第18話 歴史は繰り返す
1
「ふひひ」
ベッドに仰向けになり、星座占いの本を掲げる未夜。
「えへへ~」
これでもか、というくらい折り目のついたそのページを眺め始めて、いったいどれくらいの時間が経っただろうか。全く飽きが来ない。
『てんびん座の男の子とかに座の女の子の相性は九十パーセント』
『まさに神が愛した二人』
「ふへ、えへへへへ」
こんな旬の過ぎたスピリチュアルタレントの出した占い本に信憑性など全くないことは頭では分かっているが、それでもそこに並んだ文字を眺めていると、顔のにやつきが抑え切れなくなる。
(勇にぃもどぎまぎしてたし、結果オーライだよね)
誕生日を教えたのにこちらの正体に気づいてくれなかったことに多少の怒りと悲しみは感じた。
が、人間とは不思議なものである。
嘘っぱちだと分かっている占いの結果を見ただけで、そんな負の感情は吹き飛んでしまった。
なるほど、占いにハマる女子の心理を少しだけ理解できた未夜であった。
「――ぇ」
ただ、これがゴールではない。この占いにあるように、障壁を乗り越えなくては二人の仲はそもそも進展しないのだ。
「――ねぇ」
どうやって、気づかせよう。今回は割と攻めた一手だと思ったのだが、それでもあの鈍感は気づかなかった。
ただあまり露骨なヒントを与えてしまうとなんだかこっちが必死みたいに思われるし――事実必死なのだが――、もっとこう、巧い作戦を練らなくては。
「おねぇってば!」
「ひゃっ」
本を取っ払われ、代わりにぷんぷんとほっぺたを膨らませた妹の顔が視界に入った。
「あっ、
春山未空。未夜の九つ年下の九歳児である。長い茶色の髪をローツインにまとめ、少し大きめのシャツと短パンを合わせている。
「どうしたじゃないでしょ、ご飯の時間だよ。さっきから何回も呼んでるのに。気持ち悪い顔して全然聞かないんだもん」
「き、気持ち悪いって」
「早く、ママが怒るよ」
「わ、分かったよぉ。それ、返して」
未空はひったくった本をぱらぱらとめくり、
「おねぇ、彼氏なんかいたことないのに、こんな本読んで意味あるの?」
「むっ」
子供は歯に衣を着せないから恐ろしい。こちらが傷つくようなことをピンポイントで放ってくるのだ。
別に彼氏がいないわけじゃないし。
好きになれるような男の子が身近にいなかっただけだし。
今は違うし。
「そ、それは子供が読むものじゃないの。返しなさい」
「こんなの子供だって信じないって」
こ、このクソガキぃ。
昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんってくっついてきて可愛かったのに、最近はなんだかいちいち反抗してくるというか、張り合ってくるというか。
「ほら、そんなことより、晩御飯だって」
本を閉じ、ぽいっとベッドの上に放り投げると、未空はぱたぱたと走り去っていった。
「もうっ」
2
「全く、未空は」
食後、自室に戻るとスマホの通知ランプが光っていた。確認してみると、メッセージが入っている。
「誰だろ」
ベッドに倒れ込み、メッセージアプリを起動させる。
『勇にぃ帰ってきたって本当?』
先ほど有月が帰ってきたという報告をしておいたのだ。
返事を返す。
『本当だよ』
すぐに既読がついた。
『マジか。じゃあ明日行ってみるよ』
明日?
『ちょっと待った』
メッセージを送った後、未夜は慌てて電話をかける。行くはいいが、未夜の情報はシャットアウトしてもらわねば。『未夜に聞いたよ~』なんて話されたら、全てがぱぁだ。
「あ、もしもし? 眞昼?」
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