第73話 日向ぼっこ

 十月に入ってもここの所秋晴れの晴天が続き外に出るとまだ暑いくらいだが朝夕はめっきり涼しくなってきた。

日中、家の中にいると冷暖房が必要のない過ごしやすい時期となった。

午前中はまだ肌寒く感じる時もあるがそんな時は縁側に陽射しが入りポカポカ暖かいので母と縁側で日向ぼっこをしている。

縁側は中廊下より少し広めの通路になっていてその縁側の奥に丸いテーブルと籐椅子を置いている。

母に籐椅子に座ってもらい外を眺めたりする。

すぐ前は田んぼでその向こうに今は空き家になった家が建っていて更にその向こうは国道が走っている。

すぐ前の田んぼは持ち主が不在の為荒れて草ボウボウなので眺めが良いとは言えないがそこに座って外を眺めると何故か落ち着くのだ。

頻繁に行き来する車を只眺めているだけでも面白い。


 たまにはここでコーヒータイムを楽しむ事もある。

母は施設で十時はコーヒー、三時はお茶(暑い時は冷たいジュースが出る事もあるらしい)とおやつが出るようなので家でも十時はコーヒー、三時はお茶で一息ついている。

最近の母とは会話のキャッチボールは成り立たない。

「今日は天気で気持ちがいいのでここでゆっくりしようね」と言えば

「今日は仕事に行く日か?」と聞いてくる。

「今日は仕事は休みだよ」と答えると

「そんならここに置ったらいけんのう」と、ほぼ一方通行の会話。

母は施設に行く事を「仕事に行く」と言っている。

以前、施設でタオルを畳んでいると聞いていたので

「仕事は何するの?」と聞いてみるとこれには反応して

「タオルを畳まされる。働かされる」と言う。

「いいじゃない。職員さんは喜んでくれるよ。役に立てて良かったね」と言うと

「働かん人もいるのに私ばっかりやらされる」と、ご立腹。

やらされるって一日中やってる訳じゃあるまいし、仕事の話、振るんじゃなかった。

美味しいコーヒータイムもまずくなっちゃうよ。

「今日は家で日向ぼっこが出来て良かったね」と丸く収めておいた。

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