第6話 洞窟を目指して
【10日目 夜7時頃】
名前 ボブ
種族 リンクス(女性)
年齢 3 体力F 魔力F
魔法 暗視1
身体強化 筋力1跳躍1
称号 マルチナのペット
私は山猫のボブの隣にしゃがみ込んでボブがササミを食べ終わるのを待っている。
これはどういうことだろうか?
マルチナさんのペットがここで大怪我をして死にかけていた。そんな偶然あるのかな。
とはいえ私はマルチナさんの体の複製を依り代として与えられた。となるとマルチナさんのいた場所と私の転生場所がごく近くであったとしても不思議はない。
私の亜神(時空)化にどれだけ時間がかかったかは分からないが無限の過去から存在するという全知全能とも言うべきあの時空神のことである。さほど時間をかけず一瞬の作業であったと考えるのが妥当か。
10日前に私がここから南方5キロ程の地点に出現した時。マルチナさんが近くに居てその時は元気だった。
その10日後の今日にマルチナさんのペット山猫ボブが重傷を負って死にかけていた。
この10日間でマルチナさんが危険な事件に巻き込まれた可能性があるな。心配だな。
チラリと山猫のボブを見る。
ボブは鳥のササミを食べ終わって私に頭を擦り付けながらゴロゴロと喉を鳴らしている。かわいい。ってこんだけ私に懐いているということは私と同一の体を持つマルチナさんのペットであること確定だよね。
それとさっきからどうも違和感を感じているのは、私の中にマルチナさんの感情というか気持ちがちょくちょく湧き上がって来る。そんな感覚があるんだよね。
元々依り代を頂いた経緯もあり基本知識や能力も共有させてもらったのでマルチナさんにはかなり親近感はあるんだけど、さっきボブと出会ってから自分らしくない感情の動きが頻繁に観測されるようになった。
これはマルチナさんの基本知識を転写する時に関連するエピソード記憶や感情、それに紐付いた人格の一部も転写されている可能性があるな?
それが本来のマルチナさんと寸分違わない全く同一な依り代に自然に急速に馴染んでいったと。で、ボブとの出会いがトリガーになってマルチナさんの人格の一部が休眠状態からアクティブになったというわけか。
つまり私は私であると同時に一部はマルチナさんであるとも言える。と考えても全然嫌じゃないな。むしろ当然のことだしマルチナさんの救出に早く取り掛かりたいと思ってるし。ふむ。
丁度いい。マルチナさんの救出のために必要な情報をボブが知っているかも知れない。ボブに人の言葉を教えてみよう。
「精神構造干渉 人間言語 マルチナさんから複写!そしてボブに転写!」
更にっ
「神域干渉 及び 精神構造干渉 思考強化 神域から複写!そしてボブに転写!」
更に更にっ
「神域干渉 及び 精神構造干渉 念話 神域から複写!そしてマルチナさんに転写!」
最後にっ
「精神構造干渉 念話 マルチナさんから複写!そしてボブに転写!」
名前 ボブ
種族 リンクス(女性)
年齢 3 体力F 魔力F
魔法 暗視1念話5
身体強化 筋力1跳躍1思考強化5
称号 マルチナのペット
名前 マルチナ
種族 人(女性)
年齢 15 体力G 魔力F
魔法 水弾5光弾5ステータス5
暗視5遠視5隠密5浄化5
探知5魔法防御5念話5
身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5
睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5
反応速度5防御5
称号 亜神(時空)の一部となっているマルチナの分身(劣化)
よし。ボブと私の中のマルチナさんに必要な魔術を転写できたね。ちなみに人間言語は魔術じゃないからステータスには表記されないよ。ってか、マルチナさんの称号が変化してる!
「亜神(時空)の依り代」
↓
「亜神(時空)の一部となっているマルチナの分身(劣化)」って凄く分かりやすいけど!
ふう。ちょっと落ち着こう。それじゃ行くよ、ボブ。「念話!」
『ボブ、聞こえる?』
山猫ボブは眼を見開いて周囲を鋭く見渡す。警戒している。
ボブの背中を優しく撫でながら抱っこして目を合わせゆっくり瞬きしながら話しかける。
『ボブ、あたしだよ。マルチナだよ』
『マルチナにゃ? 知ってるにゃ』
『そっか知ってるか♪ マルチナだよー♪』
『どうしたにゃ』
『ボブに聞きたいことがあるの。教えてくれる?』
『にゃ』
『ボブどうして怪我してたの? 誰にやられた?』
『さっき角のある兎が突然ぶつかってきて目が見えなくなったにゃ』
『怪我する前は何してたの?』
『あっちから逃げてきたにゃ』
『あっちには何があったの?』
『お腹空いたにゃ なんか欲しい』
『分かったよ。美味しいもの上げるから食べたら教えてね』
『早く欲しいにゃ』
ボブの希望に応えて猫のオヤツを作る。
物質創造『ネコてゅーる』
自分は猫飼って無いから経験は無いけど、食い付きが良いとネット動画で見た事があるのだ。スティック状パウチから絞り出すゼリー状猫オヤツである。マグロ風味である。
「うにゃうにゃうにゃうにゃーー」
ボブはスティックから絞り出した猫オヤツに食らいついた。目がイっちゃっている。大丈夫かなぁ、ちょい不安。
以下、聞き出すのに大変時間がかかったので結果のみ。
ボブに聞いた内容は。
①洞窟にマルチナさんを含む何人かの人と住んでいた。
②その前は凄く快適な場所でマルチナさんと過ごしており美味しいものを食べては寝る幸せな暮らしだった。
③2日前に騒ぎがあってマルチナさんとは逸れ、一匹でこっちの方に逃げ出した。
④昼は暑いから日陰で休み夜にさまよっていたら角のある兎に突然攻撃されて目が見えなくなり動けなくなった。
⑤しばらくしたら身体が治ってマルチナにご飯もらえて幸せ。
思考強化5って常時発動じゃ無いのかな。今度ボブに聞いてみるか。聴き取りの時間かかるのもしょうがない。猫だからね。3歳児だし。
しかしボブを怪我させたのはあのホーンラビットの野郎か〜。討伐しておいて正解だったよ。
「よし、早速あっち(だいたい北)に向かって洞窟を目指すよ。ボブおいで!」
ボブがピョーンと私の胸に飛びついて来るのをふわっと捕まえて胸の前に抱く。コイツは道を覚えてないので先導できないから私が抱いて走った方が早いのだ。
「探知5」を最大距離で。「暗視5」「筋力5」「持久力5」「衝撃耐性5」を多重発動しながら洞窟目指して走って行く。ボブが夜だけさまよって移動した距離だから大して遠くないでしょ。
MP amount 92/100 remaining time 287
わー、いかん、いかん! 5分持たないじゃん。魔力消費デカすぎ!魔術停止!
「探知1」「暗視2」「筋力2」「持久力2」「衝撃耐性2」とレベルダウンさせて多重発動する。魔力消費はどうなった?
MP amount 91/100 remaining time 67804
これなら19時間くらい持つので良いでしょう。
では改めて洞窟を目指して出発!
♢♢♢♢
暗い海? の底を漂っている。上下の感覚が無いからどっちが上なのか分かんないけどキラキラと光が煌めき波打っているように見える平面が遠くに見える。
あっちが水面かな。その方向に行きたいと願えばゆっくりと移動しだした。
やがて水面に手が届き水中から飛び出たいと強く願うと唐突に視界が開けて私は荒野に立っていた。
なのに身体の自由が効かない。口を開いて喋ることも視線を移動することすら出来ない。日差しは強いけど暑さも眩しさも感じない。ただ不思議なことに焦りも恐れも感じない。
水面に浮かんで何も考えずにただただ空を見上げ続けるように。
無風の湖の静止した湖面のように穏やかで変化のない時間。
この体は誰かあたしの知らない人が操っているみたい。
アレキサンドライト帝国南部に広がる半乾燥高原地域アンバー高原。あたしの居るのは多分そこだ。この地形なんか凄く見覚えあるし。あの山とか。そういえばこの近くに自分の大切な人達が居たような気がする。
僅かな焦燥を一瞬感じたけど直ぐに穏やかな気持ちになった。何か分からないけど幸せな気持ちがする。体を操っている人もなんか大好きな気がする。任せたよ。名前のわからない人。
暫くすると名前のわからない人が声を出した。これあたしの声だよね。
目の前に漆黒の円板が出現してあっという間に空中に浮かぶ洞窟が出現した!
その後は何回も昼夜を繰り返したが相変わらず体の自由は効かず名前の分からない人は何やら物を作ったりボーッとしてみたりご飯を食べたりしている。
この人が食べる物や作る物は中空から突然出現する。水とか土とか上級者なら金属をも生み出すことが出来るけど食べ物や精密な加工品を生み出す魔法は見たことも聞いたこともない。
ある夜に珍しく空中の洞窟から出て歩いたり走ったりしている。唐突に正体不明の遠距離攻撃を使ってホーンラビットを一瞬で倒した。そのあと別の獲物に向かっている。
それを見た瞬間思い出した!ボブだ!あたしの大切なボブがひどい怪我をしている!名前のわからない人お願い、ボブを助けて!
信じられないような魔法でボブはあっという間に完全に回復した。凄い魔法だ。
保有者が少なくて希少な回復魔法。
本人の自然回復速度を加速させるだけで自然には治らない病気や怪我の場合は回復できないどころか死亡させてしまう事がある難易度の高い魔法。
レベル5ともなると欠損部位再生が可能となるが再生に長時間を要し必要魔力も多大。
再生中は細かく経過を確認しながら微修正を適切に行わないと失敗する超高難易魔法。
この人は神さまなのかな。そう言えば空中から見たこともない食べ物や日用品を生み出すとか神さまだから出来ることかもしれない。
一瞬の頭痛を覚えた直後。ななんとボブが喋り出した!ボブ、そんな声してたの〜。
そうだよ私の大切な人達がまだいたんだよ!お願い名前のわからない神さま。私の大切な人達をお助け下さい!
ありがとうございます。こっちです。見覚えあります。あの山の方向。10メートル程の高さの崖に日差しと雨露をしのげる窪みがあるんです。そう、そこです。
♢♢♢♢
私はボブを左腕で抱っこしながらマルチナさんが住んでいたという洞窟を探して高速走行していた。荒野は人の手が入っていないにもかかわらず、土が露出している部分が多く平坦で滑らかなためかなり走り易い。
ボブのよく分からない説明でも、不思議とこの方向で合っているという確信がある。亜神(時空)であるうえに、天才でもあるのか。困ったなぁ。
見つけた! 崖下の洞窟? を発見!
探知で大型生命体2を検知!
減速して念のためカイトシールドを取り出そうとマイホーム開口部を展開しようとしたらボブが私の胸を思いっきり蹴って飛び降りて、洞窟に向けてダッシュした。
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