第56話 特殊神器


【220日目 アレキサンドライト皇宮迎賓館 午前10時】



 女神イースとの週に1回の定例ミーティングを終えてグレタさんキアラさんと話をしている。



「アリス様、女神イースによると中央大陸にも着々と信者のネットワークが広がっていて今では竜の信者はほとんど見かけないそうですね」


「そうらしいねグレタさん。非常に良い傾向です。この調子で竜の信者を根絶やしにして欲しいですね。

話は変わりますけどコツコツと作ってきた特殊神器の数が揃ったからそろそろ効果の確認をする必要があると思ってるんだよね」


「あの〜。 ここ3ヶ月ほどアリス様がずーっと作っている怪しげな物が特殊神器ですか。それって何なんですか? 

マイホームの中の特別ルームにたくさん転がってますけど。神器の燭台でも大量生産してお金を稼ぐつもりかなって皆んな話してますよ?」




「これはね。エネルギー操作を使った神器であることには違いないんだけどね。

例えばこの直径5センチメルトの球体ね。これには私の1日分の神力を費やしてエネルギー操作を行なってね? この球状障壁の中に神域から取り出したエネルギーを封印してあるのです」



 グレタさんキアラさんは私の右掌にチョコンと置かれた漆黒の球体神器をマジマジと見つめる。



「私の元の世界であるアースの言い方で言うと、TNT爆薬換算500トン相当のエネルギー。作動させる時は私の神力操作によって障壁が一瞬で消滅するからその瞬間に大爆発を起こします」


「それってどんな程度なの?」




「これがうまくピンとくる説明ができるかどうか。

ここでこの神器を作動させたら。直径100メルト、深さ40メルトの巨大なクレーターができてね? この宮殿は跡形もなく吹っ飛ぶだろうね。宮殿にいる人で生き残れる人はたぶん居ないでしょう。どう? ピンとくる?」


「ええ、そんな? かなりピンと来たと思うよ? 超怖いんですけど。

そんなのが20個くらい転がってますけど。

そして、更に怪しげなスイカくらいの大きさのもありますけど。大丈夫なんでしょうか?」





 この宮殿は地球の日本にある皇居の東御苑ほどの敷地がある環濠を施された平城である。


 この直径5cmの球体神器。W54型神器と名付けたけどキアラさんに説明したような威力は出る。


 作動させた瞬間に直径20〜50m程度の、数百万度に白熱した光輝くファイアーボールが出現するだろう。




 かつて米軍が使用していた小型核爆弾W54。プルトニウムを用いた核分裂弾頭で核出力は可変型10〜250トン。


 かつては特殊作戦用のスーツケース型核爆弾として実戦配備されていた。これの2発分の威力である。


 2020年8月にベイルート港で発生した大爆発に匹敵する威力と言えば分かりやすいか。ベイルートの大爆発は核爆発ではなくて保管されていた硝酸アンモニウム2750トンの杜撰な管理による引火が原因だったんだけど。




「私が神力操作しない限り決して作動しない。たぶん。私より上位存在の神がプロテクトを外して乗っ取らない限りね。

ま、そんな悪意ある存在がいたらそんな面倒なことしないでいきなり我々を消滅させるだろうから。気に病む必要はないと思うよ。



「ちなみにスイカぐらいあるヤツは40倍のエネルギーを封じてある。だから作るのに40日もかかっちゃった。

爆発した時の影響範囲は3倍くらいかなあ。直径300メルトのクレーター?」



 500トンの40倍。TNT爆薬換算20キロトンのタイプはトリニティサイト型神器と名付けた。


 ニューメキシコ州にある合衆国陸軍ホワイトサンズ・ミサイルレンジ内にあるトリニティサイト。アース世界で最初の爆縮型プルトニウム原子爆弾の爆発実験が行われた場所グラウンドゼロである。





「やばいですね。こんなの誰がどうやって作動させるんですか? アリス様だってそんなに遠くのものを神力操作できないでしょう? 巻き込まれて死んじゃいますよ?」


「そうなんですよ! さすがグレタさんです! そこが大問題でね。

アース世界でも同様の兵器をどうやって運搬するかが課題だったんですよ。

ホントは神技のベクトル操作で宇宙空間に打ち出して中央大陸の竜の盆地に弾道弾、もしくは巡航ミサイルとして送り込みたいんだけどね?

生憎私は遠隔地を感知把握したり遠隔地で神力操作する能力がないから弾道弾を制御出来ないんですよ。闇雲に打ち出すわけにもいかないからね?」




「何言ってるか分かんないけど、要するに出来ないってことかな。じゃどうするのアリス様」


「そこでキアラさんの「動物の王」の出番です。

強化カラス2個飛行隊くらいでこのW54型神器もしくはトリニティサイト型神器を必要数運搬&護衛させます。

で、隠密と筋力と反応速度をレベル5くらいで発動しつつ竜たちの足元に神器を転がして全速で5キロメルトほど退避します。1から2分間くらいの遅延制御は可能なのでこれならイケるでしょう。

強化カラスが神器を抱えたまま自爆攻撃の方が安全確実だけどカラス君たちが可哀想だからね」


「なるほど。そうだね、カラスどもに自爆攻撃を指示したら調教されたカラスってマスターの思考イメージが伝わるらしくて指示には従うだろうけど泣き叫んで大変だろうね。

アタシは意思の表示が届かない遠隔地にいるけどアリス様は神託で繋がってるから吐き気がするほどの恐怖と恨みをぶつけてきますよ? 嫌だ嫌だ」


「飛行型である程度知恵のある魔物がいたら魔物調教でドローン化して自爆攻撃できるかもだけど魔物に神託使えるか分かんないし。

そんな都合のいい飛行型の魔物のアテも無いしねえ」


「半年前のアンバー高原の北東部にあった悪魔の魔境! アソコなら居るんじゃない? 実際に人型のデーモンとアークデーモンは飛行出来たよ?」


「うん。飛行型の魔物はアイツらとかアイツら以外にも居るかもしれないけど探し出して役に立つか試験とかするのが面倒だなって。アイツら気持ち悪いし連れ歩きたくないし。

それにあの悪魔の魔境こそ別の目的で使おうと思ってて」


「どのような目的ですか?アリス様」


「このW54型とトリニティサイト型の爆発実験だよ。

あそこの魔境の主である『大悪魔タンニーン』は竜タイプの大悪魔。あのガマガエルみたいな上位悪魔が言ってたように恐らくは火竜アエロステオンや闇竜タタウイネアに匹敵する化け物。この大悪魔に通用すれば一安心かな?」


「ええー さっきのお話だったら通用するに決まってますよ。この宮殿が跡形もなく吹っ飛ぶんでしょ? 

しかもその神器の発動って神技であって魔法じゃないよね。だったらいくら強力な魔法防御を持ってても効果ないですよね?」





 魔法によって実体化する熱などは魔法防御による魔法効果の減衰が有効なのでキアラさんの言うとおりだ。


 しかも神器が蓄えたエネルギーは物理的な実体を持っている。この点で本物の核爆発と違いがない。


 放射性物質の残留物はほぼ無いのでクリーンと言えるけど爆発の瞬間には大量のX線などの有害電磁波とか放射線は発生すると思うので危険であることに変わりはない。


 神器が爆発したあとに発生する核種がもしあれば放射性物質が残留する可能性はあるかもしれない。分かんないけど。





「そう思うけど想定した破壊力が出るか確認したいからさ。何事も事前に試さずにぶっつけ本番という訳にはいかいないよ。カラスとの連携も試さないとだし」



 グレタさんキアラさんが頷きあった。



「そうだね。大事だわ。ロードナイトの戦闘で思い知ったからね。確認しよう。早めのほうがいいよね。

私とお母さんアリス様の3人なら今すぐ行けるよ。距離は300キロメルトくらいだから急げば一週間で行って帰ってこれるよ」


「そうだね。だけど念のためにサーラさんとエミリーさんも連れて行こう。

ラウラさんはマルチナに張り付いて離れないようにしてもらった上でフィリッポ曹長以下4人に警護してもらおう。

ホントは連れて行きたいけど皇女様だからしょうがない。涙を呑んでの妥協です。なんかあったら速攻で神楽での瞬間移動です」


「では私がサーラさん姉妹とフィリッポめに事情を説明して明日の朝には出発できるようにしておきます。お任せください」


「じゃ私は御所に行ってマルチナと駄弁ってくるかな。キアラさんも行く? 明日出発したら一週間会えないよ?」


「うんアタシも行くよ。じゃ早速行こうよ」



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