第15話 動物の王


【28日目 午後 ロードナイト】


 あの遭遇戦から15日目



「アリス様、昨日からジェダイトの連中の居住地の内外の巡回がなくなってますね。

それから、この居住地を経由してアンバー高原で活動しているらしき部隊が帰還を始めているような気がします。アンバー高原から戻る部隊ばかりで出立する部隊がありません」



 そういえばなんか少ないな、とは思ってたんだよね。


 いよいよ諦めたかな? しかし途方もない規模の作戦行動だったよね。アンバー高原に向かう部隊の列が途切れることが無かったからね。どんだけ大がかりな対応なんだか。女3人に。


 もし事件対応が終結したのなら、もうちょっと様子を見てジェダイト側の事件対応終了なら次の行動に移れるね。



「しばらくの間、彼らの活動を注視してみましょう。

ま、楽な気持ちで片手間で時々チェックすれば十分と思いますよ。昨日から検証をしているキアラさんの『動物調教』が役に立つようなら更に楽になりますからね。

マイホームは絶対的不可侵領域、安全安心は確保されています。

大船に乗ったつもりで監視していきましょう」





♢♢





 キアラさんがやって来た。


「アリス様、動物調教の効果一応分かりました。

えっとですね。まず念話的なリンクがあって、かなり鮮明に指示を出したり動物側から意思の表示があります。

あの赤犬からは四六時中、喉が渇いた、腹減った、交尾したいとロクな意思の表示がありません。

検証がだいたい終わったから調教はカットしてやりました」


「なるほど。それは大変だったね」


「動物に対する指示は絶対ですね。何かを我慢させたり、やりたくないことをやらせたり100パーセント強制できます。

でも嫌がっている気持ちは垂れ流されるから不快です。欲望や感情も垂れ流しなので気持ち悪いです。


「動物とのリンクは1キロメルトほどはつながっていて視線が通ってなくて動物が視認できなくても大丈夫。あと動物との視界、聴覚など感覚の共有はありません。


「リンク範囲外に出て行っても調教の効果は続いてあらかじめ指示した行動はとり続けるけど指示事項以外は勝手に自立行動するから指示を工夫しないと簡単に行方不明になってしまいそうです」



 なるほど。動物調教を役に立てようと思えばかなり慣熟する必要がありそうだね。


 あるいは特定の個体を手なずけて私の神技で思考能力を強化するくらいじゃないと役に立たないかもしれないね。


 でも、一過性の動物調教の対象に能力を転写で付与するのは気が進まないんだよね。動物って管理しきれない感じがするから。


 転写で能力付与するなら今後とも一緒に行動するか何処かで安全に迷惑かけずに余生を送れる場所を確保するとかじゃないと無理かなあ。



「キアラさん、嫌だったら動物調教は削除できるよ。どうしたい?」


「ええーもう少し。なにか有効に活用できないか別の犬とか猫、馬、牛、豚、栗鼠、鳥、トカゲ、カエル、魚、昆虫とか? 試してみるよ。


あとですね、この動物調教。ボブにも使えそうです。好ましくない人物にボブを支配されないようになにかできませんかアリス様?」


「む、それはヤバいですね。えーと調教耐性ありました。これボブに入れておきましょう。


「入れました。ありがとうキアラさん、気付いてくれて」



名前 ボブ 

種族 リンクス(女性) 

年齢 3  体力F  魔力F

魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5

   闇弾5回復5ステータス5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5

   思考強化5調教耐性5

称号 マルチナのペット

   亜神(時空)アリスのペット



 しかしキアラさんすごく研究熱心だね。昆虫とか動物カテゴリなんだね。


 そういえば地球にいるときにカエル以下の魚、昆虫には心がなくて予め決められた行動を状況に応じて発動する生体機械だって誰かが言ってたような気がする。


 確かに奴らの目玉はガラス玉のように存在するだけで見つめても何の感情も湧かないからね。特に昆虫。奴らに高度な知能があったら逆に怖いよ。



『あ、アリス様、カラス調教してみました。あー早く指示しないと遠くに行ってしまう。コラー!こっち来い!』





♢♢





 私の中のマルチナさんと話が出来ないか。あれこれ考えたり試してみたけど。どうも会話することはできないみたい。


 ただし私の神の能力で感覚的に分かるのは私の中のマルチナさんと捕縛されているマルチナさんが細いラインで繋がっているということ。


 私が1年後に地球に分身を作り出した時の本体と繋がるラインの千分の一から一万分の一ほどの細さ。蜘蛛の糸のような細さでギリギリ繋がっている。何しろ私の中のマルチナさんは分身(劣化)だからなー。下手に手を出してラインが切れたら困るし静観かなー。


 それでも捕縛されたマルチナさんが酷い目に遭って無さそうなのは感じ取れる。私達のことを心配している。もうちょっと具体的にハッキリとしたことを感じ取れるといいんだけどね。





 とか考えながら私の一部となっているマルチナさんの分身。この身体のことだけど。


 記憶や備わっている能力なんかをサーっと流し見していた時。こんなのがあった!




 「アース日本 読み書き会話(簡略版)」

 「アース日本 一般常識(超簡略版)」

 「アース日本 数学知識(超簡略版)」

 「アース日本 科学知識(超簡略版)」

 「アース日本 軍事知識(超簡略版)」




 イースに転生した時に一通りチェックしたがこんなのは無かった。想像するに。


 マルチナさんの分身が私の一部となったことによって私の言語能力や知識の一部が時間をかけてマルチナさんに染み出していったのだろう。


 もしかするとこれは物凄ーく便利なのでは? キアラさんは第1階層で動物の調教実験に没頭しているのでここには居ない。



「グレタさん。ちょっといい?」


「はい、なんですか?」



 ニッコリしながらこちらを向いてくれる。ニッコリっていいよね。私もニッコリし返すとさらにニッコリしてくれた。しばらくお互いにニッコリを発動し合ったが用事があるのだった。



「私が昨日から物質創造で作っている絵が描いてある本とか。読んでみたいですか? 

たぶん読めるようにできる知識を転写できるんですけど。

前にも説明したアースの私が住んでいた国の言葉で書いてある娯楽用のお話なんですけどね。

で、この本はですね。テレビドラマ化されたお話の原作なんですけどね? 概ね20代30代の女性に大ウケー  」


「転写してください! 今すぐにお願いします! アリス様ばっかり楽しそうに読んでて。読もうとしても文字が分かんないから無理だったのです。ああ。これでこの潜伏生活に潤いが。今すぐ転写してください」


「はいはい。直ぐに転写しますよ」



ーー『アース日本 読み書き会話(簡略版)』

  『アース日本 一般常識(超簡略版)』

  『アース日本 数学知識(超簡略版)』

  『アース日本 科学知識(超簡略版)』

  『アース日本 軍事知識(超簡略版)』



 マルチナさんの分身からグレタさんへ転写!ーー



「転写終わりましたよ。試しにこれを読んでみます?」



 グレタさんはテレビドラマ化されたお話の原作マンガの一巻を丁寧に受け取ると表紙をジッと見つめる。ページを捲って1ページ目、2ページ目、3、4、とゆっくりと進む。



「アリス様。読めますね。凄く不思議な感覚です。初めて見る知らなかった言葉の文字なのに分かります。マンガの読み方も身についてますね。

アースの日本に行ったこともないのに「大学生」とか「会社員」という存在。全く違和感なく理解できてます。凄く便利です。

ありがとうございます。ちょっと一通り読んでみたいのでいいですか? すいません」



 グレタさんはスッと立ち上がってジャスミンティーを淹れて戻ってくるとカウチに深々と座り込んだ。





♢♢





 結局官舎に置いてあった妻の有朱遥香が持っていた少女・女性マンガ蔵書を全て物質創造して作業テーブルの上に山積みにしておいた。




 カラス調教にひと段落ついたキアラさんにも日本に関する簡略知識を転写した。


 キアラさんには、「これとこれが読みたい」と指定されたので作ってあげた。


 転写した「アース日本一般常識(超簡略版)」の中には私の個人的嗜好が反映されているようで所々にブックマーク的なものが付いているらしい。キアラさんはマンガの中でブックマークが一番目立ってたこの2作品を選んだんだって。


 ? てことは、この二人に私の趣味嗜好モロバレってことじゃーん!





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