第2話  有月、地元に帰る

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「久しぶりだなぁ」


 春の日射しが心地よい三月下旬、俺――有月ありつきゆうは、駅のホームに降り立った。


 東京から故郷に戻るのは、十年ぶりだろうか。高校を卒業し、上京。

 中堅食品メーカーに就職したはいいものの、その仕事量は膨大で、控えめに言ってブラックでダークでビターな企業だった。

 地元にも帰る暇などなく若さとやる気でなんとか頑張ってはきたが、半年前に過労で体を壊し休職した。


 会社には引き留められたが、結局退職することにした。人生をリセットするいい機会だと、こうしておよそ十年ぶりに地元に帰ってきた次第である。


 とそこで――



「きゃっ」


「あ、すいません」


 女子高生とぶつかってしまった。正確には向こうの方からぶつかってきたのだが、無職のおっさんと女子高生の社会的地位ヒエラルキーを鑑みて、こちらが下手に出ることにする。


「申し訳ない」


「いえ、私が悪いんです。よそ見してて……ん?」


 大きな瞳が俺を見上げる。吸い込まれそうなほど澄んだ、茶色い瞳。


(うっ……)


 息を呑むほどの美少女とは、彼女のことを言うのだろう。


 茶色いロングの髪をまとめ、左肩に垂らしている。透き通るような白い肌に、桃色の柔らかそうな唇……いかんいかん。


 見知らぬJKと必要以上に接触することは社会的死に繋がる。

 

「あの――」


「じゃ、じゃあ俺はこれで」


 俺は逃げるように改札を抜け、駅を出る。



 *



 胸のドキドキが治まらない。



 何年ぶりだろう。最後に会ったのがあの人の卒業式の三日後だから……



「十年ぶりですね」


 あの様子だと気づいていないようだった。こっちはすぐに分かったというのに。


 有月の消えた人混みを見つめながら、未夜は小さく息をついた。

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