第4話 どうして気づいてくれないの?
1
「ない、ないぞ」
部屋やバッグの中をさがして回ったが、財布は見つからなかった。
「あっ」
さっき駅で女子高生にぶつかったときに落としたのかもしれない。
今さら行っても無駄かもしれないが、もしかしたら落とし物として届けられているかも。俺は家を飛び出した。
「きゃっ」
「いたっ」
塀の死角から急に誰かが飛び出し――飛び出したのはこちらだが――、またしても俺はぶつかってしまった。
暖かく柔らかい感触が服越しに伝わる。
「す、すいません。あれ?」
見ると、先ほど駅で出会った少女だった。
相変わらず、こちらが緊張してしまうほどの美少女。まさか一日に二回も同じ相手とぶつかってしまうとは。運がいいというか、悪いというか。
「あの、これ」
少女はおずおずと何かを差し出す。
「あ、俺の財布。あなたが拾ってくれたんですね」
少女は無言で頷く。
「いやぁ、ありがとうございます。そうだ、何かお礼を」
「いえ、いいんです。それより」
「それより?」
じっと、少女が見つめてくる。
おとなしめの、文学少女といった雰囲気の彼女は何も言わずにただ俺を見上げている。
なんだろう。ひどく懐かしいような、腹が立つような、不思議な感覚だ。
ん?
腹が立つ?
恩人に対して何を考えてるんだ俺は。
失礼にもほどがある。
でも、この子の目……
「あの……いえ、やっぱりなんでもありません。お財布、たしかに届けましたから。そ、それじゃ」
そうまくしたてると、少女はおぼつかない足取りで走り去ってしまった。
(……足遅いな)
せめて名前と学校を聞いておくべきだったな。いや、不純な動機とかじゃなく、お礼をしたいから。
それにしても、と思うのは、
「どうしてあの子、俺の住所が分かったんだろう?」
免許証の住所は東京のままだし、そもそも俺はこっちに戻ってきたばかりだ。
「……?」
*
「ああ、もう。どうして気づいてくれないの、はぁはぁ」
久々の全力疾走で息が切れてしまった。
未夜は立ち止まり、大きく息を吸った。
気づいてほしい。できるなら、自分から名乗るのではなく、向こうから気づいてほしい。
「……ばか」
幼い頃の思い出が蘇る。
物心つく前から、ずっと一緒に遊んでもらっていたっけ。
「懐かしいな……!」
はっ、と思い出す。
小さい頃の数々の
若さゆえの過ち。
黒歴史。
クソガキだった頃の自分。
あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になる。
「私、ばかぁ」
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