第89話 左大腿骨転子部骨折

 病院に到着すると、施設のスタッフの方が待っておられ整形外科へ案内された。

受付で名前を告げるとすぐに中に入るよう促され診察室に案内された。

 診察室に入ると母の検査はすでに終わっていたようで先生から検査結果を聞かされた。レントゲン撮影した画像を見ながら「左大腿骨転子部骨折です。以前骨折した反対側の全く同じ場所」と画像を示して説明された。「今日の夕方手術をする」と言われ色々なリスクを説明され高齢なので何が起きるか分からないので覚悟をしておいて下さいとも言われた。数十分前までは思ってもいなかった出来事に頭の中は困惑していた。

 続いて看護師さんから入院の説明や手続きの書類を渡されて記入するよう促された。私は言われるままにそれぞれの書類に記入をしていった。全ての手続きが終了した時は十五時になっていた。この間、母とは一度も対面していなかった。母はどうなっているのだろうと思っていると隣の部屋で手術用の衣類に着替えをしてもらっている母の姿が見えて体を動かす度に「痛い、痛い」と言っているのが聞こえてきた。可哀そうにと思ったがどうしてあげることも出来ない。


 手術は十六時から行われることになった。それまで約一時間あったので入院に必要なものを準備するため一旦家に帰った。殆んどはレンタルで間に合わせるが今飲んでいる薬と肌着や紙オムツ等は準備し急いで病院に戻った。

 手術室に入る前の少しの時間、母と面談できた。母に「手術、頑張ってね」と言ったけど、状況がよく分かっていないのかきょとんとしていた。でも元気そうな顔で安心した。あとは手術が成功することを祈るだけだ。


 手術は約四十分位かかった。主治医の先生から「無事手術は終了してお母さんは元気にしておられます」と言われた時はホッとした。十分くらいして手術室から出てきた母は意外と元気そうで何が起きているのか分かっていないようだった。のんきな顔をしていた。ほんの二~三分顔を合わせただけで母は病室の方に連れていかれてしまった。コロナ禍なのでもう面会も出来ず、時々持っていく着替えも看護師さんに手渡すだけで母には会えるわけではない。母はこの状況を理解できているのかいないのか、大丈夫だろうか、不安になったがもう病院に任せるしかない。約一ヶ月の入院予定となった。翌日からはすぐにリハビリも始まるらしい。何とか頑張って欲しい。


 家に帰ってからも動揺していてなんか落ち着かなかった。緊急連絡先にした姉達や長男に連絡を入れたりした後はドッと疲れが出た。母は高齢なのでいつ何が起こるか分からないと頭では分かっていたつもりだったけどやっぱりショックは隠せない。

 疲れているのに床についても頭がさえて殆んど眠れなかった。

 

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