第5話  クソガキ、仲間を呼ぶ

 1


「勇、ごろごろしてるんなら店の手伝いしな。可愛いお客さんだよ」


「わーったよ」


 我が家は喫茶店〈ムーンナイトテラス〉を営んでいる。

 内装はログハウス風で店の外にはテラス席も設えてあり、客の入りは割と良い。

 部活が忙しく、なかなかバイトをする機会がないため、たまに店の手伝いをして小遣い稼ぎをしている。



「うん? 可愛い?」



 なんだか嫌な予感がする。


 従業員用のエプロンを身につけ、店に出る。



「おっす、勇にぃ」


 奥のテーブル席に陣取る三人の少女。そのうちの一人――未夜が身を乗り出す。


「おう」


「今日は友達連れてきてやったぞ」


「誰も頼んでねぇぞ」


「こんにちは」

「こんにちは」


 残る二人の少女は、一度互いに目を合わせてから挨拶をした。


「ああ、こんにちは」


「こっちのショートカットが眞昼まひるで、こっちの眼鏡かけたのが朝華あさか


 眞昼はよく日に焼けた、ノースリーブの少女だ。対する朝華は長い黒髪にフリルのついたワンピースといった、おとなしそうな少女である。


 三人ともクリームソーダを注文し、携帯ゲームに興じているところのようだった。

 未夜も普段は生意気だが、こうして友達とはしゃぎながら遊んでいるところは微笑ましい。


 さて、仕事に取りかかるか。


 席を離れようとしたところで眞昼が俺を見上げて、






「ふうん、こいつが未夜の手下か」






 ん?





「ちょっと、眞昼ちゃん、大人の人にそんなこと言っちゃダメだって。怒られるよ」


 朝華が言う。


「でも、未夜の手下ってことは、未夜の友達のあたしたちの手下ってことだよ」


「え、そうなの。あっ、そっか……」


 そっか、じゃない。納得するな。


「待て待て、おい未夜。お前、友達に俺のことどんなふうに紹介してんだ」


「え? なんでもいうこほほひふ」


 未夜の頬をぐにーっと両手でつまんで引っ張る。


「さあ、その先は気を付けて物を言えよ」


「うあうあう」


「なーんだって?」


「こら、ちっちゃい子をいじめるんじゃないの」


「ぐへ」


 母の怒声とともに脳天にチョップが叩き込まれる。


「ほら、さっさと仕事やんな。あっちのテーブル空いたから片付けて」


「本当だ、弱っちぃ」


「ふふん、ザコめ」


「うわぁ、痛そう」


 あのクソガキ、まさか母がいるこの俺が圧倒的に不利のフィールドを選んで友達を連れてきたのか?

 いや、あいつがそこまで頭が回るとは思えん。いやしかし――


「おばさーん、これ飲んだら二階でゲームしていい?」


「いいよ~」


「!?」


 二階って、いつもこいつが二階で入り浸るのは俺の部屋しかない。


 承諾を俺ではなく母に得ることで俺の意思を無視する高等戦術。普通に友達連れで部屋に上がろうものなら追い返されるであろうことを予測していたのか。


「いやちょっと待っ――」


「未夜ちゃんのお友達なんだからいいじゃないの。そんなことより早く空いたテーブル片付けて」


「やったぁ」


 こうして俺の部屋はクソガキどもの溜まり場と化した。

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