第31話 暗 殺
【39日目 朝11時 シリトン郊外演習場】
シリトン郊外演習場における実戦演習が行われる時間。朝11時。
亜神アリス外二名と一匹の乗った大型馬車はシリトン演習場内訓練視察台の隣に停車した。公爵軍の軍人さんが馬車から降りるための簡易タラップを設置してくれる。
その様子を見ていたビアンコ中尉が下車の案内をしてくれたので後方出入り口へと向かう。
「お支えします。お手をどうぞ」
ビアンコさんがニッコリ微笑みながら手を支えてくれる。
「ありがとう」
私もニッコリ。こんなんなんぼやっても良いです。
全員馬車から降りると司令官がやって来て視察台に案内してくれる。
「皇女姉君殿下、こちらです。ささ、どうぞ」
視察台の中央に私。
右にグレタ、左にキアラ。
私の右後方に司令官が背後霊のように立って演習内容の説明がなされる。
「右の方から攻撃部隊が左に向かって攻撃しつつ前進しますよ。ほらあれで御座います。
「今攻撃魔法を撃って前進したのが先日皇女姉君殿下の儀仗分隊長を勤めた男ですよ。
「この分隊長はなかなかの漢でありましてね? 先日の儀仗の終了後に分隊員とラッパ隊員達に泣きながら訓示をしてましてーー」
などと割とどうでも良い説明をしてくれる。
左後方にはフィリポ傭兵リーダーが立つ。
ビアンコさんは司令官の更に右にて控えている。
『アリス様、半径50メルトには怪しい生命体反応はありませんね』
『了解、グレタ少佐』
『カラス10羽をシリトン市街地から引っ張って来て周囲を警戒させてるよ。
演習場の中にプレーリードック(50cm位のネズミ)とロードランナー(50cm位の飛ばない鳥)が居るので片っ端から調教して監視させてる』
『うん。ありがとね。キアラ少尉』
上空を見ると成る程、カラスが二羽ずつ編隊を組んで演習場内上空を飛行している。
『ロードランナーってアンバー高原にもチョロチョロしてたけどこの辺にも居るんだね』
『うん、この辺りじゃ有名な鳥らしいよ。南部方面軍のエンブレムにもロードランナーが図案化されているって。南部方面軍の人が言ってたよ。
虫とかトカゲとか小型のネズミとか食べるらしい。人間にとって危険な鳥では無いね』
『ふーん。そうなんだ。
カラスに二羽エレメントで編隊飛行させるのってどうなの。難しいの?』
『難しいかと思ったけど私の頭の中のイメージが伝わるらしくて割と勝手にやってくれるので。難しくは無いかなーー
ーーカラス第3編隊から報告!
正面森に魔物多数! 接近して確認せよ!』
『むむ。演習場内に魔物とは? 近くには魔境は無いよね。どうして』
『カラス第3編隊を接近させたけど大きい奴沢山としか言わない。これが鳥の限界か』
暫くして森の中からトロールが2匹出てきた。
「うえっ、と、トロール! 何でこんな所に。迷宮から氾濫したのか?
副司令官! 直ちに演習中止! 皇女姉君殿下を演習場から離脱させーー
『後ろ警戒!敵多数!!』
『隠蔽障壁展開!後方から攻撃!』
反応速度5を発動、後方を振り向いた私の目の前に恐らく光弾、風弾が大量に迫る。
反応速度5の効果によって周囲は一気に暗くなり音は全く聞こえなくなる。
この状態でも遠視を起動していれば周囲を視認できる。遠視は視覚を通さずに精神構造体にダイレクトに拡大画像イメージを認識させる魔法だからだ。
奇襲対策として「遠視1」「筋力1」「持久力1」「衝撃耐性2」を常用している。遠視が光弾の閃光対策、衝撃耐性が風弾の爆音対策となる。
反応速度5の効果によって主観時間が32倍に引き伸ばされて秒速800メートルの超音速で殺到する攻撃魔法の弾体の速度は秒速25メートル(時速90キロ)に補正される。
グレタ親娘は既に反応速度を起動したのだろう、89式神器の隠蔽障壁を展開し終わり攻撃魔法による反撃を開始していた。
私も89式神器の障壁展開ーーってフィリッポが私の目の前に飛び出してる!邪魔でしょ〜が!
グレタ親娘の隠蔽障壁を擦り抜けた光弾がフィリッポの胸に直撃した!
弾体が貫通しないのは衝撃耐性を持ってるからか。以後はグレタ親娘が私の方に密集隊形で寄ってくれたので攻撃魔法は阻止される。
『念のために障壁展開! あ、傭兵の子達を避けてと。マイホーム開口部展開!これが私たちの最強コンボだね。
あれ、司令官が撃たれて倒れている。風弾の流れ弾が当たったかな?反応速度の効果で音が消滅するから気付かなかったよ』
『アリス様、このフィリッポめと司令官どうしますか? まだ息はある様ですが放置して置くと死ぬかも知れませんね』
『うん。人道的には放置できないね。この人達悪い人じゃ無いしどっちかって言うと割と好きだし。
賊が殺到して来るかもだからマイホームに入れて治療するか。それとビアンコさんもマイホームに押し込もう。ここに置いておくと危ないからね。
『神域干渉 及び 精神構造干渉 睡眠 神域から複写!そしてマルチナ(分身)、グレタさん、キアラさんに転写!』
名前 マルチナ
種族 人(女性)
年齢 15 体力G 魔力F
魔法 水弾5光弾5ステータス5
暗視5遠視5隠密5浄化5
探知5魔法防御5念話5飛行5
睡眠5
身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5
睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5
反応速度5防御5
称号 亜神(時空)の一部となっているマルチナの分身(劣化)
名前 グレタ・アルタムラ
種族 人(女性)
年齢 35 体力G 魔力F
魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5
闇弾5回復5ステータス5
暗視5遠視5隠密5浄化5結界5
探知5魔法防御5念話5飛行5
睡眠5
身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5
睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5
反応速度5防御5
称号 マルチナの侍女頭
亜神(時空)アリスの第1使徒
亜神アリス軍団少佐
名前 キアラ・アルタムラ
種族 人(女性)
年齢 14 体力G 魔力F
魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5
闇弾5回復5ステータス5
暗視5遠視5隠密5浄化5結界5
探知5魔法防御5念話5飛行5
睡眠5動物調教5
身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5
睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5
反応速度5防御5
称号 マルチナの侍女
亜神(時空)アリスの第2使徒
動物の王
亜神アリス軍団少尉
『よし、そしてビアンコさんに睡眠5!
ごめんね。少し寝ててね』
ゆっくり倒れ込むビアンコさんを抱き止めて真っ先にマイホームの中へ。
『グレタ少佐、開口部に入ってビアンコさんを受け取ってベッドに寝かせてくれる?』
引き続いてフィリッポ。
次に司令官。
血が付くけど構わずに開口部へと放り込む。
そして私、キアラ少尉の順で開口部に入る。開口部は既存の「開口部隠蔽用神器」で蓋をする。
隠蔽用神器の仕組みは、敵側から見ると神器は全く視認できず何も無いように背景風景が映し出される。いかなる魔法攻撃や物理攻撃も通さず阻止される。
ただし人体に有害でない光は透過させる。透過させる光の強さの上限ありの安全機能付き。
『キアラ少尉、開口部から監視お願い。賊が来ても睡眠か麻痺で無力化するようにして。
傭兵の子達が来たら馬車の方に行って待機しておくよう伝えて。
あと、賊が馬車の方を襲うようなら魔力の残量に注意して援護してあげて。その時は賊が死んでもしょうがないから。闇弾2〜3辺りで即死させてもOK』
『分かった。何かあったら念話で言うよ』
♢♢
キアラは開口部から隠蔽用神器を通して監視する。
『アリス様ー、監視用開口部を2箇所増設してくださーい』
増設された開口部に隠蔽用神器を被せていく。これで全周の警戒監視が可能になる。
『キアラ少尉、外の障壁消すから気をつけてー』
アリス様からの念話と同時に漆黒の障壁が消滅していき攻撃魔法を放った連中が居るブッシュが見えてきた。賊は? 撤退していくように見えるね。
『カラス第1第2編隊はブッシュ上空で撤退する賊を監視して追跡!
第3第4編隊はトロールを監視
第5編隊は馬車上空で警戒!
プレーリードック隊は各々現在地で警戒監視
ロードランナー隊は各々自由機動で情報収集!』
トロール2匹がこっちに接近している。カラスの報告だとトロールは勝手にバラバラに動いているみたい。この2匹は処分しておくか。
遠視5、反応速度3、闇弾3発射、発射。
2発ともトロールの額を直撃。額を大きく削り取られたトロール達は糸が切れた様に倒れた。89式神器の攻撃魔法アシストは優秀だね。吸い込まれるようにトロールの額に命中する。何のストレスも感じないよ。
闇弾3の弾体威力自体は9ミリ拳銃弾相当なのだが闇の追加効果によって直径8センチメルトの球状空間の物質を消滅させる恐ろしい攻撃だ。こんなの額に貰ったら終わりだよね。
しかしプレーリードック隊が賊の狙撃直前に気付いて報告してくれて良かった。ヨシ。あたしも動物調教も凄く役に立っている。
キアラは動物の王の特殊能力にかなり満足していた。
♢♢
マイホーム第一層のエントランスにフィリッポと司令官を寝かせたアリス。
『どっちから治療するか。フィリッポ傭兵リーダーから行くか。生命体干渉「治癒」!』
上着を捲って傷ついた部位を観察する。弾体の射入口は小さいので大した怪我には見えないが体内を大きく破壊しているはずだ。
光弾だったから閃光が生じたはずだが発光は感じなかった。フィリッポさんの体内で光ったかも知れない。魔法攻撃の弾体は残留しないので問題無いが通常の銃撃なら弾体の摘出も必要な大怪我だ。
しかし神技の「治癒」によって破壊された身体組織は正常な姿に時間が巻き戻るように修復されていく。
治癒の神技は直近の正常であった身体の構造に強制的に変化させる技術であるから在留異物が有ったとしても治癒のプロセスで排出されるはずだ。感染症や後遺症の恐れも無く完全に治してしまう。とんでもない技術である。
『よし、治った。すかさず睡眠5!』
取り敢えず寝ていてもらおう。第二層から降りてきたグレタさんに声を掛ける。
『グレタ少佐、傭兵リーダーをそこの毛布の上に寝かせてもらって良いかな。
では続いて司令官の治療だね。生命体干渉「治癒」!』
司令官の服を捲ると背中に攻撃魔法の射入口があり腹に射出口があって弾体は抜けていた。色々ヤバそうな液体や組織が滲み出ていたが、それらを一切合切巻き戻して怪我は治療された。相変わらず凄い。
『治ったね。続けて睡眠5!』
司令官も毛布の上に寝かせてひと段落。
『キアラ少尉、周りの様子はどうかな』
『賊は既に1キロメルトほどの距離まで離脱してるね。カラス2個編隊で追跡させてるけど、暫く追跡を継続するよ。
ここに接近してきたトロール2匹を闇弾で処分。他のトロールは散り散りになって去っていった。これは追跡をせずに近辺に戻ってきたら対処できるようにこの周辺を警戒させる。
『見たところ怪我人も死亡者も居ないみたい。賊も含めて。アタシたちの攻撃は睡眠と麻痺だけにしてあげたからね。襲撃事件にしては非常に穏便な結果だと思うよ。フィリッポと司令官は完全回復してるし。
あと馬車周りにいる連中の中に襲撃犯の手引きが居るかも知れないと思ったけど分んない。
少なくとも司令官とビアンコ中尉はシロかな。司令官はトロール見てビックリして背後からの流れ弾に当たって死にかけてるし。
『少年傭兵達は視察台の周囲警戒をしてくれてる。何にも指示してないのに。なかなか見所があるかも』
『ふんふん。死者怪我人も居ないと。良いことです。さすが神ともなれば敵とはいえ死んじゃうのは本望では有りませんからね。
魔物や魔獣は別ですよ? アイツらは擬似生命体で心なんか有りませんから。
それにしても動物調教大活躍だったね!最初の頃とは大違いだよ。大化けしたよね。』
『そうそう。カラス、プレーリードック、ロードランナー達があんなに役に立つなんてね。立派なものです♪』
『へへ。プレーリードックが大手柄だったよ。アイツら凄い可愛く見えてきちゃった。やっぱ四足歩行の哺乳類? 良いかも。
カラスとロードランナーは役には立つけど目とか嘴とかコワイからなー。可愛くないしー。悪いけど。』
『さてと。賊は逃走中でトロールは散り散り。いつまでもマイホームに居てもしょうがないから出ようか。出たところで寝かせている3人を起こして宿に帰りましょう』
『あれ? アリス様。馬車の方から見た事ない爺さんがやって来るよ?』
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