第26話 母、八十九歳になる

 二〇十九年三月二十七日、母は八十九歳の誕生日を無事迎えることが出来た。その頃には夜一人でポータブルトイレを使用できるようになっていた。私は一緒の部屋に寝ているとどうしても寝不足になるのでその頃から別の部屋で寝るようにして夜間時々様子を見に行くようにしていた。段々と入院前の生活が出来るようになり私の心にも余裕が持てるようになってきた。


 今まで母の誕生日は家で過ごしていたが施設でお祝いをして頂けるので今回はデーサービスを利用した。デーサービスから帰って来た母は施設からアイボリーの長めのカーディガンと淡い花柄のスカーフをプレゼントして頂き喜んでいた。母の担当の方は二十代前半の若い方でその方が選んで下さったようでさすが若いセンスのプレゼントだった。家では二人だけでささやかな誕生日のお祝いをした。

 母とこうやって家で誕生日のお祝いが出来るのはいつまでだろうか?いつまでも母の念願通り最後まで家での生活が出来ます様にと心の中で私は祈っていた。「次の目標は九十歳だね」と私が言うと「お父ちゃん(夫)が九十一歳まで生きたんじゃけぇそれまで生きんにゃいけんよ」と負けず嫌いの母は笑って言うのだった。

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