第14話 快適な潜伏生活


【13日目 夜 ロードナイト】


 時はロードナイト事件当日に遡る。




『おかーさーん。ジェダイトの人4人無力化したよー! ボブもマイホームに戻ったよ!』



 キアラさんが発する念話の声がハッキリと聞こえた!




 はっ! ここは! 




 上半身を起こすとグレタさんの顔が飛び込んできた。



「アリス様! お目覚めになられましたか!」


「うん。ーそれで今どうなってる?」


「意識を喪失されたアリス様をマイホームに運び込んで第1層開口部をキアラが監視及び防衛。

ボブはたった今マイホームに帰還。

えっとそれから開口部に接近して攻撃魔法を撃ち込もうとしていたジェダイトの奴ら4名をキアラが攻撃魔法を用いて無力化。

彼らの命に別状は無いと思います」



 グレタさんはどこかバツの悪そうな顔で説明してくれた。



「そっか。じゃみんなマイホームに入れているね? よし、マイホーム開口部閉鎖! それから障壁解除!」





 マイホーム開口部が完全に消滅したね。これで安全だ。


 しかし本当に危なかった。敵が最初から我々を殺害するつもりでいたら、全員命が無かった。これだよ。こういうことを懸念していたんだよ。



『キアラさん、ボブ、怪我はない? 確認したいから悪いけど上に来てくれる?』





 直ぐにキアラさんとボブが来てくれて確認する。どこにも怪我は無いようだった。


 あの尋常じゃない爆音と閃光によってどんな影響が出ているか分からないので念のために生命体干渉「治癒」を自分も含めて全員にかけておく。



「みんなごめんね。私がどっちつかずだったからあの時に動けなかった。皆んな死ぬかもしれなかった」



 ボブを抱き寄せ抱きしめて顔をボブの毛皮に押し付ける。いつの間にか身体に震えが来ている。ジワリと涙が溢あふれてくる。






 私は地球で暮らして来た時から恐怖で震えたり泣いた記憶は無かった。


 もちろん命懸けの戦闘行為を実際に行なったことはないから比較にはならない。とは言え違和感は感じる。


 こんなに感情が豊かというか飲み込まれる性格だったかな?





「アリス様、我々アリス様の使徒として使命を十分に果たせなかった、この事を絶対に忘れません。

2度とこのようなことが起こらないようキアラと、如何なる手段を使っても」



 グレタさんは絶句して次の言葉を探している。


 私は、かけるべき言葉も言うべき言葉も出てこないので自分と彼女が落ち着きを取り戻すのを待った。キアラさんは普段通り変化ないな。平常心だ。ふーむ。





 私はこの世界で人類の命を奪う事は避けようと思っていた。


 その理由は地球に戻った時に妻に説明出来ないから。地球に戻るつもり満々だし見通しも立ってるからね。



「異世界で亜神に転生して色々とあったけど地球に帰還出来ました。それに際しては亜神の力で現地人類を殺害して必要があれば大量に殺戮しましたー」



 共感や納得を得ることができるか。そんな事言わなければいいという事もない。言わなければ私の心の中に残り続けて心を蝕んでいくだろうと思う。


 このイース世界に来て。まともに人類と触れ合ったのはグレタ、キアラ親娘だけだが地球人類と何一つ変わらない。


 心の中に居るマルチナさんは会話した事はないが誰よりも身近でお互いに心が通っていると実感する。


 マルチナさんとリンクしてるのかな?私の中のマルチナさんが取り乱している。凄い感傷的。








【14日目 朝 ロードナイト】


 翌朝。いつもと同じ感じの普通に戻っていた。昨日の激しく揺れ動く気持ちは何だったのか。時間を置いてから。後でまた考えてみよう。


 3人で色々と疑問や意見を出してみた。




「ジェダイト公爵軍の7人の強さは平均的兵士のものなのか。ジェダイトの軍人の平均的レベルがあれだったら誰も殺さずマルチナさんを救出できる気がしない。ハッキリ言って強すぎる」


「ジェダイトはマルチナさんをどうするつもりか? マルチナさんは危険なのかそうでないのか」


「ジェダイトは殺害せずに無力化なら良いのでは?」


「ジェダイトの奴等は結果的に殺害されても自業自得である。必要な場合には後顧の憂いを絶つ為に積極的に殱滅するべき。今回は失敗した。目撃者が多過ぎる」


「我々は恐らく広域指名手配されるはず。ジェダイト支配領域では買い物すら出来ないだろう」


「厳しい手配の中でジェダイト公都に移動することが可能なのか。夜間に走破するにしても道が分からない」


「アレキサンドライト帝都に行くことは可能か。どのようなルートが考えられるのか」





 一通り意見を確認後。今後の方針を定めるのは保留にして、この辺境居住地の監視と観察を行うことにした。事件後のジェダイト側の動きを把握したいからね。


 そこで上空20mほどに移動し警戒監視を安全に行えるようにしたい。


 マイホームは開口部を実体化させないと開口部の移動はできない。


 開口部を発見されるリスクを極限するため移動は深夜を予定するから、それまでに開口部隠蔽用の神器を複数作成する。


 開口部は換気と広範囲の警戒監視のためにも複数必要なのだ。


 それまでは物質創造「イース大気」で大気を既存のマイホーム内空気と入れ替えで創り出す。こんな使い方もあるんだね。


 神力の負担がほとんどゼロで素晴らしい。もともと、気体の物質創造は非常に効率が良かった。固体液体に比べて桁外れに密度が低いからだろう。




 隠蔽用神器の仕組みは、敵側から見ると神器は全く視認できず何も無いように背景風景が映し出される。いかなる魔法攻撃や物理攻撃も通さず阻止される。


 ただし人体に有害でない光は透過させる。透過させる光の強さの上限ありの安全機能付き。要するにマイホームの中からは安全に外が見えるということ。


 簡単に言うと破壊不能なマジックミラー(ミラーではなくて背景風景が見えるから透明に見える。かえって分かりにくい?)だね。「障壁」に上記の空間構造特性を埋め込んで固定化した物となる。


 元々、自己防御用神器として作ろうと思っていたけど作る前に近接戦闘をする羽目になったんだよね。









 深夜になってから開口部を直径10cmで展開、直ちに隠蔽用神器を設置。


 神力を注入して開口部を直上に移動させる。概ね1分をかけて10m上空に到達。神力枯渇しないうちに一旦停止する。


 開口部を直径50cmとして視界を確保、隠蔽用神器を開口部から1cmほど離して通気を確保する。


 同様の開口部を3つ追加で作成。これで全周を監視できる。






 あとは3人と一匹でご飯を食べたり、駄弁ったり、居住地区の監視観察を行ったり、暇なので物質創造でリバーシを作って遊んでみたり。


 これって90年前にジェダイト発信で爆発的に流行してアレキサンドライト帝国ではお馴染みの遊びなんだって。何があった。


 今度麻雀作って教えようかな。サンマーになるけど。ボブ出来るようにならないかな。




 次の夜にはマイホーム開口部は高度20mまで達した。







【27日目 午後 ロードナイト】


 あの遭遇戦から14日目となった。私たちは相変わらず監視観察、駄弁り、リバーシやトランプで遊んで、ご飯、スナックとお茶でカウチでごろ寝している。


 この生活、私が地球に帰ってやりたいと思っていたスタイルじゃん。快適快適。天国か。楽園がここにあったか。




 漫画のコミックスも物質創造できた。ただし私が読んでいなくても見かけたことがないと作れない。少年・青年漫画を改めて読み返してみる。


 ふーん。あんまり楽しくないぞ? ストーリー大体覚えてるからかな?


 結婚してからは妻の有朱遥香が持っている少女漫画を見せてもらったところ、意外にも凄く面白かった。


 こんな面白い娯楽がすぐ側にあったのに気が付かなかった! 新大陸を発見したコロンブスのように喜んだものだ。


 そうだ。少女マンガを物質創造で作ろう。今や私は15歳の少女なのだからなんの問題もない。




 お茶は紅茶、緑茶、ウーロン、ジャスミン茶やカモミールなんかのハーブティーまで。知ってる限りのティーバックを物質創造で作って試飲した。


 私はカモミールティーが好きで、個人の主観だけど漢方薬っぽい香り。そして昔子供の時に飲んだドクダミ茶を思い出す味がかなりお気に入りなのだ。紅茶なら林檎フレーバーが好き。


 グレタさんはジャスミンティー。キアラさんは砂糖入れたレモンティーが好みだって。






 一応2人座れる小ぶりのカウチを2個作ったよ。ローテーブルも作った。金属使えないから苦労したけど。



 あと、創造した遊技具はだいたい存在した。全部ジェダイト発信で90年前にね! 当時のことはジェダイトの遊技革命と言われているらしい。





 猫じゃらしと大きめのキャットタワーも作ってみた。まずまず遊べる。



 鳥の羽根タイプの猫じゃらしはボブに一撃で破壊された。


 釣り竿タイプに金属部分を強化繊維に置き換えて作成。


 普段見せない野生のリンクスの一面を見せてグリズリーのように二本足で仁王立ちしながら空中に跳躍。牙と爪を剥き出しにして闘志を表すボブ。怖いんですけど。再び一撃で破壊された。


 しょうがないので魔法で光を生成してレーザーポインター的にネズミっぽい姿で映し出す。


 フルフルと揺れるネズミっぽい光る映像にとてつもない反応速度で弾丸のように飛びつくボブ。多分身体強化を使っている。視認も出来ない。君そんな速度で行動できるなら無敵じゃん。


 だからあの遭遇戦の時に足元に撃ち込まれた光弾風弾を余裕で躱せたんだね? 恐るべし。


 ボブは猫じゃらし遊びが大層気に入ったらしく、しきりとねだるので気が向いたら3人の内の誰かが光生成でしばらく付き合ってやっている。





 この間、新たな居住用球状異空間を追加作成して大きくしている。すでに直径6mに達した。これをもっと大きくすれば訓練用施設になるかな? とか思っている。余裕のある神力は投入していくつもり。









 外部の警戒監視用に何か便利な魔術ないかな〜と考えていると。


 居住地の大通りを彷徨く野犬が目に付いた。コイツ使えるかな? 「動物調教」というのがある。



「グレタさんキアラさん、動物を使役してみない? 動物調教って魔法あるんだけど何か役に立つと思うんだよね」


「動物調教? ちょっと興味あるなー。私にやらせてもらえる?」


「やってくれる? じゃキアラさんに転写するよ?」


「神域干渉 及び 精神構造干渉 動物調教 神域から複写!そしてキアラさんに転写!」



 キアラさんはステータスを暫し確認している。



「アリス様? 動物調教5は取得できましたが、なんか変な称号付いてますよ?」



名前 キアラ・アルタムラ

種族 人(女性) 

年齢 14  体力G  魔力F

魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5

   闇弾5回復5ステータス5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

   動物調教5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5

称号 マルチナの侍女

   亜神(時空)アリスの第2使徒

   動物の王



 キアラさんの称号に「動物の王」が付いてる! なんか凄い。称号が付くなんて動物調教は何か特別な魔法なのかもしれない。



「なんかカッコいいね。『動物の王』か。動物の王国を作れるほどの能力なのかな?」


「じゃあそこの赤犬を調教してみるよアリス様。えーと、あ、これか。動物調教5そこの赤犬! 出来ましたね」


「あの赤犬。キアラさんのいうこと聞きそう?」


「どうだろう。色々と試してみますよ。出来ることが大体わかったら報告しますよアリス様」




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