第37話 ビアンコ男爵家(1)



【39日目 午後3時頃 シリトン市街地】


 サーラ・ビアンコはシリトン市街地を早足で歩いていた。



 シリトンの街は広大な敷地を有するシリトン領主館を中心に領館の南に領軍司令部と駐屯地。その西に南部方面軍司令部。更に西に歓楽街や商業地域がある。


 領軍司令部の東に領主館とほぼ同じ面積で陪臣達の屋敷街が広がる。郊外の大演習場は更に東だ。


 商業地域に位置するアリスの宿泊場所。高級宿屋「高目」から大通りを南方軍司令部そして領軍司令部と抜けて陪臣達の屋敷街に向かっているところだ。




 サーラは今日のたった1日に起こった幸運に心が踊っていた。サーラの生まれたビアンコ男爵家はシリトン領主家の傍流であるものの歴代家老を輩出する名家でサーラの父親も現領主シリトン子爵の家老を務めている。


 そのような有力な家の長女でありながらサーラは軽く扱われていた。サーラの母親が平民出身で妾だったからである。




 サーラを含めて女子ばかり3名を産んだ母親は既に他界しておりサーラ達三姉妹は後ろ盾になってくれる人も無く、身を寄せ合って生きてきた。


 良い縁談も期待できないため軍人を目指した結果。コネと好き嫌いと男尊女卑が罷り通る領軍には入隊出来なかったけど公国南部方面軍で採用してもらえた。


 公国軍は90年前から大改革されて極めて合理的で効率的な男女差別が驚くほど少ない軍隊となったと聞いている。サーラはその事にも感謝し運が良いと思っていた。そして今日舞い込んだ特大の幸運。




 年の三つ離れた18歳の妹。16歳の一番下の妹。この子達はサーラと同じく南部方面軍入隊を目指している。だったら入隊先が亜神アリス軍団でも良いはずだ。この二人を何としても亜神アリス様の使徒にしたい。




 当たり前だよね。


 サーラはステータスを見る。今日に何回見たか分からない。でも何度見てもいい。感動する。




名前 サーラ・ビアンコ 

種族 人(女性) 

年齢 21  体力G  魔力F

魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5

   闇弾5回復5睡眠5ステータス5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

   神託5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5

称号 ビアンコ男爵家長女

   ジェダイト公国軍中尉

   亜神(時空)アリスの第3使徒

   亜神アリス軍団中尉




 驚くべきステータス。人類でこのステータスなら最強のはずだ。もちろん第1使徒グレタさんや第2使徒キアラちゃんには勝てないかもしれないがそんな事は問題ではない。


 このステータスなら迷宮だって踏破してダンジョンマスターになれるだろう。大概の魔境も討伐できるはずだ。


 誰にも頼らず誇りを持って生きていける。そういう力だ。これこそサーラが軍人を目指した理由の究極の形。


 しかも亜神(時空)アリス様の使徒!


 本当に運がいい。神が何人いるかは知らないけど、あの可愛くてフレンドリーで優しいアリス様の使徒なんだから! 本当に嬉しい。考えるだけで身体が震える。


 思えばアリス様は最初から好意的で目をかけてくれたな。いきなり飴ちゃんくれたしね。




 おっと、実家に着いちゃった。午後の3時ごろだけどあの子達いるかな?




 ビアンコ家は地球の日本で言えば小学校くらいの広大な敷地を持つ大邸宅だ。中には室内道場や屋外訓練場、弓の射撃場などがあって武術の訓練には事欠かない。縁戚の子弟も多数訓練に顔を見せる。

 さっそく玄関を入って妹達の部屋に向かう。




 あちゃー。嫌な奴にかち合ってしまった。




「サーラじゃないか。早く南方軍を辞めて嫁入り修行をしないとダメじゃないか」



 コイツは私の父親の妹の息子。ビアンコ家と同格の男爵家に嫁いだ叔母の長男。私と同じ21歳で従兄弟だが小さい頃から事あるごとに私に絡んでくる嫌な奴だ。


 私の事が好きなのだが素直じゃないから「妾の子のくせに」などと散々に私をいじめてきた。大きくなってそこは改まったが、いじめられた怨みは忘れない。お前は許さん。謝ってもこないし。



「パオロか。南部方面軍では認められて日々楽しく勤めさせてもらってるよ。悪いけどちょっと急ぐからまた今度ね」


「そんな冷たくしないでよ。今度ね君との婚約の話が本格的に進みそうなんだよ。僕の父上と君の父上で近いうちに婚約させようって事になったようだよ」



「え。それは初耳だよ」


「そりゃ軍に行きっぱなしで実家に戻らないからじゃないの。君の父上もいよいよ焦ってきたみたいだよ。早く結婚して欲しいんだろうね。僕も嬉しいよ。僕らは上手くやっていけると思うからね」



「話は分かったよ。父上にも話は聞くから。じゃあね」




 ふむ。私たち姉妹の事をあんまり考えてくれない父上がどうしたのか。パオロの父親と取引でもしたのだろうか。


 まあその事は後で良い。私はもはや亜神アリス様の使徒なのだから今までの私とは違うのだ。妹達の勧誘のがはるかに重要なのだ。






 エミリーの部屋の前に着いた。屋敷の隅の隅。使用人区画だ。私達姉妹の扱いの軽さが分かる。ラウラの部屋とは隣り合っている。



「エミリー、居るかい?サーラお姉ちゃんだよ」



部屋の中でゴソゴソと音がする。



「サーラお姉ちゃん?」


「うん。サーラだよ。お姉ちゃんだよ」



ガラリと引き戸が開いてエミリーが出てくるのをゆっくりと抱き止める。



「ふふ。エミリー久しぶり。元気だった?何か困った事はない?サーラお姉ちゃんに何でも言ってね」



エミリーを抱きしめながら話しかける。



「うん。エミリーは大丈夫だよ。今年には南部方面軍の採用試験を受けるから合格したらお姉ちゃんと一緒に住めるかな?

この家は嫌いじゃないけどずっとは住めないからね。ラウラも軍に入ってくれれば3人で暮らせるようになれるだろうから頑張って合格するよ」


「エミリーは頑張り屋さんだからね。きっと合格だと思うけど、その事と関係して大事な話があるんだ。ラウラいるかな。一緒に話ししたいんだけど」


「いると思うよ。呼んでくるよ」


「お願い」




ラウラとも再会の喜びを分かち合った後、エミリーの部屋に入っていく。




「ごめんねお姉ちゃん。狭くて窮屈で」


「全然問題ないよ。昔っからこの狭い部屋で3人でお話し一杯したじゃん。あ、水で良かったら私が出してあげる。コップも持ってきてるからね」


「お姉ちゃん水出せるようになったの?」


「ふふふ。ラウラ。出せるようになったのよ。その事も後で話すね。ささ、このコップを一つずつ持ってねー。どう?こんなの見た事ないでしょう」



PET製コップを渡された二人はジッとコップを見る。



「見た事ない。重さが全く無いみたいに軽いよ。これに水を入れられるの?」


「これはね。二人ともよく聞いて。こことは違う世界の物なんだよ。

私が今お仕えしている異世界の時空神アリス様がお造りになったPETコップって言うの」


「え それは 冗談 ではなくて?」


「エミリー。ほんとの話なんだ。一旦コップを脇に置いてくれる?

この魔核を持って欲しいの」



 私はアリス様から預かった魔核をエミリーに渡す。魔法「ステータス」で魔核のステータスを見る事ができる。渡した魔核のステータスはこれだ!




名前 ー

種族 神造擬似魔核

年齢 0  体力 ー 魔力 ー

魔法 神託5念話5ステータス5

称号 亜神(時空)アリスの創造物

   この擬似魔核で一回魔術が使える

   一回の使用で擬似魔核は崩壊する

   一回の使用で確実に魔術を習得する


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