきますか?」
「アリアンナとノエミ両聖女には神官戦士20名を同行させよ。
大聖堂の司祭長から適任者を選定して至急、後追いで出立させよ。調査員の選定は司祭長に任せる。
ジェダイト大使への高速通信協力要請は大聖堂神官長にお願いする。交渉の状況によっては、神託内容全て開示する事も可とする。頼むぞ」
こうして教皇庁大聖堂の巫女こと女神イース様の御使いの「聖女」アリアンナとノエミの二人は、遥か1000キロメルト南西のロードナイト近くのアンバー高原を目指して出立させられたのであった。
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