第24話 小魔境(1)

【34日目 朝 聖地】


 モノリス型神器を作った翌日。すでに朝食は食べて終わっている。シリトンへ戻る予定の5日後まで何をして過ごそうかな?




「グレタさん、キアラさん、この5日間何します? 結構余裕はあると思うので色々できると思うけど」


「そうですねえ。南部方面軍のビアンコ中尉が言ってましたけどロードナイトから60キロルほど南に行くと小魔境があるようです。そこへ行ってみませんか?」


「小魔境か。そういや倒したことある魔物ってホーンラビットってやつだけだね。弱そうなやつだった」


「行くとなるとここから概ね南に30キロルというところだと思うので走れば2時間くらいで行けます。魔術の発動や戦闘連携の演練を兼ねて魔物狩りをしてみるのも宜しいかと。


「何しろ私たちは突然レベル5魔術を与えられて満足な訓練もできないうちにあの遭遇戦に突入してしまいました。

あの時に躊躇なく『反応速度』を発動できていれば行動加速の効果を得て楽に対処できたと思うのです」


「そうだね。行ってみる? 30キロル程度なら日帰り出来るっていうかマイホームがあるからその小魔境の近くでキャンプできるね。

キアラさんはどう?魔物狩りに行っても大丈夫?」


「うんうん。いいよ。行こうよ。お母さんの言うとおりだと思うし」




 モノリス型神器のある場所を我々は「聖地」と呼ぶことにした。折角あんな頑丈でデカいランドマークを作ったんだから名前が無いと不便だしね。


 グレタさんからは「他にどんな呼び方があるというのですか。聖地しかありえません」って言われたし。私の中の神格も聖地押しのようなので。


 我々3人と一匹は先頭グレタ、真ん中私、殿にキアラ(ボブ抱っこ)という縦隊を組んで一路南へ。




 走りながらグレタさんと念話で会話する。



『魔境と小魔境、それから迷宮って何が違うの?』


『魔境と小魔境は発生する魔物の脅威度で分けるようです。小魔境はレベル2魔術までを使ってくる魔物がいるって感じですね。レベル3以上が出てくると魔境と呼ぶみたいです。


『それとレベル5魔術以上を使う魔物のことを魔獣って言います。恐ろしい存在ですよ。人類は太刀打ちできないって言われています。

そんな魔獣が大量に巣くっている魔境はあちこちにあります。ただ、魔獣は自分たちの支配領域からは滅多に出てこないんですよね。魔物、特に弱い魔物はフラフラと出歩くようです。


『魔物や魔獣って物を食べないんですよ。奴らは魔境の深部から突如現れるそうです。それは小魔境の弱い魔物も突然現れるから魔獣も同じだと考えられているらしいです。魔獣が発生する瞬間を見た人は多分居ないんでしょうね』


『そうなんだ』


『迷宮は異空間だと言われています。迷宮の中には外から穴を掘っても入り込めず、まるで迷宮が存在しないかのように行き当たることもないそうです。アリス様のマイホームみたいですね』


『へえ』


『迷宮には最奥に迷宮の管理者。ダンジョンマスターがいて、それを倒すと代わりに迷宮の管理者になれるそうですよ。アリス様なら楽勝で迷宮を踏破できますね』


『それはどうかなあ。ははは。出来ちゃうかも知れないね』


『迷宮に居る魔物はレベル4魔術までしか使わないそうです。だから魔境のほうが厄介ということになりますね。

あと迷宮からは偶に魔物が溢れ出てくることがあってダンジョンスタンピードって言うらしいです。これはダンジョンマスターが魔物に「外へ出て暴れろ」って指示するからだと言われていますね』





 一時間半ほど走ると。盆地のような地形が現れる。一面に白い砂が広がっている。


 気候的には変化した感じはないので単に盆地に白い砂が堆積している地形なのだろう。ただ、遥か遠くまで果てしなく続くので広大ではあるね。小魔境というのにデカいとは。



『アリス様、恐らくここからが小魔境だと思います。ビアンコ中尉が白い砂の盆地が小魔境って言ってましたので。

この小魔境にはサンドラットという体長1メルト程の真っ白いネズミ型魔物と鎧トカゲという、これまた真っ白で硬い鎧のような鱗でおおわれた体長2メルト程のオオトカゲが出てきます』


『お母さん、そいつら手強いの?』


『見たことないので分からないですけどサンドラットは土弾1を使ってくるようです。

鎧トカゲは風弾2そして防御1と魔法防御2を使うそうです。身体も大きいし風弾2も厄介ですから、こちらを注意ですね』


『よし、それじゃ始めますか。この縦隊を横隊に変更して、ゆっくりと索敵しましょう。

発見したら反応速度3程度を使って行動加速します。攻撃は敵の耐久性がわからないので、レベル5魔術で行きましょう。

発見次第その人が撃破で。一応、念話で状況を常に共有しながら。攻撃が外れたら直ぐに打てる人が撃っていきましょう』


『あと、念のため魔法防御と防御も使いましょう。獲物発見時にレベル2で』


『了解!!』



 魔法防御は敵の攻撃魔法レベルを魔法防御レベル分下げるという効果がある。鎧トカゲが風弾2を撃つなら魔法防御2でほぼ無効化出来る。


 防御については加えられる物理攻撃の効果を減ずる効果。防御1で2分の1、防御2で4分の1、防御3で8分の1と、レベルに応じて半分になっていく。防御5で32分の1となる。


 発動した時の待機魔力消費は反応速度などの燃費悪い系より128分の1と軽いけど攻撃魔法を減衰させた時にはその攻撃魔法を発動するのと同等の魔力を消費する。


 探知、遠視、暗視は燃費悪い系の1024分の1の消費で常時発動だと170分で魔力を使い切ってしまう計算だ。常時発動は出来ない。


 反応速度は行動加速を可能とする身体強化。発動者の思考や神経系及び筋肉動作などの生化学反応速度を加速する魔術である。


 この魔術の燃費は非常に悪い。私の場合は反応速度5を発動すると主観時間320秒で全魔力を使い切ってしまう。反応速度5の行動加速は32倍なので実際の時間にすると僅か10秒。


 反応速度4なら行動加速16倍。私の主観的には時間640秒間は使える。



    加速倍率 アリス主観持続時間

反応速度5 32   320秒

反応速度4 16   640秒

反応速度3  8  1280秒

反応速度2  4  2560秒

反応速度1  2  5120秒



 このように燃費が悪いので反応速度5とか4は、ここぞと言う時に使う魔術だ。


 攻撃魔法の燃費は私アリスの場合は


レベル5 最大MPの4%

レベル4 最大MPの2%

レベル3 最大MPの1%

レベル2 最大MPの0.5%

レベル1 最大MPの0.25%

レベル0 最大MPの0.125%





 ただただ一面の白い砂。サンドラットや鎧トカゲは砂と保護色になっているので肉眼で発見するのは難しい。


 しかし私たちには「探知」がある。レベル5だと概ね半径50mを索敵できる。恐らく生命力と魔力の両方を探知できるはず。


 探知の方向をペンシルビームのように直径5°ほどの円錐コーン状に絞ればギリギリ100m先まで探知可能だ。ただこれは精神にかなり負担なので常時行う訳にはいかない。







『キアラが検知! 種類不明、10時の方向50メルト。魔法防御4、防御4、反応速度3発動。発見次第、火弾5を発射します』


 キアラさんがボブを放り出して臨戦態勢に入る。ボブは私の胸に飛び付いてくる。戦闘に参加する気は無いようだ。


 10時の方向へ進む。もし砂の中に潜んでいても検知出来るとは思うけど確かめてないから絶対ではない。


 初見の魔物だからどんな奴かいまいち分からない。怖い。人間、知らない事は恐ろしく感じるものなんだね。



『火弾5!』



 弾体が破裂音とともに超音速で。恐らく100分の1秒内で着弾。対戦車ロケットの成型炸薬(HEAT)弾頭が炸裂した様な光り輝く火焔が発生した。


 ヤバイ威力だ。風弾、光弾の属性効果も恐ろしいが、火弾は洒落にならない。こんなのもらったら即死する。敵対組織がこんなの持ってたらどうしようか。



『反応消滅、撃破しました。確認します』

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