第112話 娘家族とガラス越しの面会
三月十八日(金)、娘が小学生の孫二人と一緒に、我が家にやってきた。
孫の通う小学校が卒業式で在校生は休校になった為、急に思いついて遊びに来たのだ。
お正月は帰省しなかったので、今年になって初めての帰省である。
十時頃、我が家に到着し、急に賑やかになった。
お雛祭りはとうに過ぎているが我が家はまだ、お雛様を飾ったままなので、記念に、お雛飾りと一緒にセルフタイマーで写真撮影を行った。この間来た次男家族とも記念撮影をしていた。この記念撮影は我が家に子供達家族が来た時の恒例である。
いつもは母も一緒に撮影するが、今年になってからは一緒に写真が撮れず残念である。
折角、来たのだから母にも会いに行こうという事になり、施設に連絡し、面会の了解を得た。
私は昨日、病院の受診で会ったばかりだったが、娘や孫達が会いに行けば、きっと母は喜ぶだろうと思った。
何といっても、娘とその孫とが実家に来る回数が一番多いので、その分母とも一番関わりが深いからだ。
十時四十分頃、施設に到着し、前回と同じように、検温をして書類に記入していると、玄関のドアの所まで、職員さんが車椅子に乗せた母を連れて来て下さった。
外はあいにくの雨だったので、屋根のある玄関前でのガラス越しの面会となった。
驚いたことに母は、昨日とは打って変わって頭がしっかりしており、娘と孫の姿を見たら大喜びをして、娘の事も孫達の事も分かっているようだった。
娘と孫達が代わる代わるに「おばあちゃん、○○よ、分かる?」と名前を名乗って呼ぶとそれに反応して「元気でおったん?」「分かるよ」と言うのだ。
そして私に対しても「家に帰りたいよ、連れて帰って!」と訴えてくるのだった。
又、目の下に手を置いて泣いているようなジェスチャーをするのだ。
面会の合間には何度か立ち上げって私達に近づこうとする。
これまでの母の様子と違うので私はびっくりした。
今までは、ガラス越しの面会をしても、そんな素振りは一度も見せたことがなかった。
昨日だって、病院でずっと一緒に過ごしたのに、気のない素振りだった。
娘が「私や子供達を見たら思い出したんじゃないの」と言ったが、もしそれが本当なら、私の娘と孫達の偉大な力を見せつけられた気がした。
それか、母がたまたま今日は頭が冴えていたのかもしれない。
家に居る時も、全然分からない事を言ってみたり、しっかりした事を言ってみたりしていた。
私は母がしっかり思い出してくれたことは嬉しかったが、連れて帰ってあげられない事で今度は胸が痛んだ。
これまでそっけない母に対し少し淋しい気持ちはあったが、施設に預けている以上、母にとっては分からない方が良いという安堵感もあった。
あまり長居も出来ないので、最後は「バイバイ」と手を振って、ほどほどの所で面会も切り上げたが、ちょっと母の反応に後ろ髪引かれる気分だった。
私達が帰った後、母が淋しい思いをすることなく、すぐ忘れてくれたらと思いながら、施設をあとにした。
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