第125話 母と過ごす時間 (3)

 母が自宅で過ごす最後の一日という事もあるが、母が姉の名前を言って元気でいるか心配していたので、いい機会だと思って姉にオンラインで繋いでテレビ電話で話してみることにした。

 母に「わかる?」と尋ねたら分かったような分からないような微妙な感じだった。やはり母には直接会うのとは違って分かりにくいようだったが、なんとなくは分かってもらえた気もする。姉の方は画面越しに母の姿が見れて喜んでいた。

コロナ禍で会えなくてもこうしてテレビ電話で繋げることができるのは有難い。

短い間だったがオンラインで話をして過ごした。


 最後の一日はあっという間に過ぎていった。

夕飯を済ませ、母の口腔ケアやパジャマの着替えをしたら、私もホッとした。

自宅最後の夜、母はベッドの上でゴソゴソしていたので、なかなか寝てくれないかもと、思っていたが、私も寝る時間になったので

「すずちゃん、おやすみなさい。今日一日ありがとうございました。明日も宜しくお願いします。私も今から寝るので、すずちゃんも寝ようね、電気を消すよ、おやすみ」と言ったら母も

「おやすみ」と言ってくれた。

常夜灯だけにすると

「暗くなったのぅ」と言っていたが暫くすると寝息が聞こえてきてすぐに眠ってくれた。

私もすぐに寝ようと思ったが、何故かなかなか寝付けなかった。

夜中にも何度も目が覚めて寝た気がしなかった。

ところが母はぐっすり寝てくれて朝の5時半頃まで全く起きなかったのだ。

最後の最後、母は私を困らすことはなかった。


 翌朝は、施設の職員さんがいつものように迎えに来て下さることになっていた。当面の着替えなどを母を迎えに来て下さった時に預けて、他の荷物は後から届けることにしていた。

母の支度は済ませていたが、施設の職員さんがいつもより早めに迎えに来て下さり、少し慌てた。あまり職員さんを待たせたはいけないので、母をすぐに玄関まで連れて行った。

本当は、迎えに来られる前に、母としっかりハグしておこうと思っていたのに、予定が狂ってしまい残念だったが、仕方がない。早く玄関まで連れて行かなければと思うとハグする余裕がなかった。

母を車椅子に乗せて下さり、駐車場まで行く時、私も付いて行った。

「母を宜しくお願いします」と職員さんに言うと

「承知しました。お母さんのことはお任せください」と笑顔で言って下さった。

車に乗りこんだ母に手を振りながら見送ると母も手を振り返してくれた。

車が見えなくなるまで見送った。

ホッとしたような寂しいような複雑な気持ちだった。


 施設と書類を交わした時に、七月からは同居家族に限り、予約制で十五分間だけ直接面会ができるようになったとのことだった。

一週間前からの検温記録の提示条件で可能との事。

姉達や子供達、孫達とは今まで通りガラス越しの面会ではあるが、私だけでも直接面会が可能になったのは嬉しかった。

できるだけ母に会いに行こうと思った。

そして母が施設で穏やかに過ごしてくれる事を私は只、祈るのみである。


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