第2話 突然の脳梗塞

 母に介護が必要になったのはある日突然である。

私はその頃ある知的障害者施設の支援員の仕事をしていて早出、遅出、日勤、夜勤、夜勤明けのシフト制で勤務がまちまちであった。


 忘れもしない二〇一五年、十一月二十六日、私は夜勤明けだったが真っ直ぐ家に帰らず疲れた体を癒す為、隣町の温泉に行き露天風呂に浸かり空を見上げて「あぁ~、なんて幸せなんだろう」と心身共に満たされた気持ちでいた。

その後、母の待つ自宅に帰り洗濯など細々とした家事をこなし昼食を母と一緒に済ませていつものように仮眠しようとしていた。


 丁度、その日の午後一時から何らかの手続きの為、郵便局員さんが母を訪ねて来られる予定になっていたので私はそれを待って郵便局員さんにお茶を出し「それでは少し休んできます」と言ってその場を立ち去った。

 疲れた身体を休める為二階の寝室に行き横になって正に眠りにつこうとしていた矢先、私の携帯が鳴った。着信先は先程我が家に訪れた郵便局員さんだった。

「何だろう?」と不思議に思い携帯に出ると「お母さんの様子がおかしいので来て下さい」と言われる。

母は何年か前から腰やお腹から足にかけて痙攣と言おうか発作と言おうか原因不明の激痛が走る病に侵されていたので又例の痙攣が起きたのかと思い急いで一階に降りた。


 母は座ったまま意識がもうろうとしていて声掛けにも反応がない。

これはいつもと違い様子がおかしいと思い直ぐに救急車を手配した。

郵便局員さんにはお礼を言ってそのまま帰って頂いた。

 まもなく救急車が到着し母は近くの総合病院に運ばれた。

車中にて意識が戻ったようだが直ぐに脳神経外科に通され検査が行われた。

色々な検査の結果『脳梗塞』と診断されそのまま入院となった。

病名はよく耳にしていたが「まさか母が?」と驚くと共にこれから母はどうなっていくのだろう?

麻痺が残るのか?

記憶は確かなのか?

色々な不安が脳裏をかすめる。


 検査が終わった母の元に行く。点滴中の母に「自分の名前が分かる?」と尋ねると時間をかけて考えながら「い・ま・い・す・ず・え」と言えたので自分の名前は分かるんだと少し安心する。

医師からは「手術をするほどの緊急性はないので点滴をしながら落ち着いたらリハビリを開始する。約一ヶ月位の入院になるだろう」との事だった。


 午前中、温泉で幸福に浸っていた自分と母の突然の病に奈落の底に突き落とされたような今の自分とのギャップに困惑しながら慌ただしく入院の手続きや準備を淡々とこなしている自分。

何か不思議な感覚だった。

この日を境に母と私の生活は一変したのである。

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